こんにちは!ジョージア滞在も2年半、世界半周中ののぶよ(@nobuyo5696)です。
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ジョージアの公用語と言えば、もちろんジョージア語。
この国で暮らす83%の人々の母国語であり、400万人弱の話者数を誇ります。
ジョージア国内の多くの場所でジョージア語が通じるのですが、そのいっぽうで、ジョージアではロシア語が広く通用するというのも有名な話。
ジョージアは、1921年~1991年の70年間に渡ってソ連(ソビエト社会主義連邦)の支配を受けていた国。
ソ連時代に共通語のようなポジションにあったのは、ご存じの通り、ロシア語でした。
1991年に独立を達成してから30年余りが経過した今、ジョージアでロシア語はどのような位置づけとなっているのでしょうか。
一筋縄ではいかない、ジョージア人とロシア語の微妙な関係について、自身の経験や見聞きしたことをまとめてみました。
ジョージア語とロシア語は似ている?
そもそもジョージア語がどのような言語なのか、日本人で知っている人は限られているでしょう。
「旧ソ連圏だからロシア語と似たような言語なのでは?」と思っている人も少なくないのでは…(実際に言われたことがあるセリフ)
結論から言うと、ジョージア語とロシア語は完全なる別言語です。
・ジョージア語:カルトヴェリ語族
・ロシア語:インド=ヨーロッパ語族スラブ語派
「語族?語派?」となる人もいるかもしれないので、単純明快に超ザックリと言いましょう。
ジョージア語とロシア語は、日本語とアラビア語くらい異なります。
語彙も文法も発音も文字も、ジョージア語とロシア語の間には何一つとして関連性がありません。
つまり、ジョージアの人にとって、ロシア語は自分たちの母語と全く異なる「未知の言語」そのもの。
それをある程度マスターし、流暢に話せる人が多いというのは、実はすごいことなのです。
ジョージアでロシア語はどれくらい通じる?
「ジョージアではロシア語の通用度が比較的高い」「でも、若い世代はロシア語を話さない」と言われることが一般的には多いものの、状況はそう単純ではありません。
ソ連時代を経験した世代(=30代以上)と、それ以外の若い世代でロシア語の通用度が大きく異なるのは事実ですが、それ以上に印象的なのが地域差。
ここでは、ジョージアの三大都市(トビリシ/クタイシ/バトゥミ)とそれ以外の地方部、合計四地域のロシア語の通用度について解説していきます。
トビリシのロシア語の通用度
ジョージアの首都・トビリシでは、世代によってロシア語の通用度が大きく変わるのが特徴的。
30代以上の人であればまず100%ある程度のロシア語が通じますが、20代以下の世代ではまったく通用しないことが多いです。
トビリシの若い世代にとっては、第二言語=英語。
学校教育ではジョージア語の次に英語が学ばれますし、観光立国としての将来を見据えてか、英語教育に力を入れている家庭も少なからず存在します。
とはいえ、トビリシであっても英語の通用度はそこまで高くないのが現状。
ロシア語も英語も解さないモノリンガルの若者も少なくありません。
反対に、観光業や接客業に従事する人であれば、世代を問わずある程度の英語を理解する人が多い印象。
英語に加えてロシア語も流暢に話せるトリリンガルも存在します。
世代全体を通してのトビリシでのロシア語の通用度は、70%~80%ほどでしょうか。
クタイシのロシア語の通用度
ジョージア第二の都市・クタイシでは、トビリシに比べてロシア語の通用度がかなり高まるのが印象的。
30代以上の人であれば確実にロシア語が通じますし、若い世代でも流暢なロシア語を話す人が比較的多いのが不思議。
英語よりもロシア語の方が得意だという20代のジョージア人も、クタイシでは珍しくありません。
世代全体を通して、クタイシの80%~90%ほどの人がある程度のロシア語を解すると言えるでしょう。
バトゥミのロシア語の通用度
黒海沿岸のビーチシティー・バトゥミは、ジョージアの中で最もロシア語の通用度が高い町の一つです。
実はバトゥミ周辺は「アジャラ自治共和国」に属しており、ジョージア国内に位置していながらも、トビリシなどとは行政システムが少し異なる地域。
2022年現在でも第二外国語としてのロシア語教育が健在であるため、子供でもある程度のロシア語を話せる場合も。
大人であっても、ジョージア他地域の人よりも格段に流暢なロシア語を話す人も少なくありません。
そもそも、バトゥミの経済はロシア語圏からのリゾート客やロシア人富裕層の投資によってまわっているため、ロシア語の重要度が他地域よりも高いのでしょう。
世代を問わず、バトゥミでのロシア語の通用度は90%以上にのぼる印象です。
その他地方部のロシア語の通用度
三大都市以外のジョージア地方部においては、いまだにロシア語が世界への扉を開くためのツールのような存在。
学校教育ではロシア語を教わらなくとも、ソ連時代を経験した親世代から子世代へとロシア語が受け継がれている印象です。
娯楽が少ない地方部でポピュラーなのが、テレビ。
ジョージア語の番組ももちろんありますが、映画やドラマなどは話者数の少ないジョージア語に翻訳されないものも多く、ロシア語で視聴するのが今でもポピュラーです。
ロシア語ができなければ、こうした娯楽から取り残されてしまうという危機感もあり、家庭でロシア語が学ばれるのかもしれません。
ジョージア地方部においてロシア語が独特のポジションとなっているのが、ジョージア南部のクヴェモ・カルトリ地方とサムツヘ=ジャワヘティ地方。
これら二地域は、ジョージアにおける多民族エリア。
・クヴェモ・カルトリ地方:アゼルバイジャン系住民(アゼルバイジャン語)が多い
・サムツヘ=ジャワヘティ地方:アルメニア系住民(アルメニア語)が多い
ジョージア語とアゼルバイジャン語、アルメニア語はそれぞれ全く異なる語族に属しているため、お互いに意思疎通が不可能。
住民の間での共通語となるのが、ロシア語なのです。
アゼルバイジャンもアルメニアも、ジョージアと同様にソ連の統治下にあった国。
これらの国にルーツを持つ人々はロシア語を話す人が多いので、民族を超えたコミュニケーションツールとしてのロシア語の存在感は、かなり強いものがあります。
ジョージアでロシア語は嫌がられる?
ご存じの通り、ジョージアとロシアの国同士の関係性は、決して良好とは言えないもの。
・アブハジアと南オセチア(ジョージア領にありながらも政府の統治が及んでいない地域)がロシアを後ろ盾として半独立状態にあること
・2008年の南オセチア紛争時のロシア軍による攻撃
・ロシア政府によるジョージアへの航空便の停止
・ソ連による70年間に及ぶ統治
などなど。歴史的・政治的な理由で、両国間の関係には常に緊張感が漂っている印象を受けます。
では、国家レベルでは犬猿の仲だとして、ジョージアの一般の人々の意識レベルにおいて、ロシア語はどのように捉えられているのでしょうか。
ここで覚えておきたいのが、ロシア語を話す/話されることに対する意識は人によって大きく違うこと。
ざっくりと言うならば、ソ連時代を経験した世代ではロシア語に寛容な人が少なからずいて、独立以降に生まれ育った若い世代では忌避する割合が多いです。
また、2022年2月に勃発したロシアによるウクライナ侵攻以降は、ロシアという国家や国民、そしてロシア語に対する風当たりがジョージア全国的に強まっている点も見逃せません。
・ロシア語での注文はいっさい受けない店
・ロシア人は宿泊拒否の宿
・ロシア人は20%割高価格のカフェ
ウクライナでの戦争勃発以降、10万人以上ものロシア人がジョージアに流入してきました。
その結果、たった数ヶ月の間で家賃相場の急騰や物価の急上昇、街でロシア語ばかり聞こえてくる状況となり、ロシア語に対する嫌悪ムードはじわじわと広がっているような印象です。
しかしながら、大多数のジョージア人にとって、ロシア語は外国人とのコミュニケーションツールの一つであるのも事実。
多くの人は、ロシア語母語話者であろうと分け隔てなく対応する場合がほとんど。
私たち非ロシア語母語話者がつたないロシア語でどうにかコミュニケーションをとろうとしているのを、頭ごなしに嫌がる人は珍しいと思います。
ジョージア人もあえてロシア語を使うことがある?
ロシア語を話せる人が多数派でありながらも、複雑な感情を持つ人の割合も多いジョージア。
なんとも微妙な関係のジョージア人とロシア語ですが、ある興味深い現象があります。
それは、ジョージア人同士がジョージア語で会話している際でも、ロシア語の表現が使用される場面があること。
しかも、世代や地域、その人のロシア語の理解度にかかわらずです。
ジョージア語にも同じ意味の表現があるのに、ロシア語由来の言葉の方がポピュラーな場合もあるほど。
簡単なあいさつ表現から、ロシア語話者が口癖のように使う単語まで…ジョージア語に織り交ぜて使われるロシア語表現は多岐に渡ります。
・プリヴェート(Привет):「やあ!」(親しい間でのあいさつ)
・ズダローヴァ(Здорово):「こんにちは」(やや改まった間でのあいさつ)
・パカー(Пока):「じゃあね」(別れの時のあいさつ)
・ハラーショ(хорошо):「良いね」
・バフシェー(во вше):「とにかく」「だいたい」
・カローチ(короче):「つまり」
・ピーヴァ(пиво):「ビール」
これらはあくまでも一例ですが、他にもロシア語由来の表現は多々。
日本で言うカタカナ語のような感覚なのかはわかりませんが、いずれも改まった場で使われることはなく、親しい間柄でのみ使われるのがポイント。
ロシア語がジョージアの人の身近にある言語であることを象徴しているようにも思えます。
まとめ:ロシア語は便利。でも…
ジョージアでのロシア語を取り巻くアレコレについて、自身の経験をもとに解説してきました。
現在のジョージアにおいて、英語よりもロシア語の通用度が高いのは疑いの余地がないこと。
いち旅行者であろうと、少しのロシア語が話せるだけで、旅の難易度は大きく下がりますし、人々との出会いの機会も爆発的に増えます。
一見すると不愛想で、斜に構えた態度の人も少なくないジョージアですが、実は旅行者に興味津々&手厚くもてなしてくれる人が多いのもポイント。
コミュニケーションツールとしてある程度のロシア語が使えるかどうかで、この国に対する印象が大きく変わってくることもあるでしょう。(実体験)
…しかし!
個人的には、せっかくジョージアを旅するなら挨拶ぐらいのジョージア語は積極的に使うのがおすすめ。
どこの国でも共通ですが、「外国人が自分たちの言葉で頑張って話そうとしている」ことを嬉しく思わない人などいません。
ロシア語は「便利ツール」と捉えて、あいさつや簡単な表現くらいはジョージア語を使ってみましょう。
きっと少しの驚きとともに、屈託のない笑顔に出会えるはずですから。
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