こんにちは!ジョージア西部のアジャリア地方にのんびり滞在中、世界半周中ののぶよ(@nobuyo5696)です。
(世界半周についてはこちらの記事へどうぞ。)
アジャリア地方(正式にはアジャリア自治共和国)と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、黒海沿岸のリゾート都市・バトゥミでしょう。

ロシア・マネーのおかげで過剰にも程がある開発の波にさらされたバトゥミ。
石ころだらけのビーチに訳の分からないトンデモ建造物が建ち並ぶ光景は、お世辞にものぶよ好みの町ではありませんでした。
もしバトゥミだけを見て去っていたら、「アジャリア地方は開発されすぎてて、ジョージアらしい良さがない」と判断してしまっていたかもしれません。
しかしながら、海沿いを離れて内陸部に行くにつれて、この地方らしい伝統的な文化や雰囲気が残る「マウンテン・アジャーラ」と呼ばれるエリアがあることは、意外にも知られていないのです。
その最奥部に位置するのが、今回紹介するフロ(Khulo / ხულო)という村を中心とするエリア。

小コーカサス山脈の西端に位置するフロは、緑あふれる谷間にひらけた人口1万5000人ほどの村。
たった80kmほどしか離れていないバトゥミの風景とは全く異なった、青々しい山の風景が印象的です。
そんなフロの最大の名物が、反対側の谷とを結ぶロープウェイ。

一見すると、雄大な自然の中を気持ちよく空中散歩できそうな素敵な乗り物に思えますが、実はこのロープウェイが恐怖でしかありませんでした。

ロープウェイで谷の反対側に渡ると、タゴ(Tago /თაგო)という人口100人ほどの小さな村があり、こちらは一面緑に包まれたジブリの世界。
車がほぼ通行できないため、静寂に包まれた村の風景は21世紀のものではないかのようでした。
今回の記事では、フロのロープウェイとタゴ村の観光情報を解説するもの。
・フロのロープウェイ乗車レポート&詳細情報
・タゴ村の風景
・名物料理が味わえるおすすめレストラン
・フロへのアクセス情報
・プランニングのアドバイス
の5つの項目に分かれています。
観光地化からは程遠い、アジャーラ地方の知られざる一面を満喫しに行きましょう!
フロ最大の観光スポット!恐怖のロープウェイに乗る

フロの中心街にマルシュルートカ(乗り合いミニバス)で到着すると、50mほど先にあるこちらの赤い建物が、名物のロープウェイ。
チケットなどを事前に購入する必要はなく、直接2階の乗り場に行けばOKです。

乗り場で待っていると、可愛らしい赤い車体のロープウェイがゆっくりとこちらに向かってきます。
バックに広がる山々の深い緑色の風景とのコントラストがとても絵になります。
しかし、ロープウェイが近づいてくるにつれ、感動は恐怖へと変わっていきました。

このロープウェイは、ジョージアがソ連の支配下にあった時代に谷の反対側にある陸の孤島・タゴ村とを結ぶ交通手段として敷かれたもの。
観光客向けに整備されたものではなく、タゴ村の住民が買い物などの目的でフロへ移動するためのものです。
その規模はかなりのもので、
・全長1700m
・高さ280m
と、かなりの距離&高さの場所を走るものなのですが、なんと途中に支柱が一切ありません。
つまり、1700mもの距離の最初から最後まで、ロープ一本でぶらさがっている状態なわけです。
そのため、重みがかかる谷の中央部にかけてロープがたわんでいる状態で、風が強い日が多い谷間ではかなり横揺れします。
安全のため、最大で7人までしか乗れないことになっているのですが、それでも多すぎるのでは…。

おまけに、ソ連時代から全くメンテナンスされている雰囲気がないため、車体はボロボロ&ぶらさがる部分は錆びているという恐ろしさ。
入口のドアは最後まで閉まらず、窓は一部抜け落ちているので、外からの谷風がダイレクトに入ってきます(笑)
と、乗車前からかなりの恐怖心をあおってくるインパクト抜群のロープウェイですが、ここまで来て乗らないわけにはいきません。
タゴ村の住人らしき3人(総じてふくよか)とジョージア人の観光客2人(ふくよか)、係のおじさんとのぶよで、最大乗車可能人数である7人MAXで地獄行きのロープウェイが出発です。

初めこそゆっくりゆっくりと動き出したロープウェイですが、すぐに速度が上がります。
こんな満員の状態で、しかも結構風が強い日に、しかもふくよか率高めな旧ソ連ロープウェイは、鈍い速度で横にスイングし始めます。

のぶよは高所恐怖症でもなんでもないのですが、さすがにこの横揺れには恐怖を感じました。
ぶら下がり部分が外れないための安全装置くらい…あるよね?
このロープウェイの何が怖いかって、「落ちたらひとたまりもない高さ」を「横にスイングする不穏な動き&割れた窓から吹き込む谷風」を感じながらの恐怖の空中散歩が「1700m/約10分間」続くことです。
一度乗ったらもう逃げられない。
そんな武士道精神が確かめられる禊のような乗り物なのです。

最後の数分間くらいにはようやく横揺れがおさまり、小コーカサス山脈の絶景を眺める余裕ができました。

10分ほどで、谷の反対側にあるタゴ村に到着したロープウェイを降りながら気が付きました。
「タゴ村には道路がない=帰りもロープウェイに乗らなければならない」ということに。
ジブリの世界そのまま!タゴ村を散策する

人生で一、二を争うほどの10分間の恐怖体験の後にのぶよの目の前に広がったのは、まるでおとぎ話の世界のようなタゴ村の風景でした。
山々の緑に囲まれた小さな小さな集落といった雰囲気で、数十軒の家が建つ他は自給自足用の畑が連なっています。

ロープウェイ乗り場から村の中心地(というか、数軒の民家が密集しているエリア)までは、200mほどの小道を歩いていきます。
伝統建築が残るタゴ村の不思議なライフスタイル

タゴ村に上陸して初めに気が付いたことが、「何一つ音がしない」ということでした。
それもそのはず。
北を深い谷間、南を深い山々に挟まれたタゴ村への唯一の交通手段は、先ほど乗ってきたロープウェイのみ。
かつては谷底を通る道路を整備する計画が進められていたのですが、完遂されることはありませんでした。
獣道状態の細い道は一般車が通れるはずもないほどのもので、いったん雪が降ると4WDでのアクセスも不可能となるそう。
現在でこそロープウェイが村人の足として活躍していますが、こちらも安全上の問題からいつ運休されるかわかりません。
タゴ村では、「ロープウェイが無くなったら、村を捨ててフロやバトゥミなどに移り住む」と考えている人がほとんどだそうです。

そんなタゴ村の中心部は、アジャーラ地方伝統の木造建築が残る素晴らしいものです。

湿度が高いアジャーラ地方では、石造りの建築が主なジョージア東部と異なり、昔から木造の家が好まれてきたそう。
バトゥミなどの大都市ではほとんど残ってはいませんが、タゴ村では7割ほどの家屋が伝統的な木造建築です。

村の中心部に来ると、先ほどまでの無音とは打って変わって色々な生活音が聞こえてきます。
料理を作る音、子供を叱りつけるお母さんの声、牛の鳴き声…
昔から変わっていない風景と人々の生活が、今に蘇ったような印象を受けます。

タゴ村の住民の半分以上は、この村出身にもかかわらず一年中住んでいるわけではありません。
タゴ村だけでなくアジャーラ地方の山村には、ヤルヤ(yalya)と呼ばれる避暑用の家を建てる文化があるそう。
雪がない春~秋の間のみ家族で生まれ故郷の家で過ごし、冬場はバトゥミなどのアパートで生活をするスタイルの人が多いそうです。

もはやジブリの世界にしか思えないような風景の連続に、のぶよの頭の中にはいろんな映画のテーマソングがごちゃ混ぜになった曲が延々と流れていました。
「メ~イちゃんはこごにいなぁ~!」と叫ぶおばあちゃんが出てきそうな気がしてなりません(笑)
どの家々もきちんと整備されていて見ごたえがあるのですが、ぜひ注目したいのがこの地方独特の高床式倉庫です。

黒海沿岸のアジャリア地方とその北のグリア地方・サメグレロ地方などでは一年を通して温暖&湿度が高いエリア。
腐りやすい食材などを地面に触れさせずに長期間保存するために、こうした倉庫が造られるようになったそうです。
この辺りの知識は、全部トビリシの野外民族博物館で学びました。
ジョージア各地方から、実際の伝統家屋を移築した建物がそのまま展示会場となっている素晴らしい博物館で、地域ごとの伝統文化や人々の生活を学ぶことができます。
ジョージアの地方部を旅する前に、ぜひ足を運んでみることをおすすめします!
ジョージアなのに村人はイスラム教徒?自然と共に生きる人々の暮らし

各家庭の軒先では、村での生活を感じられる風景がたくさん。
このエリアの名産であるたばこの葉や、収穫した豆などを天日干ししているものをいくつか見ました。

ロープウェイで渡った反対側の谷にあるフロでは、道端で煙草の葉っぱを売るおじさんたちを数人見かけましたが、もしかしたらタゴ村の人なのかもしれません。

他にも色とりどりの野菜がたくさん実っていて、基本的には自給自足が原則の生活が送られているのでしょう。
日用品や肉類など、どうしても村では手に入らない物をロープウェイで渡った先のフロの商店で購入するのかもしれません。
山の冬は、私たちが思うよりも早く訪れるもの。
この時はまだ8月後半でしたが、多くの家の軒先には冬の暖房用の薪の準備が進められていました。

ジョージアの町や村の多くには教会やチャペルがあるものなのですが、タゴ村にはそれがありません。
その代わりにあるのが、こちらのモスク。

トルコとの国境に近く、歴史的にオスマン帝国の支配が強かったアジャリア地方では、かつて住民の多くがイスラム教に改宗した地域。
バトゥミなどの沿岸部ではロシア帝国時代に再びキリスト教への信仰が戻ったものの、タゴ村のような内陸部の山村ではいまだに住民のほとんどがイスラム教徒であると言われています。
取って付けたような質素な外観のモスクですが、その内装はかなり美しいものだそう。
入場したかったのですが、あいにく誰もおらず鍵がかかっていました。
高台からの絶景

タゴ村の南には、9km先のスハルタ修道院(Skhalta Monastery)まで続く散策コースがあるのですが、なかなか全部歩くのも大変なので、今回はやめておきました。
(スハルタ修道院まで歩いても、戻る交通手段が限られているのもあります)
しかし、修道院までの道を1kmほど登った地点にはビューポイントがあり、タゴ村の全体と反対側の谷にあるフロ村を一望することができます。

人里離れたこの地で、物資も限られている状態での生活には、想像を絶する苦労があることでしょう。
しかしながら、この美しい山々の風景を眺めながらの毎日は、きっと何にも代えられない価値があるのかもしれません。
アジャーラ地方の名物を味わう!フロのおすすめレストラン

まるで夢の中の世界に迷い込んでしまったかのようなタゴ村から、再び恐怖のロープウェイで現実に戻された後は、アジャリア地方の名物料理を味わってみるのがおすすめです。
タゴ村にはレストランの類はなく、フロ村なら数軒の食堂が見つかります。
のぶよがフロを散策していてたまたま見つけた、こちらの“Mate”というゲストハウス兼レストランが結構良い感じでした。
メニューは定番のジョージア料理がほとんどですが、ここまで来たならぜひ挑戦したいのがシロニ(Sironi / სინორი)。

シロニとはアジャリア地方の名物の一つで、ラヴィシと呼ばれる薄いピタパンを細く切ったものにカッテージチーズをのせてくるくると巻いて作ります。
巻いた生地を並べて、大量のバターとともにオープンで焼き上げたらできあがり。
いわば、「ラザニアのトマトが入っていない版」といったところでしょうか。

ほど良い焼き加減の生地には、甘味たっぷりで芳醇な風味のバターが染み込んでとても美味しいです。
チーズは塩気が強いので、あまり大量に入っていると塩辛すぎると思いますが、このお店のものは適量で美味しくいただけました。
しかしながら、アジャリア地方の名物料理の例に漏れず、大胆な味付け&かなり重ためなシロニ。
食後は「もうしばらく食べたくない…」と思ってしまうかもしれません(笑)
このボリュームで8GEL(=¥272)とリーズナブルな価格も魅力的で、生ビールは2GEL(=¥68)と昔ながらのお値段だったのもポイント高め。
家族経営で雰囲気も良いお店だったので、フロを訪れた際には立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
フロへのアクセス・行き方

バトゥミの東80kmほどの山間部に位置するフロですが、このエリアの中心的な村だけあって交通網は意外に発達しています。
ほとんどのマルシュルートカはバトゥミとを結ぶものですが、東に山を越えたアハルツィヘ(Akhaltsikhe)へも道路が通っているので、「頑張れば」移動することも可能です。
バトゥミ~フロ間のアクセス

バトゥミ~フロ間は多くのマルシュルートカが走っていて、とても便利です。
・午前中:1時間に1本(始発8:00、以後毎時正時)
・正午以降:30分に1本(12:00/12:30…と毎時正時と30分)
フロ→バトゥミのマルシュルートカも同様のスケジュールですが、最終便は18:00や17:00など人によって言うことが違うので、少し早めの便を利用するのが良いかもしれません。
(のぶよはフロ発17:00の便を利用しました。)

フロ方面のマルシュルートカが出発するのは、バトゥミ旧市街近くのミニバスターミナルの北側のMayakovsky通りに面した一角からです。
(その辺の人に尋ねれば一発でわかるはず)
アハルツィヘ~フロ間のアクセス

フロの東80kmほどの場所に位置するアハルツィヘ(Akhaltsikhe)は、地図で見ると近いですし、道路も通っているので簡単に移動できるように思えます。
しかしながら、フロ~アハルツィヘ間は未舗装の山道が続く区間で、かなりの悪路であることで有名。
かつては1日1便のマルシュルートカが走っていたそうですが、2020年現在はこの区間を直接結ぶ公共交通機関はありません。
タクシーをチャーターして移動することは可能ですが、先述の通りかなりの悪路なため結構な料金を請求されることとなるでしょう。
こうしたことを含めて、のぶよ的にはフロへのアクセス拠点はバトゥミにしておくのが無難だと思います。
日帰り?宿泊?フロ観光のプランニングのコツ

ミニバスが頻発&所要時間2時間少々ということで、フロは十分にバトゥミからの日帰り圏内だと言えます。
フロはこのエリアで最も発展した村という感じで、町中にはたいした見どころはなく、ロープウェイに乗ってタゴ村を観光するのがメインとなるでしょう。
タゴ村観光に必要な時間は1時間~2時間ほどなので、往復の移動時間を考えても日帰りが十分可能だと思います。
しかしながら、観光エリアから外れたこの地でのんびりと滞在してみるという経験も捨てがたいもの。
フロにはいくつかゲストハウスがあり、格安のホステルも1軒あるので、宿泊に困ることはありません。商店やレストランもあるので、滞在中に不便を感じることもないでしょう。
フロがあるアジャリア地方内陸部には他にもたくさんの魅力的なスポットが点在しているのもポイント。
タゴ村観光&フロに宿泊→次のスポットへ移動というプランも組めます。
のぶよは当初フロにあるホステルに宿泊しようと考えていたのですが、2020年8月現在コロナウイルスの影響で営業していなかったため(&他に手頃な宿がなかったため)、バトゥミから日帰りで訪れました。
帰りのバスのことを考えて、タゴ村の滞在は3時間ほどでしたが、正直もう少しのんびりしたかったと感じます。
ガッツリ見どころを観光!というよりも、伝統的な村ののんびりした魅力を感じたい人は、帰りのバスの時間を気にせずに楽しめるフロに宿泊するプランがおすすめです。
おわりに

あまり知られていない、アジャリア地方山間部のフロとタゴの魅力を紹介しました。
恐怖のロープウェイでスリルを味わったら、昔ながらの生活が残る村で癒される…と、短い時間で対照的な体験をすることができます。.
個人でのアクセスも不便ではないので、これから観光地としてこのエリアが注目されるようになる時がやってくるかもしれません。
そうなって現在ある良さや面白さが変わってしまう前に、自分自身の五感で感じに行きたい。
そんな、素朴な魅力に包まれた美しい場所への旅は、きっと大切な思い出となるはずです!

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