こんにちは!ジョージアの秘境・トゥシェティ地方をのんびり旅行中、世界半周中ののぶよ(@nobuyo5696)です。
(世界半周についてはこちらの記事へどうぞ。)
前回の記事では、トゥシェティ地方観光のハイライトとなる、世界遺産のダルトロ村の観光情報を解説しました。
ダルトロ村だけでもかなりの見ごたえがあり、最果て感たっぷりな雰囲気に感動すること間違いなしなのですが、周辺には他にも魅力的な見どころが点在しているのもポイント。
それが今回紹介する、ダノ村(Dano / დანო)とクヴァヴロ(Kvavlo / კვავლო)と呼ばれる場所。
ダルトロよりもかなり小さいダノ村は、ピリキタ・ヴァレーを望む高台に位置する絶景村。
村のシンボルである祠は、この地域独自の信仰の対象とされる聖地。
牧歌的な風景の中で村を見守り続ける姿には、そこはかとないパワーが感じられます。
ダルトロ村中心部からも見える、山の頂上に建つ見張り塔が目印のクヴァヴロは、かつて人々が外敵の侵入時に備えて築いた避難場所の跡地。
ほぼすべての建物が廃墟と化している場所で、背後にそびえる山々に抱かれたかつての風景に思いを馳せることができます。
いずれの場所も、ダルトロ村から半日もあればセットでまわることができるのもポイント。
アクセス方法こそ徒歩のみですが、距離もそこまでないので、ぜひ足をのばしておきたい場所です。
・ダノ村の見どころ
・クヴァヴロの見どころ
・ダルトロ村からの徒歩ルート
の順に解説していきます。
聖なる祠に見守られた絶景村!ダノ
滞在の拠点となるダルトロの西3kmほど。
小高い山の頂上に十数軒の民家があるだけのダノ村(Dano / დანო)は、多くの観光客が訪れるダルトロとは反対に、観光地化とは無縁な場所です。
トゥシェティ地方のどの村でもそうなのですが、夏場の数か月間だけ村人が戻ってきて伝統的な山岳部の生活が営まれるダノ村。
ずっと昔から変わらない素朴な村の雰囲気と村から眺めるピリキタ・ヴァレーの絶景を楽しむことができます。
村入口の墓地から眺めるダノ村
ダルトロから未舗装道路を登っていきダノ村に入ると、まず初めに通ることとなるのが村の共同墓地。
集落部分よりも少し高い場所に位置しているため、ダノ村全体を眺めることができます。
墓地はいくつかの石造りの祠と墓石が並んでいるだけの質素なもの。
各墓石には、この地域の精霊信仰のシンボルとなる模様が描かれてきたのですが、現在では風化してほぼ確認できなくなっています。
雄大な山々を間近に望む村の静かな風景を堪能したら、集落へと歩を進めていきましょう。
観光地化とは無縁なダノ村の風景
ダノ村の家々は、良くも悪くも生活感がただよっている印象。
壁も屋根も全て石造りだったダルトロに比べると、よりメンテナンスしやすいトタン屋根の建物が多く見られます。
村人の数よりも、馬やヤギ、牛などの家畜の数の方が多いダノ村。
雄大な風景の中でのんびりと育つ動物たちの姿が至るところで見られます。
村人はみんな気さくで、こちらが挨拶をすれば笑顔で手を振り返してくれる人も。
庭でおしゃべりに興じるおばさんたちや、椅子に座ってのんびりとタバコをふかすおじいさん。
ゆったりとした時間が流れる村の生活を垣間見ることができます。
あてもなく村を散策した後は、いよいよ集落の中心にある聖なる祠へと向かいましょう。
聖なる祠・ハティが象徴するトゥシェティ地方の宗教観
ダノ村の中心に位置するのが、村人の信仰の中心でもある石造りの祠。
ハティ(Khati)と呼ばれるこの祠は、トゥシェティ地方のどの村にも最低一つはあるもので、村ごとに大きさや形、装飾品などが多少変わってきます。
いくつかの村でハティを見てきたのぶよですが、ダノ村のものが最も立派だと感じました。
ハティは、この地域に遥か昔から息づいてきたアニミズム(精霊信仰)に、中世以降にもたらされたキリスト教やイスラム教、山を越えた先にある北コーカサス地域の民間信仰が混ざった、トゥシェティの人々独自の信仰の象徴となる存在。
チュヴティシュヴィリ(Chvtishvili)という自然を司る神の子供を祀ったもので、村ごとに異なるチュヴティシュヴィリが信仰の対象として崇められています。
ジョージア全体で、信仰の対象となる教会が絶好のロケーションに建てられているように、ハティが建つのも各村で一番見晴らしがよい地点であることが多いです。
ダノ村のハティは、さらに北へと続くピリキタ・ヴァレーの深い谷間を望む場所にあり、神聖な雰囲気と大自然の絶景が見事に調和した場所となっていました。
日本の古代の信仰にそっくり?トゥシェティ地方の信仰をさらに詳しく
先述の通り、トゥシェティ地方に現在でも息づく信仰はさまざまな宗教がミックスした独自のものとなっており、トゥシェティの人々のアイデンティティーを形成する要素の一つでもあります。
古代~中世以前のトゥシェティ地方では「イメルティ(Ymerti)」と呼ばれる自然を司る絶対神の子供たちが「チュヴティシュヴィリ(Chvtishvili)」とされ、大地と自然を治めるために人間と協力し、「デヴィ(Devi)」と呼ばれる悪魔と戦う存在としてハティ(祠)に祀られて信仰され続けてきました。
この自然・精霊信仰は、もともとはトゥシェティ地方に古代から独自に伝わっていた神話に基づいたものでしたが、中世初期にキリスト教がもたらされると、イエス・キリストや聖母マリアに対する信仰にも拡大解釈されるようになっていきました。
トゥシェティ地方の神話の核となり、独特であるのが、世界を形成する二つの相反する要素のバランスに重きを置く二面性で、これは男と女の二つの性に象徴されます。
・天国/理性/純潔さ/顕在意識:男性の象徴
・地獄/感情/不純/潜在意識:女性の象徴
これら二つの正反対の要素がむやみに混ざると「カオス」が訪れるとされました。
それを避けるために、トゥシェティ地方の社会では男性と女性は厳しく隔てられた生活がなされていました。
女性の月経時の経血は「最も不純なもの」とされたため、かねてから女性は村の神聖な祠に近づくことが許されませんでした。
これが後々キリスト教の修道院や教会に対しても拡大解釈され、現代にもトゥシェティ地方に女人禁制の祠や修道院などが多く残る理由となっています。
また、各村周辺には女性の月経時期に「洗礼」を行うための場所が現在でも残っているそうなのですが、詳しい場所は各村人だけが知る秘密となっており、よそから来た観光客は立ち入ることができません。
このように、男女が完全に隔てられた社会生活が営まれてきたトゥシェティ地方ですが、唯一この相反する二つの要素が交差するのを許されたのが、年に数回開催される祭りのとき。
現代の祭りでは、男女が競い合うゲームなどが開催されるのみですが、これはかつて「祭りのときが男女が唯一交流を持ち子孫を残すための機会であった」ことを象徴しているのではないかと考えられているそうです。
現代に暮らす私たちからすると、「どんな男尊女卑?」と感じてしまいますが、
・複数のチュヴティシュヴィリ(神の子供たち)が存在する多神教
・女性の月経を「穢れ」とする
・男女が完全に隔てられた社会
など、中世以前の日本でも同じような信仰があったとされる点にはとても興味深いものがありますね。
石造りの廃村は歴史の証人!クヴァヴロ
ダノ村とセットで訪れたいのが、クヴァヴロ(Kvavlo / კვავლო)と呼ばれる場所。
ダルトロ村の北にそびえ立つ山の頂上に位置する廃村で、かつてここに半定住していた人々の生活の跡が色濃く残っています。
山頂にあるため見晴らしは抜群なのは言うまでもなく、このエリアの歴史を象徴する存在でもあるクヴァヴロ。
ほとんどの民家はもはや人が住める状態ではなく、このまま静かに朽ち果てるのを待つだけとなっています。
完璧な状態で残る見張り塔
山のふもとに位置するダルトロからも見える山頂の見張り塔は、クヴァヴロのシンボルのような存在です。
高さ20mほどの堂々とした塔は、かなり良好な保存状態。(さすがに登ることはできませんが)
かなり急な斜面に建てられており、建設時にどれだけ大変だったか想像ができます。
見張り塔からさらに斜面を登っていくと、どうしてこの場所に苦労して塔を建てたのかすぐにわかります。
ふもとのダルトロ村の東西に続くピリキタ・ヴァレーを一望することができ、それ以外の南北方向は険しいコーカサスの山々。
つまり、この場所から見張っていれば、敵が谷間を通って東西どちらかの方向から侵入してきた場合は絶対に見逃すことがないのです。
この地理的条件を最大限に活かしたのが、見張り塔のさらに上に位置するクヴァヴロ村でした。
打ち捨てられた村の風景に歴史を感じる
見張り塔からさらに斜面を登っていくと、かつてここにあったクヴァヴロの集落が現れます。
もともとは、万が一敵が侵攻してきた場合にダルトロ村の人々が避難するための場所として築かれたものですが、中世以降は定住する人もいたそう。
時は流れ、もう敵の侵攻に脅やかされる危険も少なくなった現代。
山頂に位置しており、車が通れる道路がないという立地の不便さが災いし、定住していた人は全てダルトロ村に移り住んだため、打ち捨てられた廃村となってしまいました。
比較的きれいに残った家もあれば、屋根が崩れてもはや住める状態ではないものまで。
19世紀にリノベーションされて現在の石造りの町並みとなったダルトロ村に比べると、手入れが全くされないままに廃村となったクヴァヴロの家々は、良くも悪くも昔のままの状態です。
かつてここで営まれていた伝統的な生活に思いを馳せることができると同時に、雄大な山々の風景が間近に見られるのもクヴァヴロの魅力の一つ。
人々に忘れ去られたかつての「石造りの村」の散策と絶景を、心ゆくまで満喫することができました。
ダルトロ~ダノ村~クヴァヴロはハイキングで観光!
今回紹介したダノ村とクヴァヴロは、いずれも観光&滞在拠点となるダルトロ村のすぐ近くに位置しており、日帰り&セットでまわるのが理想的。
ダルトロ~ダノ村間は未舗装道路が通っており車両通行可能なものの、ダノ村~クヴァヴロ~ダルトロ間は一人歩くのがやっとな獣道しか通っていません。
歩きたくない人は、ダルトロ村で馬を借りる(50GEL(=¥1613)~/1頭1日)という手もあるものの、距離はさほど長くない&高低差も大きくないので、コーカサスの大自然を感じながらのんびりとハイキングするのが良いと思います。
ダルトロをスタート/ゴール地点として、ぐるりと円を描くように歩くことができますが、ダルトロ~クヴァヴロ間はかなり急な斜面となっているため、下りにまわした方が体力的にかなり楽。
ダルトロ→ダノ村→クヴァヴロの順(時計回り)に歩くのがおすすめです。
ダルトロ~ダノ村~クヴァヴロ間ハイキングルート概要
・所要時間:2時間半 +観光時間
・距離:5.5km
・高低差:▲420m ▼420m
【ダルトロ~ダノ村間】
ダルトロ村からは、西方向に緩やかに登る未舗装道路を歩いていくだけ。
途中ではだんだんと遠ざかっていくダルトロ村の全景を望むことができます。
・所要時間:1時間
・距離:2.9km
・高低差:▲320m
未舗装道路はかなり蛇行していて、地図で見るよりも長い距離を歩かなければなりません。
出発から2kmほどで、こちらの分岐点に至ります。
ここを左に500mほど行くとダノ村入口の墓地、右に行くとクヴァヴロ方面へと続く獣道となります。
【ダノ村~クヴァヴロ間】
ダノ村観光を終えたら、先ほどの分岐点まで同じ道を戻り、クヴァヴロ方面へと歩いていきましょう。
・所要時間:35分
・距離:1.8km
・高低差:▲100m
この区間は比較的平坦で、牛や馬が放牧されている牧歌的な風景が続きます。
途中で一か所、滝を越えなければならないポイントがありますが、流れはかなり穏やかなので危険もありません。
最後の数百メートル、山の稜線を緩やかに登っていく道の先にあるのがクヴァヴロです。
【クヴァヴロ~ダルトロ間】
クヴァヴロ~ダルトロまでは距離は短いものの、かなりの急斜面を下っていくこととなるので、想像以上に時間がかかります。
・所要時間:40分
・距離:1.8km
・高低差:▼420m
道の途中ではダルトロ村の美しい風景が徐々に近づいてきて、かなりの絶景ルートとなっています。
急斜面&足場が悪い箇所かあるので、足元にはくれぐれもご注意を!
おわりに
ダルトロに宿泊するならぜひ足をのばしたい二つの周辺スポットと、詳細な徒歩ルートを解説しました。
こんな世界の果てのような地域のさらに果てまでいったい誰がやってくるのか疑問ではありますが(笑)、大自然だけではなく、トゥシェティ地方の歴史や信仰など文化的な面も存分に味わうことができるおすすめの場所です。
他にもさまざまな見どころが点在しているトゥシェティ地方。
ぜひ時間をたっぷりとかけて、その魅力を感じてもらえれば嬉しいです!
コメント
以前にもコメントを差し上げた機関車好きと申します。
記事が一ヶ月以上更新されないので心配しておりました。Wi-Fiのつながりにくいジョージア東部を満喫されていたようで何よりです。私は東部は全く行く機会に恵まれなかったので興味津々で拝見しております。(東部は鉄道がない、というのも理由でしたが)トゥシェトィ地方の世界一危険な道路、確かに衝撃的ですね。しかしながらその先にある素晴らしい風景は行ってみたくなります。(実は運転する事が大好きなものですからあのような画像を出されると普通は尻込みするのでしょうが、自分は走ってみたい!と思ってしまいます)自由に旅ができるようになったら再びジョージアへ行きたいものです。
カズベキ山の朝日は私もあの教会の跡から眺めました。ホステルの人のお薦めの場所でした。レンタカーだったので運転して行きましたが、日の出直前は車内でも寒かったです。10時頃には頂上は暑い雲に覆われて終了となりました。一泊しかせずに美しい朝日に輝く山の全容を見れたので満足です。
9/27に始まったナゴルノ・カラバフ=アルツァフ紛争はどちらの言い分も理解できるので複雑な気持ちです。早く完全な停戦が履行できる事を願っております。アゼル人もアルメニア人も優しい人々なのですが….
それでは良い旅を続けてください。
小杉弘一 HN機関車好き様
コメントいただきありがとうございます!
実は、ジョージア山岳部や西部を1ヶ月半ほどいろいろとまわっていたのですが、トビリシの自宅にPCの充電器を忘れてしまい、ブログ更新ができなかったのです。
ご心配おかけして申し訳ありません。(温かなお言葉、ありがとうございます!)
トゥシェティ地方は日本語での観光情報がほとんど存在せず、アクセスも難ありなので、日本人で訪れる人は限られているのが現状だと存じますが、実際に旅してみるとそ旅行先としてのポテンシャルの高さに驚かされました。
自分で運転するのはさすがに恐ろしすぎますが(実際に事故の現場に遭遇したこともあり)、運転が好きな方なら挑戦してみたくなる気持ちはよくわかります。
カズベキの朝日の場所(町東側の高台の教会付近)は、知る人ぞ知るといった感じが強く、同じ場所であの感動的な朝日を鑑賞なさったということでとても嬉しく感じます。
一泊で朝日とカズベキ山の全景が拝めるとは、かなりの幸運だと思いますよ!
隣国の紛争や、コロナウイルスの再拡大など、現在ジョージアという国は難しい局面に入ってきているのは事実です。
アルメニアもアゼルバイジャンも未踏なのですが、すぐ近くにいるのに何もできないことが心苦しく感じます。