こんにちは!アルメニアに5ヶ月滞在した、世界半周中ののぶよ(@nobuyo5696)です。
(世界半周についてはこちらの記事へどうぞ。)
いきなりですが、「アルメニア」という国に対してどんなイメージを持っていますか?
「なんかわかんないけど、危なそう…」
「最近戦争してた国でしょ?」
「治安悪そう」
「”アル”がつくからテロとか危なそう」
「そもそも、どこ?」
これ、すべて実際に日本人に言われたことがあるアルメニアのイメージです。
この中で一つだけ正解なのは「最近戦争してた国」ということ。それ以外はすべて不正解です。
アルメニアを訪れる旅行者は、日本人だけでなく世界的にもかなり限られているのが現状。
地理的にやや不便な場所にあることをはじめ、1915年に起こったアルメニア人大虐殺や、70年ほど続いたソ連時代、2020年に起こった戦争…
アルメニアに対してポジティブなイメージを持つ人は少数派である気がします。
5ヶ月間アルメニアに滞在した経験をもとに、結論から言います。
現在のアルメニアは、外国人が安全に旅行できる国です。
というか、これまで訪れた60ヶ国以上の中でもトップクラスに治安が良い国だと思います。
とはいえ、ここは日本とは言葉も習慣も常識も違う異国の地。
旅行時に注意するべき点はありますし、スリなどの軽犯罪はもちろん、戦争リスクだってゼロではありません。
今回の記事では、アルメニア旅行の際に知っておきたい治安面の情報を徹底的に解説します。
日本語/英語問わず、アルメニアを実際に旅した人による治安面に関する情報は、ネット上にはほとんどないのでかなり貴重なはず。
これからアルメニアを旅する人の参考になれば嬉しいです!
本記事は「ガチでアルメニアに行こうと思ってる!」という人向けのものです。
滞在5ヶ月間で感じたことや実体験をベースに「アルメニアを安全に旅する」ための、のぶよが知り得る限りの情報を超絶細かく書いています。
ザックリとアルメニアを知りたい人が読んでもちんぷんかんぷんだと思うので、そんな場合はアルメニア料理の記事でもいかがでしょうか?(美味しいですよ~) ▼
アルメニアって安全?危険?気をつけることは?10のトピックで知る
そもそも、アルメニアを個人で旅しようと考える人は、ある程度旅慣れている人でしょう。
貴重品の管理や窃盗への注意など、基本中の基本は心得ている人がほとんどだと思います。
とはいえ、アルメニアにはアルメニアにおいての注意すべきことがあります。
ここではアルメニアの治安状況がどんな感じなのか、ザックリとイメージするための10個のテーマを用意しました。
各テーマに合わせて、リスクが高いか低いかを解説していきます。
・低リスク:危険度は低いが注意は怠らず。
・中リスク:危険な場合もあるので注意を。
・高リスク:十分な警戒を。
①スリ・置き引き等軽犯罪:中リスク
世界中どこでも、大都市であればどこででも被害に遭う可能性があるスリや置き引き。
アルメニアの都市部では、西ヨーロッパの大都市に比べてこうした軽犯罪の発生率は意外と低め。
首都のエレバンでさえ、旅行者をターゲットにしたスリなどの話はほとんど耳にしません。(というか、そもそも旅行者があまりいない…)
とはいえ、地下鉄やバス車内でスリ被害に遭った人もいるそうなので、安心しきるのは危険。
・高価なものを身につけない
・財布やスマホは口が閉まるカバンに入れる
・荷物を置いたまま席を離れない
など、海外旅行をする上での最低限の注意は怠らないようにしましょう。
②交通事故:低リスク
ジョージアからアルメニアに来て驚いたことの一つが、交通マナーが意外に守られていること。
マルシュルートカ(公共ミニバス)は、そこまでスピードを出して爆走することはないですし(おそらくボロボロすぎてスピードが出ないのかも)、赤信号なのに突っ込んでくるような車も珍しいです。
極めつけが、信号のない横断歩道で待っていると多くのドライバーが停まって渡らせてくれます。
ジョージアではまずあり得ない光景だったので、びっくりしました。
③タクシー:低リスク
アルメニアではいまだに流しのタクシーが主流ですが、エレバンをはじめとする都市部ではYandex等の配車アプリも普及しています。
配車アプリを利用すれば、ぼったくり等の被害を防ぐことができるのはもちろん、目的地にちゃんと向かっているか一目瞭然なので安心ですよね。
地方部の場合はアプリの範囲外なので、客待ちのタクシーや流しのタクシーを利用することとなります。
知っておくべきなのが、アルメニアの流しのタクシーには料金の相場があること。
・初乗り600AMD(=¥144)
・以後1kmごとに100AMD(=¥24)ずつ加算
といったシステムです。が…
メーターを使わない(壊れて使えない)ようなタクシーも多く、ほとんどの場合は乗車前に提示される言い値が基本となるのが現状。
外国人が相場通りの料金で流しのタクシーを利用するのは難しく、ある程度上乗せした金額を提示されることがほとんどです。(あまりに法外な値段の場合は交渉するか、別のタクシーを探すべき)
タクシーを数時間~1日チャーターする場合にもいちおう相場があり、同区間を走るマルシュルートカ(公共ミニバス)の10倍の値段が片道分の相場です。
・エレバン~ギュムリ(片道):マルシュ1500AMD→タクシー15000AMD
・エレバン~ヴァナゾル(往復)マルシュ1600AMD→タクシー16000AMD
こちらはあくまでも目安の金額。
運転手によって上下しますし、途中の見どころに立ち寄ってもらう場合などはもちろん料金は上がってきます。
④強盗・殺人など重大犯罪:低リスク
アルメニアにおける強盗や殺人などの重大犯罪は、ソ連からの独立直後の1990年代初頭からずっと減少傾向にあります ▼
アルメニアにおける強盗や殺人等の犯罪発生率は、10万人あたり1.69件。
これは、東欧・コーカサス地域においては最も低い水準です。
各国の犯罪発生率が気になる人はこちら(外部サイト/英語)へどうぞ。
とはいえ、10万人あたり0.26件と世界でもダントツの重大犯罪の発生率の低さを誇る日本に比べてしまうと、どうしても危なそうに思えてしまうもの。
個人的な肌感覚では、一般の旅行者が滞在する上でこうした重大犯罪に巻き込まれるリスクは限りなくゼロに近いと思います。(なんなら、日本人が大好きなヨーロッパやアメリカ、お隣ジョージアの方が犯罪率は高いですし…)
⑤ぼったくり・詐欺:中リスク
アルメニアで観光客がぼったくりに遭う可能性はそれほど多くはありません。
レストランのお会計時にお釣りをごまかされることくらいはありますが、タクシーや宿泊先で事前に交渉して同意していた金額以上を請求されたりすることは稀。(とはいえ、全くないわけではありません)
ただ、外国人に対して現地の水準より高めの「観光客プライス」をふっかけてくる場合はあるので、渡航前にアルメニアの物価感覚をつかんでおくのがおすすめです。
ひとつ注意したいのが、クレジットカードで決済をする場合。
ATM利用時のスキミング等の犯罪に遭う可能性はもちろん、金額を間違えて請求されることもよくあるそうです。
というのも、アルメニアの通貨であるドラム(AMD)は桁が多く(1AMD=¥0.24)、ちょっとした食事や飲みの席のお会計でも”3500AMD”や”12400AMD”など大きな金額の支払いになることがしばしばあるため。
店側が桁をひとつ間違えて入力してしまっている可能性もあるので(ミスにせよ故意にせよ)、クレジットカードで支払う際は、決済の前に合計金額をきちんと確認しましょう。
⑥自然災害:中リスク
アルメニアはユーラシア大陸でも有数の地震多発地帯です。
つい30年前の1988年にはスピタク大地震がアルメニア北部で発生し、大きな被害を出しました。
アルメニアを旅していると「地震によって○○年に破壊された聖堂」や「○○年の地震で全壊し○○年に再建され…」など書かれた建造物に多く出会うのも、この国が古くから幾度となく地震の被害を受けてきた証拠です。
それにもかかわらず、アルメニアでは耐震構造という意識はほとんど根付いていません。
地面に石を積み上げて壁を塗って、はい完成!と言った感じ。大きな地震がきたらひとたまりもないと思います。
旅行者があまり自然災害を気にしすぎてもキリがないのですが、「アルメニアは地震が起こり得る国」であることは頭に入れておきましょう。
⑦テロ:低リスク
アルメニアを全く知らない人によく言われるのが、「イスラム圏だよね?テロとかないの?」ということ。
あのですね…そもそもアルメニアはイスラム圏ではありませんし、イスラム=テロでもありません。
(おそらく国名に「アル」がつくからそんなイメージになってる?)
そもそも、アルメニアでは近年、テロ攻撃はいっさい発生していません。
ヨーロッパの大都市に比べるとテロが起こる可能性は限りなく低く、その点においてはとても安全な国だと言えます。
⑧差別:低リスク
もう数年にわたって続いているコロナウイルスの蔓延は、世界を大きく一変させました。
それまでは隠されていた人々の差別意識も、表に出てくることが多くなったと思います。
欧米圏をはじめとするアジア以外の地域においては、アジア系旅行者や在住者が差別のターゲットとなるケースが頻発し、場合によっては暴力などの被害を受けるケースもありました。
アルメニアに差別が存在するかしないか?と尋ねられたら、「おそらく存在する」と答えます。
というのも、この世界に差別や偏見が存在しない国や地域など一つもないので。
ですが個人的な経験では、アルメニアで差別的な言動を受けたり態度をとられたりしたことは5ヶ月間でただの一度もありませんでした。
こればかりは出会う人や行く場所によるでしょうし、運も大きく関わってくるでしょう。
個人的な感覚では、外国人(アジア人)だからと言ってあからさまに嫌な顔をされたり、嘲笑されたり罵倒されたり…そうした嫌な思いをすることは、アルメニアでは比較的起こりにくいのではないかと感じました。
(向こうが本心でどう思っているのかはわかりませんがね。)
⑨女性一人旅(セクハラ等):中リスク
あまり「男だからこう女だからこう」という話をしたくないのですが、女性がひとりで海外を旅する際にはそれなりのリスクが伴ってくるのが現状です。
アルメニアは敬虔なキリスト教国ということもあって、かなり保守的な考えの人が多いお国柄。
婚前交渉がタブーであったり、結婚前の同居が良く思われなかったりと、良く言えば「伝統的な価値観が残っている」というわけです。
しかしながら、外国人の女性であれば「伝統的な価値観」の例外と捉えるような男性がいることも事実。
ローカルが集まる酒場に外国人の女性が行こうものなら、十中八九セクハラ等の被害に遭うと思います。
また、アルメニア、特に地方部はかなりの男性社会。
女性一人でローカルな食堂で食事をしていたりすると、間違いなく好奇の目で見られるでしょう。
アルメニアの地方部では優しい人がすごく多く、100%の優しさから車に乗せてくれたり家に招待してくれたりするものですが、もしあなたが女性の場合はどんなに良い人そうでも何かあってからでは後の祭り。
・複数人で行動する
・人を見る目を養う
・丁寧にお断りする
など、できる限りの対策をして自分の身は自分で守るしかありません。
⑩戦争・紛争など地政学的リスク:高リスク
全国的に治安面での問題が少ないアルメニアですが、絶対に注意を払っておく&旅行前に知識をつけておくべきなのが、戦争や紛争などのリスク。
アルメニアは隣国であるトルコやアゼルバイジャンと長年にわたって対立しており、現在でも両国との国境は閉鎖されたまま。
2020年にアゼルバイジャンとの間に勃発した第二次ナゴルノ=カラバフ紛争の記憶も新しいです。
北のジョージアか南のイランにしか国境を越えての陸路移動ができないアルメニアは「どんづまり」のような国である点は否めません。
(しかもイラン入国にはビザがいるので簡単には行けないという…)
この地政学的なリスクが、多くの人にとってアルメニア渡航の最大のハードルとなるでしょう。
とはいえ5ヶ月間滞在していた経験から言うと、危険なエリアや注意すべきことをちゃんと知った上で情報収集を欠かさなければ大丈夫。
平常時であれば、アルメニアは個人でも普通に旅行ができる国です。
アルメニアの危険エリアや旅行時の注意点&アドバイスは記事後半で解説しているので、そちらも参考にしてください。
アルメニアの都市別治安
エレバンの治安
アルメニアの首都・エレバンは、人口100万人を数える大都市です。
ソ連時代に計画的に整備された中心街は、コンパクトで整然とした雰囲気。
ピンク色の石造りの建物が並ぶ町並みは「ローズ・シティー」や「ピンク・シティー」と称されます。
そんなエレバンの治安は極めて良好。
危険だと感じる場面や雰囲気の悪いエリアはいっさいなく、夜間の一人歩きも全く問題ありません。
個人的な肌感覚ですが、これまで訪れた各国の首都の中でも指折りの安全な町だと思いました。
とはいえ、世界の大都市どこでも共通の注意事項は意識しておくべき。
特に、エレバンの市内交通(マルシュルートカや地下鉄)の車内は、朝や夕方は大混雑することが多く、文字通りギュウギュウ詰めとなります。
安全な町だからといって悪い人がいないわけではないので、身の回りの品への最低限の注意は欠かさないようにしましょう。
ギュムリの治安
アルメニア第二の都市・ギュムリは治安の心配をしなくて良いほどに安全な町です。
そもそも人口が20万人ほどしかおらず、中心街の規模も限られているため、これといった危険エリアも存在しません。
観光客を狙ったぼったくりやスリなどの話もほとんどないそう(というか、そもそも観光客の数が限られている)なので、安心して滞在が楽しめます。(とはいえ、最低限の注意を払うのは怠らずに!)
一つだけ注意したいのは、ギュムリは隣国・トルコの国境まで10kmもない場所に位置しているという地理的条件。
アルメニアとトルコの国境は長らく閉鎖された状態ではあるものの、両国間における軍事的な緊張は今のところありません。
しかしながら、ギュムリを出て近郊に足をのばすと、国境警備員のパトロールに遭遇する場合も。
パスポートの提示を求められることがあるので、常に携帯することをお忘れなく。
ヴァナゾルの治安
アルメニア第三の都市・ヴァナゾルは、北部のロリ地方に位置する小都市。
アルメニア北部地域の交通のハブとなる町でもあるので、立ち寄る旅行者も多いかもしれません。
ヴァナゾルを含め、アルメニア地方部の治安はほとんど心配する必要がないレベル。
のんびりとした雰囲気の町ばかりで、平和を絵にかいたような雰囲気です。
ヴァナゾルは第三の都市とはいえ、人口は8万人ほど。
日本の地方部の小都市よりも規模は小さいため、どこに行っても人の数が少ないと感じるかもしれません。
夜間は街灯が少なめ&人影ほぼなしと少々陰気くさい雰囲気となりますが、一人で歩いても問題はありません。
アルメニアの5つの危険エリア
アルメニアという国を訪れるのであれば、絶対に意識しておきたいのが戦争や紛争のリスク。
隣国・アゼルバイジャンとの間に2020年秋に勃発した第二次ナゴルノ=カラバフ戦争の影響はいまだに強く残っており、国内政治状況や国際情勢によってはいつ再燃するかわかりません。
日本国外務省による海外安全情報によると、アルメニア国内の一部地域には退避勧告(レベル4)が発令されています ▼
個人的な感覚で言うと、アルメニア国内で旅行者にとって危険なエリアの多くは外務省の情報とほぼ一致していると思います。
というのも、のぶよが滞在していた5ヶ月間(2021年7月~12月)でもこれらのエリアで小規模な戦闘や軍事行動が散発していたため。
ここではさらに詳細に、それぞれの危険エリアについて解説していきます。
アルメニア危険エリアマップ
①ナゴルノ=カラバフ自治州とその周辺
アルメニアという国を不安定にしている最大の要因が、隣国アゼルバイジャンとの関係。
どうしてこの二国が敵対して二度に及ぶ戦争にまで至ったかというと、ナゴルノ=カラバフ自治州の帰属権をめぐる争い。それに尽きます。
1991年のソ連崩壊以来、ずっと二国間の領土争いの的となってきたナゴルノ=カラバフ。
日本を含め、国際的には「ナゴルノ=カラバフはアゼルバイジャン領」とされていますが、その住民の多くはアルメニア系&歴史的にアルメニア領だったということもあり、アルメニア側も一歩も引かない姿勢です。
この領土問題が火種となって勃発したのが、まだまだ記憶に新しい2020年秋の第二次ナゴルノ=カラバフ紛争でした。
紛争以前は、アルメニア側からビザを取得してナゴルノ=カラバフへ渡航することが可能でした。
しかしながら、2022年現在は外国人の立ち入りが制限されており、ビザの発給が拒否される状況が続いています。(ロシア人以外はビザが下りないそう)
ビザの可否以前に、ナゴルノ=カラバフ自治州には日本国外務省による退避勧告(レベル4)が発令されています。
2020年の紛争でアルメニアが敗北した結果、「首都」のステパナケルト周辺以外の地域はアゼルバイジャンの統治下となっており、まるで陸の孤島さながらの状態になってしまいました ▼
運よくビザが下りて、アルメニアからナゴルノ=カラバフ(というかステパナケルトのみ)へ渡航できたと仮定します。その場合は、実質アゼルバイジャンが統治するエリア(ロシアの平和維持軍が駐屯中)を通過することとなり、大きなリスクを伴うことになるでしょう。
また、日本はナゴルノ=カラバフをアルメニア領とは認めていないため、ナゴルノ=カラバフで万が一のことがあっても公的機関による救援等は絶望的となります。
ナゴルノ=カラバフ地域はもちろん避けるべきですが、アルメニア領内の国境近くのエリアも同様に危険。
「アゼルバイジャン軍がナゴルノ=カラバフからアルメニア領内に入ってきている」と報じられていた時期もあり、実際に地元住民が乗ったバスが占領されて立ち往生するなどの事件も起こっています。
②セヴァン湖東岸
「アルメニアの真珠」と称されるセヴァン湖。
標高1900m以上の高地に位置する湖は、同国で最大の面積を誇ります。
夏場はエレバンの猛暑から逃れて来た人々で多いに賑わうのですが、それはすべてセヴァン湖西岸の話。
セヴァン湖東岸はアゼルバイジャンとの国境まで4km以下という地域もあり、両国間の緊張や軍事行動の影響をダイレクトに受けるエリアです。
のぶよが滞在していた期間でも、実際にセヴァン湖東岸の村へアゼルバイジャン軍が国境を越えて攻撃したというニュースもあったくらいなので。
セヴァン湖西岸~北岸エリアは100%安全なので、滞在する場合は必ずこちら側にしましょう。
③イェラスフ(ナヒチュヴァン国境付近)
アルメニアの南西に位置するアゼルバイジャンの飛び地・ナヒチュヴァンとの国境の村であるイェラスフ(Yeraskh / Երասխ)周辺も危険。
ナヒチュヴァンとアルメニアの間では領土問題等は表面化しておらず、国境付近のエリアでも比較的安全だと言われてきました…が、
のぶよが滞在していた2021年9月に、一時的にアゼルバイジャンとアルメニアの対立が激化した時期があり、その際にイェラスフ村で国境防衛にあたっていたアルメニア軍兵士がアゼルバイジャン軍に殺害される事件が起こりました。
イェラスフ村周辺には見どころ等いっさいないので、まず観光目的で行く人はいないでしょう。
しかし問題となるのは、アルメニア南部に至る唯一の幹線道路がここイェラスフを通っている点。
万が一イェラスフ周辺が有事になれば、南部と北部をつなぐ交通網が遮断されてしまう可能性が高いのです。
④タヴシュ地方東側
アルメニア北東部に位置するタヴシュ地方(Tavush / Տավուշի մարզ)は、一面の荒野が広がるエリア。
ほとんどの旅行者が訪れるのはタヴシュ地方西部にあるディリジャン周辺だと思いますが、タヴシュ地方西側はまったく問題ありません。
このエリアで危険なのは、アゼルバイジャン国境に近いタヴシュ地方東側。
理由は他の危険エリアとまったく同じです。
一般の旅行者がタヴシュ地方東側に観光目的で行くことはまずないと思いますが、見落としがちなのが、エレバン~トビリシを結ぶ二本の幹線道路のうち一本がこの危険エリアを通っている点 ▼
地図をよく見るとわかりますが、実はこの幹線道路はアゼルバイジャン領に入っているのです。
つまり、アゼルバイジャンとの間に緊張が生まれた際はブロックされかねないということ。
恐ろしいのが、トビリシ~エレバンのマルシュルートカ(乗り合いミニバス)でこのルートをあえて通るドライバーがいること。
(この地域の情勢にやや疎いジョージア人ドライバーが多いと言われているそう)
実際にトビリシ→エレバンと移動した際、この東側ルートを通りました。
トビリシ〜エレバン間を陸路移動すると、地図上ではアゼルバイジャン領を通ることになる不思議。
— 小山のぶよ🇵🇹世界半周中の翻訳してる人 (@nobuyo5696) July 1, 2021
「こんなん大丈夫なの?」と不安になるけど、パスポートチェック等何もなし。
そこは打ち捨てられた村やアルメニア教会だけが残る荒野だった。元々アルメニア領で今はアゼルバイジャン領になったのか? pic.twitter.com/6izmpGqgww
いつの間にGPS上ではアゼルバイジャン領にいることになっており、もう気が気じゃなかったです…
アルメニア人ドライバーはまずこちらの道路は通らず、国土中央のエレバン~ヴァナゾル~アラヴェルディ~トビリシのルートを使う人が大半。
緊張が低めな時期であれば問題ないのでしょうが、トビリシ~エレバン間のマルシュルートカ移動の際には、念のためどちらのルートを通るか乗車前に確認するのが良いと思います。
⑤ゴリス~カパン間の幹線道路
最後に解説する危険エリアは、アルメニア最南部のシュニク地方(Syunik Marz / Սյունիքի մարզ)のゴリス(Goris / Գորիս)とカパン(Kapan / Կապան)を結ぶ幹線道路。
地図をよーく見てください。完全にナゴルノ=カラバフ自治州の領内に入っているのです。
以前はナゴルノ=カラバフのほとんどの地域の支配権は実質アルメニアが持っていたため、たとえ少しぐらいナゴルノ=カラバフを経由しようが問題はなく、何事もなく移動できていました。
そのなんともゆる~い状況を一変させたのが、2020年の戦争でのアルメニアの敗北。
それまではなんと~くアルメニア領っぽい感じだったナゴルノ=カラバフの大部分がアゼルバイジャンの支配下となってしまい、このちょっと食い込んだ幹線道路付近もアゼルバイジャン軍の管理下となってしまったのです。
この幹線道路一帯の状況はかなり流動的です。
のぶよがいた5ヶ月間でも「アゼルバイジャン軍の検問があったが自由に移動できた→アゼルバイジャン軍が道路を封鎖して通行不可→再び制限付きで通行可能に」と大きく変わったくらいなので。
シュニク地方最大の観光スポットであるタテフ修道院やゴリスまでは問題なく移動が可能ですが、それより南のエリア(カパンやメグリ(Meghri / Մեղրի)、国境を越えてイラン)への移動には大きなリスクがともなうことを理解しておかなければなりません
アルメニア旅行を安全に楽しむための10のアドバイス
危険なエリアの話ばかりで怖くなってしまった人もいるかもしれませんが、これが現実です…
とはいえ、上記の危険エリアを避ければまったく問題なし。
危険エリアは普通の旅行者は行かないような地域が多いですし、何度も言うようにアルメニアの一般的な治安は西ヨーロッパの多くの国よりも良好です。
しかし、完全に気を抜いてしまうのはNG。
ここは日本ではないので、気をつけなければならない点もいくつかあります。
ここでは5ヶ月間滞在した経験をもとに、アルメニア旅行を安全に楽しむためのアドバイスや注意点を10個解説します!
①現地ニュースは必ずチェックを
アルメニアの危険エリアの項で解説した通り、アルメニア国内には情勢が不安定な地域がいくつもあります。
「つい1ヶ月前は問題なく行けたのに今は行けなくなっている」なんてことも大いにあり得ます(実体験)
それ以外のエリアでも、万が一のことが起こる可能性はゼロではありません。
アルメニア滞在中には、常に現地の最新情報を得るように心がけることを強くおすすめします。
②ロシア語かアルメニア語は必須
アルメニアの英語の通用度はとにかく低いです。
エレバン中心街の外国人が多くやってくるような店や施設であれば、もちろん英語だけでも生きていけるでしょう。
しかし中心街を一歩出てしまえば、エレバンであっても「ほとんど通じない」というレベル(20人に1人くらいは通じるかも)で、地方部に関してはもう絶望的です。
そんなアルメニアですが、ロシア語はほぼ100%通じます。
アルメニアとロシアは経済的・軍事的な結びつきがとても強く「ロシアなしではやっていけない」と言われるほど。
2022年現在でもアルメニアの学校教育での第二外国語はロシア語である場合が多いという点もあり、世代や地域問わず話せる人がほとんどなのです。
とにかく、英語がほとんど通じないアルメニアを個人で旅するなら、最低限のロシア語かアルメニア語は必須。
5か月間の滞在中に出会った各国の個人旅行者も、ほぼ全員がロシア語で最低限の意思疎通ができる人たちばかりでした。
③アルメニア南部に行くなら細心の注意を
広大な大地に中世の修道院が点在するアルメニア南部エリアを訪れたい旅行者も多いでしょう。
アルメニア南部はヴァヨツ・ゾル地方(Vayots Dzor Marz / Վայոց Ձոր)とシュニク地方(Syunik Marz / Սյունիքի մարզ)の二地方から構成されています。
いずれの地方も、旅行者が訪れるようなエリアであれば問題なく観光・滞在ができますが、問題はそこに至るまでの道路。
なんと、南部二州へアクセス可能な幹線道路は一本しか存在しないのです。
しかもこのたった一本の幹線道路は、 アルメニアの危険エリアの項で解説したイェラスフとゴリス~カパンという二つの危険エリアど真ん中を通る形になります。
実際にのぶよがアルメニアに滞在していた期間に、ゴリス~カパン間の一部区間がアゼルバイジャン軍によって封鎖され、それ以南の住民が取り残されるという事態が起きました。
また、アルメニア南部を走る幹線道路はアゼルバイジャン領すれすれを通る箇所があり、ナゴルノ=カラバフ自治州内に食い込んでいる場所すらもあります。
万が一の事態が起こった際には、アルメニア南部は陸の孤島と化してしまうので、訪れる場合はより現地情報の収集に神経質になるべきです。
④パスポートは常に携帯
アルメニアだけでなく海外旅行時の常識ではありますが、パスポートは常に肌身離さずに持ち歩きましょう。
エレバンやギュムリなどの都市部で身分確認などをされる機会はほとんどありませんが、地方部(特にシラク地方やアララト地方などトルコ国境に近いエリア)では頻繁にパトロールが行われていて、パスポートの提示を求められることが何回かありました。
⑤ATMは銀行併設のものを利用
こちらもアルメニアだけの注意点ではありませんが、ATMでキャッシングをする場合は必ず銀行に併設されたもの(できれば銀行内のもの)を利用しましょう。
アルメニアを含むコーカサス地域には、まだスキミングの技術は到達していないと言われてはいますが、どんな悪だくみを考える人がいるかはわかりません。
また、カードが飲み込まれる(ATMに挿入したカードが出て来ない)などのアクシデントを防ぐためにも、有人のカウンターがすぐ近くにある銀行内のATM利用がやはり安心です。
⑥万が一の際のプランBは考えておく
「戦争・紛争などの地政学リスク」の項で解説しましたが、アルメニアは地理的に「どんづまり」のような国です。
トルコとアゼルバイジャンへの国境はすべて閉鎖されており、北のジョージアと南のイランだけが頼み綱。
日本人旅行者的にはイラン渡航にビザが必要なためハードルが高く、ビザなしで気軽に陸路国境を越えられるのは実質的にジョージアだけとなります。
問題となるのが、ジョージアが有事となって国境が万が一閉鎖されたりした場合。
ジョージアもジョージアでロシアとの領土問題を複数抱えており、2022年2月のウクライナ東部危機のような有事になるリスクは低くありません。
のぶよがアルメニアに滞在していた2021年下半期は、ジョージアでのコロナウイルスの蔓延に歯止めがかからず、いつロックダウン(=国境封鎖)されてもおかしくない状況でした。
そのため、最悪陸路でのジョージア入国を諦めて、空路で第三国へ出国する「プランB」は常に頭の中にありました。
このように、「ジョージアとの国境は常に開いているもの」と考えてしまうのは危険。
万が一の場合に備えて、陸路でジョージア入国以外のルートでアルメニアを出国できる手段や行き先を考えておくことを強くおすすめします。
⑦交渉文化
古くからシルクロード交易の中継地点として栄えた歴史もあってか、アルメニアは交渉文化が強く根付いている国です。
首都のエレバンにおいてはかなり薄まってはいるものの、地方部ではいまだに健在。
ホテルの宿泊料金から、市場で売られている洋服や食材、タクシーの運賃など、交渉することで安くしてもらうことが可能です。(向こうも値下げ前提の料金を掲げているような気もする)
とはいえ、ただ単に「これ高い!安くして!」とダイレクトに言うような交渉文化ではないような気も。
「二つ買うからちょっと安くして!」とか、「3泊するから1泊○○ドラムにして!」とか、お互いにちゃんと利益になるように交渉する人が多いような印象を受けます。
郷に入りては郷に従え。上手に交渉すれば相手もこちらもハッピーになれるので、挑戦してみるのも良いかもしれません。
⑧政治の話は出さない
もう何回も言っていますが、アルメニアは政治的・歴史的に周辺国との軋轢が絶えない国です。
・トルコ:オスマン帝国によるアルメニア人大虐殺をめぐる歴史認識の違い
・アゼルバイジャン:ナゴルノ=カラバフの帰属問題&戦争による対立
・ジョージア:文化的・歴史的な対立(食べ物の原産地問題・歴史認識etc)
・ロシア:第二次ナゴルノ=カラバフ戦争で軍事同盟を果たさなかったことへの疑念
一部をピックアップしただけでもこんなにもあり、私たち旅行者が100%理解するのは不可能。
アルメニアにはアルメニアの、アゼルバイジャンにはアゼルバイジャンの、トルコにはトルコの言い分があって当然です。
もちろん、アルメニアを旅する上でアルメニアの歴史を学んだり、現地の人々の考えに触れる機会もあるでしょう。
しかしながら、外国人がアルメニアや周辺国の政治状況についての議論に首をつっこむのは避けた方が良いと思います。(もちろん、すごく仲良くなった人とは別ですが)
とはいえ、アルメニアにいると、現地の人からこうした話をされる機会が多いのも事実(特に2020年のカラバフ戦争について)。
中には酔っぱらってヒートアップする人もゼロではありません。
話は聞くだけにして、下手に議論に持ち込まないに越したことはないかなと思います。
⑨写真撮影が禁止の場所もある
アルメニアでは、一部写真撮影が禁止されている場所があります。
特に「撮影禁止」等の表示がなくともダメなものはダメなので要注意です。
・メツァモル原発
・国境などの検問所
・鉄道の車庫
・一部ミュージアムのソ連時代に関する展示
教会や修道院においては、内部も含めて撮影禁止の場所はほとんどなかったと思います。
また、旧共産圏では地下鉄駅の写真撮影が禁止されている場合もありますが、エレバンの地下鉄では特に何も言われることはありませんでした。
⑩警戒しすぎても楽しめない…
ここまで色々とアルメニア旅行や滞在に関する注意点を書いてきました。
戦争のリスクはゼロではなく、どんづまりのような場所にあり、セクハラ等の被害もあるかもしれない…
こう書くと、「アルメニア、なんだか怖い国かも…」という印象を持ってしまった人がいるのではないかと心配になります。
繰り返しになりますが、最低限の警戒心や注意、情報収集を怠らなければ、アルメニアは安全&快適に楽しめる国です。
美しい都市や山々の大自然、中世から続く修道院…とにかくこの国には美しいものがたくさんありますが、アルメニア最大の魅力は人だと思います。
・道を歩いていたら車を停めて乗せてくれる(20回以上あった)
・とにかく話しかけてくる(アルメニア語で)
・ちょっと会話していたら自家製ウォッカが出てくる(これも数回どころじゃなかった)
・知らないおじさんたちの家に招かれる
・知らないおじさんたちのBBQに招かれる
・マルシュルートカ車内では外国人はみんなのアイドルになる
などなど、今思いついただけでも面白すぎるエピソードがたくさん。
ここまで人と人の距離が近く感じた国はかなり久しぶりに感じます。(ずっとヨーロッパから旅してきたから余計にそう思ったのかも)
とにかく人懐っこいアルメニアの人々(のぶよは「コミュニケーション能力お化け」と呼んでる)との出会いこそが、アルメニア旅最大のハイライトと言っても過言ではないでしょう。
警戒するのももちろん大切ですが、せっかくの良心やおもてなしの心は見極められるようにしたいものですよね。
おわりに
アルメニアという国がどれだけ安全なのか、どこに行ってはいけないのか、何に気をつければ良いのかなど、アルメニアの治安や旅行時のリスク等を、ネガティブ面もポジティブ面も含めて詳細に解説しました。
ここまで読んでくれた人は、おそらく本気で「アルメニアに行こうと思ってる!」「いつかアルメニアに行ってみたい!」と考えている人なのでは。
一つだけ言っておきますね。
アルメニア、本っっっ当に素晴らしいので、有名になってしまう前にぜひ来てください!
記事の執筆時点(2022年2月)では、隣国アゼルバイジャンとのイザコザはやや落ち着いた印象。
他にもさまざまな地政学的リスクはある地域ですが(ウクライナとか…)、それはジョージアもトルコも欧州も同様だと思います。
この記事がアルメニアを旅しようと考えている人のお役に立ったのであれば、何より嬉しいです!
コメント
こんにちは、のぶよさん、コメント失礼します。
2022年より前はジラピやバグラタシェンといった国境地帯はパスポートさえあれば訪問できましたが、2022年にウクライナ戦争が起こってから駐留ロシア軍は国境地域の管理をより厳しくしており、国境地帯を訪問するのにロシアの許可が必要になっていますので、この地域の訪問はより難しくなっています。もし許可なしで(知っていてもいなくても)国境地域を訪問した場合、ロシア軍による尋問がなされる可能性もありえます。(筆者もジラピ村に近い村を2022年8月に訪ねた時経験しました…) 次回アルメニアを訪問する際は十分お気をつけて。
長文ですみません。
こんにちは!アルメニア情報大変助かってます。
以下2点、私自身の経験を共有させて頂きたいです。
1.空港のピックアップ詐欺
ズヴァルトノッツ国際空港の国際線出口で「ようブラザー、ホテルが手配したから俺の車に乗れ」と言われ、いざ乗ってみると途中で高額請求(25000ドラム)されました。
深夜帯かつ何もない道の真ん中でチンピラと2人きりになってしまったため、怖くなり払ってしまいました。高額請求者はヒョロっとした30代くらいの顎髭のある男で、白のベンツに乗っていました。
治安が良いと思い油断していた自分が本当に馬鹿なのですが、念のためお気をつけください。。
2.地下鉄の撮影禁止
地下鉄で電車の写真を撮っていたところ、駅員さんに呼び止められ写真を消すように言われました。曰く「写真は一切許されてない」とのことです。(地下鉄全部だめなのか電車がだめなのかはわかりません。)
怒られるとか罰金とかは無く軽い注意で済みましたが、写真は撮らないほうが懸命かと思います。
長々と失礼しました。