こんにちは!ジョージア山間部にのんびり滞在中、世界半周中ののぶよ(@nobuyo5696)です。
(世界半周についてはこちらの記事へどうぞ。)
以前から、気になって仕方がなかったエリアがあります。
その名も、クヴェモ・スヴァネティ地方(Kvemo Svaneti / ქვემო სვანეთი)。
単に「スヴァネティ地方」と言えば、メスティアやウシュグリなど旅行者に大人気のエリア。
ジョージア観光のハイライトとなるエリアでもあり、知名度はかなりのものです。
いっぽう、「クヴェモ」・スヴァネティ地方を訪れる旅行者は、ほぼゼロ。
ネット上に情報はほとんどなく、観光ブームに乗りまくるジョージアにおいて完全に忘れ去られたような存在となっています。
行政区分的には「ラチャ=レチュフミ、およびクヴェモ・スヴァネティ地方」とされ、お隣のラチャ地方やレチュフミ地方の「ついで」に無理やりくっつけた感がぷんぷん…
実は、クヴェモ・スヴァネティ地方は文化的にも景観的にも、隣り合うラチャ地方やレチュフミ地方とはまったく異なる地域です。
クヴェモ(=ジョージア語で「低い」の意味)・スヴァネティ地方は、メスティアやウシュグリなど有名観光地があるゼモ(=ジョージア語で「高い」の意味)・スヴァネティ地方と同様に、ジョージア他地域とは異なるスヴァネティ文化圏の地域。
食文化も、歴史も、言語でさえもジョージアとは一線を画す、興味深いエリアなのです。
観光地化の波しぶきの一滴さえ到達していないピュアな山岳地域らしさが、クヴェモ・スヴァネティ地方最大の魅力。
手つかずの大自然や、伝統的なライフスタイルで生きる人々の暮らしの中に、どっぷりと浸ることができるのです。
今回の記事は、おそらく世界で初めてクヴェモ・スヴァネティ地方に焦点を当てた観光情報まとめ記事。
「クヴェモ・スヴァネティ地方観光でしたい15のこと」と題して、この未知なるエリアの魅力を様々な側面から紹介していきます。
実際にこのエリアを旅した人間による観光情報は、ほぼ存在しないのが現状。
ジョージアの中でも最も未知のベールに包まれ、訪れる旅行者が最も少ない日陰のエリア。
少しでも興味を持ってもらえたら何より嬉しいです!
- クヴェモ・スヴァネティ地方観光マップ
- ①クヴェモ・スヴァネティ地方最大の町を散策する (レンテヒ)
- ②「心臓破りの階段」の先の絶景を眺める (レンテヒ)
- ③「クヴェモ・スヴァネティ風クブダリ」伝説の店に感動する (レンテヒ)
- ④居心地抜群のゲストハウスでのんびり滞在 (レンテヒ)
- ⑤クヴェモ・スヴァネティ地方の境界の村に癒される(ナゴマリ)
- ⑥ジョージアのワイン文化の境界線の村を訪れる (テカリ)
- ⑦昔ながらの暮らしを味わう (パナガ)
- ⑧クヴェモ・スヴァネティ独自の美しい建築めぐり (ササシ)
- ⑨「ジョージアで最も閉鎖的な村」のオアシスに癒される (メレ)
- ⑩「死にゆく楽園」の秘境感を味わう (ツァナ)
- ⑪「死の楽園」の不気味な美しさを感じる (コルルダシ)
- ⑫天空の教会の聖地感に圧倒される (アッシリアの十三教父教会)
- ⑬二つのスヴァネティ地方の境界線に立つ (ザガリ峠)
- ⑭スヴァン語を使ってみる
- ⑮ジョージア山間部の味覚を堪能する
- クヴェモ・スヴァネティ地方のアクセス・交通情報
- クヴェモ・スヴァネティ地方の宿情報
クヴェモ・スヴァネティ地方観光マップ
紫:ゲストハウス
オレンジ:商店
①クヴェモ・スヴァネティ地方最大の町を散策する (レンテヒ)
クヴェモ・スヴァネティ地方で最大の町が、エリアの西側に位置するレンテヒ(Lentekhi / ლენტეხი)。【マップ 青①】
「最大の町」と聞くと、活気があって人が多くてお店がたくさんあって…と想像してしまいますが、レンテヒは町と言うよりも、大きな村。
「え…これが最大の町…?」と驚いてしまうほどに規模は小さく、端から端まで歩いても15分ほどです。
レンテヒにはこれといった見どころがあるわけではないのですが、クヴェモ・スヴァネティ地方の滞在の拠点としては優秀。
小綺麗に整備された町並みには絶妙な居心地の良さがあり、両側を深い山々に挟まれてどこか神秘的な雰囲気が味わえます。
後の項で紹介する絶景ポイントやグルメスポットを訪れても、レンテヒ観光は数時間あれば余裕。
クヴェモ・スヴァネティの玄関口となる小さな町を、ゆっくりと散策しましょう。
②「心臓破りの階段」の先の絶景を眺める (レンテヒ)
レンテヒの町の北側の丘へと続くのが、地元では有名な「心臓破りの階段」。【マップ 青②】
もはや何段あるのか誰も知らないほどに延々と続く急な階段…
ちょっとした修行となるので、覚悟して挑むようにしましょう。
ものすごい急斜面を登りきると、そこには比較的新しめの教会がぽつりと建っています。
教会自体は歴史深いものではありませんが、その敷地内はレンテヒの町並みすべてを一望できるビューポイント。▼
正直、心臓破りの階段のしんどさは半端じゃないのですが、この風景を見るために頑張って登る価値はあります!
③「クヴェモ・スヴァネティ風クブダリ」伝説の店に感動する (レンテヒ)
レンテヒを訪れたなら絶対に挑戦してほしいのが、クヴェモ・スヴァネティ風クブダリ。
クブダリ(Kubdari / კუბდარი)とは、スヴァネティ地方の郷土料理の一つ。
牛肉をひと口大に切ったものを各種スパイスでマリネし、ニンニクと玉ねぎを加えてソテーしたものを、小麦粉生地の中に包んで焼き上げた料理です。
スヴァネティ地方ならどこでも食べられるクブダリですが、「世界で一番美味しいクブダリ」として伝説的な知名度を誇るのが、レンテヒの西側の町はずれにある一軒の食堂。【マップ 青③】
知らなければ完全にスルーしてしまいそうな外観です。▼
このお店で提供されるのは、一般的なクブダリとはひと味違う「クヴェモ・スヴァネティ風クブダリ」。
メスティアやウシュグリなどが位置するゼモ・スヴァネティ地方では、円形の薄い生地に具を挟んだ「牛肉パイ」のようなものが食されます。▼
いっぽう、ここレンテヒを中心としたクヴェモ・スヴァネティ地方のクブダリは、見た目も食感も別物。
三日月形の筒状の厚めの生地に具を詰めた「牛肉パン」のようなクブダリが主流なのです。
レンテヒのクブダリ店で、注文から15分ほどで提供される「伝説のクブダリ」がこちら。▼
ずっしりと重たいクブダリには、牛肉がとにかくたっぷり。
玉ねぎの比率はかなり少なめで、肉汁がこぼれ出すほどのジューシーさです。
スパイスを多めに用いたしっかり目の味つけも特徴的。
「ウツホ・スネリ」と呼ばれる苦みのあるスパイスや赤唐辛子が多く入っており、ほろ苦くてピリ辛の大人の味です。
…とにかくこれ、本っっっ当に美味しいです。
大袈裟ではなく、これまで食べて来たクブダリの頂点に君臨しました。
観光うんぬん以前に、このクブダリを食べるためだけにでもレンテヒまで足をのばす価値あり。
旅行の際には絶対にお見逃しなく!
④居心地抜群のゲストハウスでのんびり滞在 (レンテヒ)
レンテヒの観光&クブダリは、2時間ほど見ておけば十分です。
しかしながら、せっかくこんな僻地まで来たなら、のんびりと宿泊していくのが断然おすすめ。
レンテヒの宿泊施設の選択肢はかなり限られていますが、個人的に激推ししたいのがLentekhi Mountain Innというゲストハウス。【マップ 青④】
Lentekhi Mountain Innは、地元出身の若い夫婦が自宅の一部を改装して宿泊客向けに開放している、ジョージア地方部ではよくあるスタイルのゲストハウス。
レンテヒの町を一望する丘の中腹に位置しており、宿泊階のテラスからは一日中美しい風景が望めます。
テラスにはソファーブランコも設置されており、居心地は抜群。
清潔さもばっちりで、装飾や内装など細やかなところにセンスやこだわりが感じられます。
ゲストハウスの夫婦は、ジョージアのホスピタリティー文化のお手本のような温かい人柄。
常に宿泊客が快適に過ごせているか気配りをしてくれ、ストレスフリーな滞在ができます。
ジョージア地方部らしい温かな雰囲気の中で、心も体もリラックスできる…そんな素敵なゲストハウス。
朝食付き(しかもものすごくクオリティー高い)で40GEL(=¥2000)はレンテヒでは最安値。
払う金額以上に満足のゆく滞在ができることを保証します!
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⑤クヴェモ・スヴァネティ地方の境界の村に癒される(ナゴマリ)
クヴェモ・スヴァネティ地方と、お隣のラチャ=レチュフミ地方の境界までたったの500m。
文字通り「スヴァネティ文化圏の最果て」に位置するのがナゴマリ(Naghomari / ნაღომარი)という小さな村です。【マップ 青⑤】
村自体は、たったの14家族だけが居住する小さな集落そのもの。
特に見どころがあるわけではないのですが、村に唯一ある食堂がとにかくおすすめです。
その名も、Cafe-Bar “Qalde”(კაფე ბარი “ქალდე”)
ナゴマリ村に住む家族が、自宅の離れを食堂に改装して営業しているお店は、村人たちのたまり場。
おじさん軍団が、昼間からものすごいペースで蒸留酒を飲みまくる「THE・ジョージア地方部」な光景が見られます。
決まったメニュー等はなく、あくまでも家族が自宅でいくつかの料理を作って客に提供しているスタイルなのですが、ぜひ挑戦してほしいのが、すでに紹介したクヴェモ・スヴァネティ風クブダリ。
肉汁お化け具合とふんわり生地、スパイスの饗宴そのものな味わいはここでも健在。
スヴァネティ文化圏の最果てであっても、伝統の味がしっかりと息づいていることに感動します。
食堂を経営する家族はみんな、笑顔が素敵で温かな人柄。
外国人が来ることはまずないようで、「あれも飲め、これも食え」といったスヴァネティ地方伝統のホスピタリティーを余すことなく発揮してくれます。
そもそも飲食店の数に限りがあるクヴェモ・スヴァネティ地方では、こうした食堂自体が珍しいもの。
ジョージア他都市からレンテヒ方面へとアクセスする際に必ず通る道沿いにあるので、ぜひ立ち寄ってみてほしいです!
⑥ジョージアのワイン文化の境界線の村を訪れる (テカリ)
ジョージアと言えば、「ワイン発祥の国」として有名。
秋になればどの家庭でも葡萄の収穫が行われ、男たちは自家製ワインの製造に励みます。
しかし、ここクヴェモ・スヴァネティ地方の東側一帯では事情が異なるよう。
標高が1100m~1700mと高く、ぶどうの栽培に適していない寒冷な気候であるため、ワイン造りができないのです。
いっぽうで、標高が1100m以下となるクヴェモ・スヴァネティ地方の西部では、ジョージアの他地域と同じようにぶどうが栽培され、自家製ワインが作られています。
この「ジョージアのワイン文化の境界線」にあたるのが、テカリ(Tekali / თეკალი)という村。【マップ 青⑥】
ワイン造りに適した葡萄の栽培が可能な地域の中でも、最も標高が高い場所に位置しているのだそうです。
10月のテカリ村の民家の庭は、たわわな実をつけた葡萄でいっぱい。
味見させてもらうと、自然な甘さが口いっぱいに広がって感動…!
この葡萄を使って作られたワインなんて、美味しいに決まっているはず。
実際に、テカリ村唯一の商店では、自分の家で採れたぶどうを使った自家製ワインをペットボトルに入れたものが売られており、「ワインの国・ジョージア」らしい光景が見られます。
テカリ村より東(=標高が高い)に向かうと、ぶどうの木をいっさい見かけなくなることに驚くはず。
この地域はワインではなく、チャチャ(ぶどうの蒸留酒)や穀物由来のウォッカ、「ラヒ」と呼ばれるスヴァネティ地方独自の蒸留酒が生産・消費されている蒸留酒文化圏になります。
小国・ジョージアに存在する食文化の境界線を肌で感じることができるテカリ村。
「ジョージアで最も標高が高い村のワイン」として売り出せば良いのに…なんて思うのですが、そんな資本主義的なことなど微塵も考えていないような、気さくな感じの村の人たちも素敵でした。
⑦昔ながらの暮らしを味わう (パナガ)
クヴェモ・スヴァネティ地方最大の町・レンテヒから、幹線道路を東へ20kmほど。
パナガ(Panaga / ფანაგა)という小さな集落があり、十軒ほどの民家が点在しています。【マップ 青⑦】
もはやGoogleMapにさえ載っていないほどのマイナーな場所なのですが、この村にあるのは昔ながらの山間部のライフスタイル。
村の人の生活のどの瞬間を切り取っても、数十年前にタイムスリップしたような錯覚を覚えるはずです。
のぶよが滞在した民家ではガスが通っていないため、お湯を沸かすのも暖をとるのも、すべて薪を燃やしてまかなっていました。
近くに商店等もないため、日々の食卓を彩るのは、自宅の畑で採れた野菜や家畜の肉、乳製品をふんだんに用いた素朴な料理です。
いわば、近年話題となりつつある「田舎暮らし」や「エコ・ツーリズム」の最たるものなのですが、パナガ村ではわざわざそれを旅行者向けにウリにしているわけではありません。
この地で暮らす人々の「ありふれた日常」の中にお邪魔することができる、という表現が近いかも。
パナガ村には見どころは何一つなく、ここの人々の暮らしを体験させてもらえることが最大の魅力。
「お見せする用」ではない、本物のジョージア地方部らしい生活の一端と、素朴ながらも温かなおもてなしの心が感じられる素敵な場所です。
⑧クヴェモ・スヴァネティ独自の美しい建築めぐり (ササシ)
ジョージアは小国ながらも、地域ごとに気候風土が大きく異なるのも面白い国。
気候や文化の違いが最も顕著に表れたものの一つが、民家などの建築様式です。
クヴェモ・スヴァネティ地方の民家は、メスティアやウシュグリなどがあるゼモ・スヴァネティ地方と似た石造りが基本。
しかしながら、この辺りは湿度が高いため、二階全体(または二階の一部)だけ、風通しの良い木造である場合も多いです。
数多くの村を見た中で、最も独特だったのがササシ(Sasashi / სასაში)。【マップ 青⑧】
この村の民家は意匠を凝らした木造テラスを備えたものが多く見られ、敷地内にはこれまた木造の高床式倉庫が設置されているのです。▼
ササシ村周辺は山岳部でありながらもやや湿度が高く、さらに標高が高い地域に比べると夏場は結構な蒸し暑さとなるよう。
そのため、食材を腐らせずに保存するための高床式の木造倉庫が設置されるようになったのでしょう。
▲また、ササシの西側の村はずれには、ジョージアが生んだソ連時代の指導者・スターリンの巨大な銅像を備えた民家があり、こちらも必見(?)
ジョージア広しといえども、ここまで堂々とこの人物の銅像を自宅の庭に置いている民家は初めてでした。
⑨「ジョージアで最も閉鎖的な村」のオアシスに癒される (メレ)
のぶよがクヴェモ・スヴァネティ地方へと足を踏み入れる前のこと。
すでにこの地域を旅した複数の旅行者が言っていたことがあります。
「クヴェモ・スヴァネティ地方の奥地には、ものすごく閉鎖的な村がある。あそこはやばい…」と。
それが、メレ(Mele / მელე)という小さな集落。【マップ 青⑨】
メレより先にほぼ住人はおらず、ここまで続いていた舗装道路も途切れてしまい、1日1本の公共交通手段もこの村止まり。
まさに「どん詰まり」のような場所に位置しているのですが、実際に行ってみれば分かります。
この村には、なんだかものすごく閉鎖的で息が詰まるような雰囲気が漂っているのです。
実際にメレ村に滞在したのですが、まず気になったのは村の人の冷たい感じでした。
・挨拶しても無視される率9割
・無表情でじいっと見つめられること多々
・村唯一の商店が信じられないぼったくり価格&ふてこい
あまりスピリチュアル的なことはよく分からないものの、どことなく負のオーラのようなものが村全体と住人を支配しているような、なんとも言えない「陰」の雰囲気に満ちていました。
ジョージア地方部の様々な村を訪れましたが、こんな雰囲気の場所はさすがに初めて。「ジョージアで一番閉鎖的な村」と言っても過言ではないかもしれません。
そんなメレ村に唯一あるオアシスのような場所が、東の村はずれに位置するRati Guesthouse▼
この宿の家族がとても素敵な人柄で、村の雰囲気とのギャップに驚きます。
提供してくれる料理もとても美味しく、温かみに溢れたもので、宿自体の居心地も抜群でした。
メレ村は、クヴェモ・スヴァネティ地方のさらに奥部に位置するツァナ村や、ザガリ峠を越えた先のウシュグリ方面へと向かう際の宿泊拠点として、これ以上ない立地の場所。
メレに滞在する際は、どうかこのオアシスのような場所を選ぶことを心からおすすめします。
(村にもう一軒あるゲストハウスはすこぶる評判が悪いです)
⑩「死にゆく楽園」の秘境感を味わう (ツァナ)
クヴェモ・スヴァネティ地方で人が居住する最も奥に位置するのが、ツァナ(Tsana / ცანა)という小さな集落。【マップ 青⑩】
コーカサスの山を背景に、十数軒の民家が軒を連ねる風景は桃源郷そのもの。
しかしながら、実際に村に足を踏み入れてみると、まったく人の姿が見られないことに気が付くでしょう。
なんと、現在ツァナ村に定住しているのは三人家族たった一組だけ。
それ以外の家族は、およそ30年前の豪雪でインフラが遮断されたことをきっかけに、みんなツァナ村を後にしてしまったのです。
一組の家族が暮らす家以外はほぼ空き家。
数軒の民家は、かつての村人とその家族が夏の数週間だけこの村に帰って来るときに使用されるのだそうです。
そんな「死にゆく楽園」そのものであるツァナ。
唯一の住民である三人家族は自宅をゲストハウスとして旅行者向けに開放しており、宿泊することが可能です。
山岳部の昔ながらの生活にどっぷりと浸ることができるのは、言うまでもなし。
家族の温かなホスピタリティーも嬉しく、飾り気はないながらもピュアな山岳部らしさが五感で感じられます。
人々に忘れ去られたようなこの地で、コーカサスの山々を間近に望む桃源郷のような風景を眺めながらの滞在。
きっと忘れらない思い出となることでしょう。
⑪「死の楽園」の不気味な美しさを感じる (コルルダシ)
ツァナ村からさらに奥。コーカサスの峻険な山々に抱かれるような場所にあるのが、コルルダシ(Koruldashi / ყორულდაში)というかつての村。【マップ 青⑪】
すでに住人は一人として残っておらず、石の塊と化した民家の跡が数か所残るだけ。
人影はいっさいなく、周囲を支配するあまりの静寂は、どこか不気味にも感じられます。
コルルダシ村には、かつてヒ素を精製する工場があり、その従業員と家族数組が居住していました。
しかしソ連崩壊とともに工場は閉鎖され、残留したヒ素が適切に処理されないままに放置されることになったのです。
その結果、コルルダシ周辺の土壌や水には深刻なヒ素汚染が観測されるように。
工場閉鎖から30年以上が経った現在でも、人間が住める環境ではないのだそうです。
人の手が及ばなくなったコルルダシを支配するのは、コーカサスの大自然だけ。
背後にどんと構える山々と、人間の愚行などお構いなしとばかりに季節を彩る紅葉。そこに廃墟として残るかつての建造物群…
どこまでも非現実的で不気味な雰囲気でありながらも、一種の美しさが感じられ、「死の楽園」の呼び名にふさわしいような気がしました。
⑫天空の教会の聖地感に圧倒される (アッシリアの十三教父教会)
クヴェモ・スヴァネティ地方とゼモ・スヴァネティ地方を隔てるザガリ峠。
峠から見てクヴェモ・スヴァネティ側に、その存在をほとんど知られていない絶景教会が存在します。
その名も、アッシリアの十三教父教会(Church of Thirteen Assyrian Fathers / 13 ასურელი მამის ეკლესია)です。【マップ 青⑫】
「いったいどうして、こんなところに?」と思わないこともないでしょう…
しかし、いざ実際に訪れてみると、わざわざこの場所にあえて聖地を造った理由が肌で理解できるはずです。
周囲360°を一望する小高い丘の頂上に建つ教会は、比較的新しい建造ではあるものの、これ以上ないほどの絶好のロケーション。
雪化粧したコーカサスの山々を背景に、どの角度から眺めてもポストカードのような風景が見られるのです。
ジョージアには「天国に一番近い教会」なんてもてはやされる観光スポットが数か所存在しますが、断言します。
この教会こそが、天国に一番近いです。というか、天国そのものでした。
教会の名前にもなっている「アッシリアの十三教父」とは、かつて聖地・イェルサレムからジョージア地域にやってきた十三人の聖人のこと。
彼らにまつわる伝説は多く語り継がれており、各聖人を祀った修道院もジョージア国内に13ヶ所ちゃんと存在しています。
この教会に関しては十三教父伝説とは直接関係なく、単にその名を冠しただけに過ぎません。
しかしながら、凛とたたずむ教会の神々しい姿と、周囲の山々の泰然さを目の当たりにすれば、由緒正しき名があえて付けられたことにも納得するはず。
それほどに、圧倒的な聖地感が周囲に漂っていました。
⑬二つのスヴァネティ地方の境界線に立つ (ザガリ峠)
正真正銘のクヴェモ・スヴァネティ地方の最奥部が、標高2620m地点に位置するザガリ峠(Zagari Pass / უღელტეხილი ზაგარო)。【マップ 青⑬】
この峠を越えると、そこはゼモ・スヴァネティ地方。
メスティアやウシュグリなど、旅行者にとっての定番となる町や村が位置するエリアになります。
「スヴァネティ」という同じ名が付いており、同じ文化圏に属してはいるものの、二つのスヴァネティ地域同士の接点は意外と薄め。行き来もさほど頻繁ではありません。
それもこれも、ここザカリ峠に至る道路がかなりの悪路であるためです。
冬季の6か月~7ヶ月の間は、雪で完全に閉ざされてしまうザカリ峠。
夏場でも一般車でのアクセスは難しく、雨による落石や地滑り等で頻繁に通行不可能となることでも知られています。
そのため、ザカリ峠を越える道をあえて通る旅行者は限られており、知名度はかなり低め。
通行可能期間であっても、一日に通る車の数は片手に収まるほどです。
その知名度の低さとは裏腹に、ザカリ峠を越えるルートは息を呑むほどの絶景続き。
ジョージアでも有数の絶景ルートに入ると思います。
クヴェモ・スヴァネティ地方を観光した後、このザカリ峠を経由して世界遺産のウシュグリ村まで抜けるルートは、個人的にかなりイチオシ。
車はもちろん、徒歩での峠越えも難なくできるので(のぶよは実際に自分の足で歩いた)、体力のある人は挑戦してみてはいかがでしょうか。
後悔することなど絶対になし!最強の絶景が見られることをお約束します。
⑭スヴァン語を使ってみる
ジョージア国内に位置するスヴァネティ地方では、もちろんジョージア語が100%通用します。
また、ソ連時代を経験した40歳以上の人にはロシア語も必ず通じます。
しかしながら、スヴァネティ地方は長い間どこの国家にも属さずに、各村で独自の自治システムが存在していた地域。
その独自の歴史の影響は言語面にも及び、スヴァン語という独自の言語が話されているのです。
ジョージア語 | スヴァン語 | |
こんにちは | გამარჯობა ガマルジョバ | ხოჩა ლადაღ ホチャ ラダフ |
ありがとう | მადლობა マドロバ | ივასუ ხარი イヴァス ハリ |
お元気ですか? | როგორ ხარ? ロゴル ハル | მაგვარდ ხარი? マグヴァルド ハリ |
こんばんは | საღამო მშვიდობისა サガモ シュヴィドビサ | ხოჩა ნებოზ ホチャ メボズ |
比べて見ると一目瞭然ですが、スヴァン語とジョージア語は同じ南コーカサス語族とはいえ、驚くほどに語彙の共通点がありません。
子音が多くカクカクした響きのジョージア語に対して、長母音が多いスヴァン語はどこか柔らかい響きを持つのも特徴的。
ジョージア語に関して赤ちゃんレベルの知識しかないのぶよでさえ、一発で「これはジョージア語じゃない…?」と聞き分けられるほどでした。
スヴァン語の話者は、ゼモ・スヴァネティ地方とクヴェモ・スヴァネティ地方の二地方に限られています。
話者人口は年々減り続けていて、消滅が危惧されている言語の一つだそう。
クヴェモ・スヴァネティ地方を旅する際は、あいさつだけでもスヴァン語を使うととても喜ばれるので、ぜひ挑戦してみましょう!
⑮ジョージア山間部の味覚を堪能する
すでにこの地域の郷土料理として「クヴェモ・スヴァネティ風クブダリ」を紹介しましたが、他にも山岳部ならではのグルメがいくつか存在しています。
クヴェモ・スヴァネティ地方独自のグルメというわけではなく、お隣のゼモ・スヴァネティ地方やラチャ=レチュフミ地方と共通の料理が多いですが、どれも西ジョージア山岳部ならではの味わい。素朴で温かみのあるものばかりです。
西ジョージア地域を代表するスイーツといえば、ペラムシ(Pelamushi / ფელამუში)。
ペラムシとは、ブドウ果汁を濃縮した液体にトウモロコシ粉を混ぜて固めたスイーツ。
ぶどうを皮ごと搾った赤色のペラムシと、実だけを絞った白色のペラムシの二種類があります。
羊羹を柔らかくしたような歯ざわりと、トウモロコシ粉のざらりとした舌ざわりが混じった、不思議な食感が一番の特徴。
砂糖が使用されることはなく、天然のぶどうの甘味が口の中いっぱいに広がります。
また、西ジョージアのラチャ地方発祥とされるトウモロコシ粉のパン「ムチャディ」(Mchadi / მჭადი)も、クヴェモ・スヴァネティ地方でポピュラーな料理。▼
ムチャディといえば、ロビオ(Lobio / ლობიო)と呼ばれる豆の煮込みとセットで食べるのが定番。
ロビオ自体も西ジョージアのラチャ地方の発祥だと言われています。
トウモロコシ粉がぎゅっと固まった、密度ぎっしり&ホクホクした食感が、ムチャディの最大の特徴。
もちろんすべて手作りで、焼きたての香ばしいムチャディは信じられないほどに美味しいです。
他にも、スヴァネティ地域全体で食される郷土料理「カルトプラアル」(Kartoplaar / კარტოპლაარი)も食卓の定番。▼
見た目こそよくあるハチャプリ(チーズ入りのパン)ですが、中に入るのはマッシュドポテトと地産のチーズを練り合わせたもの。
焼きたてのトロットロ&のび~る感は、目が飛び出るほどの美味しさでした。
気候が厳しく、栽培できる作物の種類が限られているスヴァネティ地方ならではの、「小麦×じゃがいも×チーズの三種の神器ぜんぶのせ」のようなソウルフードと言えるでしょう。
クヴェモ・スヴァネティ地方では、他にも山岳地域ならではの食文化が感じられる機会が多くあるはず。
その土地で代々食されてきた料理を味わうのも、旅の醍醐味だと思います!
クヴェモ・スヴァネティ地方のアクセス・交通情報
クヴェモ・スヴァネティ地方の公共交通手段は、想像を絶するほどの不便さです。
いちおうミニバス(マルシュルートカ)が走っており、路線は以下の3つのみ。▼
【クタイシ~~ツァゲリ~レンテヒ~メレ路線】
運行頻度:1日1往復(クタイシ発14:00 / メレ発8:00)
所要時間:2時間半~3時間
料金:20GEL(=¥1000)
【クタイシ~ツァゲリ~レンテヒ路線】
運行頻度:1日1往復(クタイシ発11:00 / レンテヒ発16:00)
所要時間:2時間~2時間半
料金:15GEL(=¥750)
【ツァゲリ~レンテヒ路線】
運行頻度:1日1往復(ツァゲリ発10:00 / レンテヒ発14:00)
所要時間:1時間
料金:5GEL(=¥250)
これら3路線を駆使すれば、いちおうメレまでの区間ならば途中下車&途中乗車で訪問することが可能です。
いっぽう、メレよりもさらに奥のツァナや、ザガリ峠を越えた先のウシュグリへ至る公共交通手段はいっさい存在しない点に注意。
クヴェモ・スヴァネティ地方からウシュグリ方面へと抜けたい場合は、自分の足で歩くか4WD車をチャーターするしか方法がありません。
クヴェモ・スヴァネティ地方の宿情報
クヴェモ・スヴァネティ地方の宿の選択肢は、想像以上に限られています。
高級ホテルの類はほぼ存在せず、格安のホステルもゼロ。
宿泊の基本は、一般的な民家を宿泊客向けに開放しているゲストハウスとなります。
このエリアのゲストハウスは、宿泊予約サイトに掲載されていないところも多く、宿探しには苦労するはず。
ここでは、のぶよが実際に各村で泊まったゲストハウスを紹介します。
Lentekhi Mountain Inn (レンテヒ)
・料金:朝食付き40GEL
・部屋タイプ:ツインルーム
【この宿を料金確認・予約する!】
Marina’s Guesthouse (パナガ)
・料金:夕・朝食付き55GEL
・部屋タイプ:ツインルーム
【この宿を料金確認・予約する!】
Rati’s Guesthouse (メレ)
・料金:夕食付50GEL
・部屋:ツインルーム
Tsana Guesthouse (ツァナ)
・夕・朝食付き
・料金:50GEL ※夕・朝食付
・部屋タイプ:ドミトリー
・注意点:オーナー家族は毎年3月後半~11月に初雪が降る期間しか村にいないそうなので注意。
クヴェモ・スヴァネティ地方旅行時のアドバイス・注意点
ジョージアの中でも最高レベルの僻地であるクヴェモ・スヴァネティ地方。
実際に旅する際は、他の地域での常識はいったん忘れなければいけない場面も多々あります。
ここでは、実際にクヴェモ・スヴァネティ地方を旅して感じた注意点やアドバイスを解説していきます!
①クヴェモ・スヴァネティ地方観光におすすめの季節
クヴェモ・スヴァネティ地方は、一年中アクセス可能なわけではありません。
11月半ばにもなると降雪によって唯一の道路は寸断されてしまい、メレ村の先(ザガリ峠に至る道)は翌年の3月頃まで、車両・人の通行がいっさい不可能になってしまうのです。
3月末~11月頭の観光可能期間の中でも、おすすめはやはり夏場。
7月と8月は天候が安定しており、一面の緑に包まれた山々の風景が見られるでしょう。
また、秋にあたる9月と10月もおすすめ。
やや天候が不安定&寒さが増してはくるものの、トレッキング目的なら絶好の気候となります。
紅葉の季節は年によって変動するものの、標高が高いエリア(ザカリ峠~ツァナ~メレ)では10月1週目~2週目がピーク。
それより標高が低いエリア(メレ~レンテヒ)は、10月3週目~11月1週目あたりに紅葉のピークを迎えるそうです。
②現金は十分に用意しておく
ゼモ・スヴァネティ地方(メスティアやウシュグリがあるエリア)~クヴェモ・スヴァネティ地方に共通する注意点なのですが、ATMの数にものすごく限りがある点に要注意。
それぞれの地方で最寄りのATMがある町は以下の通り。
・ゼモ・スヴァネティ地方:メスティア(TBC Bank / Bank of Georgia / Liberty Bank / Credo Bank etc…)
・クヴェモ・スヴァネティ地方:レンテヒ(Liberty bank)
この二つの町以外には、銀行はおろかATMは一台もありません。
また、クレジットカードの通用度はほぼ絶望的なので、現金がなければ詰みます。
クヴェモ・スヴァネティ地方を観光する場合は、必要な現金をあらかじめ計算し、余裕を持って下ろしておくのが絶対です。
③商店の数はものすごく限られている
クヴェモ・スヴァネティ地方には、ジョージア他地域でよく見かけるスーパーマーケットやコンビニは一軒も存在しません。
最大の町であるレンテヒでさえ、ソ連時代そのままの個人商店(品揃えも微妙)での買い物しか不可能です。
レンテヒからさらに奥に位置する小さな村では、まともな商店はたったの三軒だけ。【マップ 紫】
どれも最低限の品揃えで、価格は大都市よりもやや高めとなっています。
必要なものは、クヴェモ・スヴァネティ地方に足を踏み入れる前にできる限り用意しておくことを強くおすすめします。
④コルルダシ周辺の水は飲まない
記事内でも触れたとおり、コルルダシにあるかつての砒素工場周辺は、放置されたままの砒素が流出していると言われています。
土壌はもちろん、工場周辺にある湧き水は絶対に口にしないようにしましょう。
また、コルルダシから下流へと流れるコルルダシ川にも微量ながら工場由来の砒素が含有されているそうなので、こちらも飲用は厳禁。
ツァナ村にはコルルダシ川とは水源を別にする湧き水があり、そちらは安全だそうです。
⑤明るいうちに到着する&野宿は厳禁
ザカリ峠から少し標高が低い地域の山林には、熊が多く生息していると言われています。
昼間は姿を現すことはなく危険はないそうですが、暗くなってからの山歩きは危険。
また、ウシュグリ~ツァナ(~その先のメレ)の区間は極端に人口が少ないエリアなので、野生動物の王国であると言えます。
キャンプ等、屋外で夜を明かす行為は絶対にやめましょう。
⑥インターネットには期待しない
クヴェモ・スヴァネティ地方のゲストハウスは、Wi-fiなどのインターネット環境がない場合がほとんど。
いっぽうで、携帯のデータ通信は多くの地域で利用可能です。
例外は、メレ村より奥のツァナ~ザカリ峠~ウシュグリの区間。
携帯電話のデータ通信はもちろん、電波自体も圏外となります。(人がほぼ住んでいないので当然といえば当然ですが)
おわりに
ジョージアの中でも最も訪れる旅行者が少ないクヴェモ・スヴァネティ地方にスポットライトを当てた記事をお送りしました。
正直、需要などいっさいないでしょう(笑)
とはいえ、実際にこの地域を旅した人間による観光情報などは、ネット上では大変珍しいのが現状。(というか、たぶん一つもない)
この記事をきっかけに、人々に忘れ去られたようなクヴェモ・スヴァネティ地方に少しでも興味を持ってくれる人がいれば何よりです。
「ジョージアの隅から隅まで旅しつくしたい!」というニッチな旅行者のみなさん、もし実際にクヴェモ・スヴァネティ地方へお越しの際はぜひともご連絡を!
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