こんにちは!ジョージア滞在も2年半!世界半周中ののぶよ(@nobuyo5696)です。
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2022年2月24日。ロシア軍によるウクライナ侵攻のニュースが世界に衝撃を与えました。
大義なき侵攻によるウクライナ国家や国民の被害は想像を絶するものがありますが、この戦争による影響は、間接的に周辺諸国にも波及しています。
ウクライナ侵攻による影響を大きく受けている国のひとつが、ロシアとの陸路国境を有し、現在でもロシア国籍所持者がビザなしで渡航可能な数少ない国のひとつであるジョージア。
戦争勃発後から今に至るまでロシア人移住者が大挙してやって来た結果、かつてないほどに大きな変化を経験しています。
2022年も間もなく終わろうとしている今。この激動の一年間にジョージアで起こったことを、「ロシア人移住者がジョージアにもたらしたもの」という観点から振り返っていきたいと思います。
戦争による報道を見ていると「ロシア人=他国を侵攻している国の人間=加害者」と捉えてしまいがちなもの。
もちろん、ロシアという国家が今回の戦争による加害者であることに疑いの余地はありませんが、その国で普通に暮らしていた人々に対してもそれは当てはまるのでしょうか。
また、ロシア人の渡航&滞在先となったジョージアの現地の人々は、現状をどう捉えているのでしょうか。
開戦以前から現在に至るまでこの国に滞在し、多くのロシア人と接してきた立場から、2022年のジョージアで起こったことと、ごく個人的な所感を書き残しておきたいと思います。
ロシア人11万人が押し寄せた小国。ジョージアで起こっていること
ジョージアにロシア人が押し寄せた背景
ウクライナ侵攻が始まって以来、徴兵を恐れたロシア人が大挙してロシアを抜け出そうとする動きが見られたことは、連日のニュース報道で目にした人も多いのではないでしょうか。
特に大きな波があったのが、2022年3月初め(第一波)の数週間と2022年9月以降(第二波)の数ヶ月間。
いずれも、ロシア政府による部分的動員令の噂(2022年2月末)や、実際に発令された法令(2022年9月)を受けて、ロシアを脱出しようという人々が近隣国の国境に殺到します。
「世界最強」とも称される日本のパスポートとは異なり、ロシア国民に対してビザなし入国を認めている国は決して多くはありません。
また、戦争勃発後の制裁やロシア国籍所持者に対するビザ制度の厳格化などによって、彼らが自由に渡航可能な国は日を追うごとに少なくなっていきました。
ロシアを逃れようとする人々の間で、避難先としてポピュラーだったのが、ウズベキスタンやカザフスタンなどの中央アジア諸国や、アルメニアとここジョージア。
いずれも、開戦後でもロシア人のビザなし渡航を認めており、EU主導の経済制裁に参加しておらず、ロシア語が通用しやすい旧ソ連圏に属する国々です。
ではいったい、2022年にどれほどのロシア人がジョージアへ入国してきたのかというと…
・第一波(2022年2月末~3月中旬までの3週間):およそ10万人
・第二波(2022年9月の1ヶ月間):22万2274人
※ジョージア外務省の発表による(ソース)
と、驚くべき数字が発表されています。
特に顕著だったのが、2022年9月の部分的総動員令発令前後の第二波。
たったの1ヶ月で20万人以上の人がロシア・ジョージア唯一の陸路国境に殺到し、国境・物流は大混乱に陥りました。
上の数字はあくまで「入国した人数」であり、ジョージア入国後に第三国へ出国した人や、ロシアへ戻った人の数も含まれています。
ジョージアの場合、2022年2月末の開戦以降に入国し、そのまま滞在しているロシア人の数は、2022年11月時点で11万人以上と言われています。
ジョージアの全人口が380万人なので、現在この小さな国に居住・滞在しているすべての人間の中で、およそ40人に1人は戦争勃発後にジョージアへと逃げてきたロシア人という計算になります。
これだけ多くの人が、これほどの短期間に小さな国に一気に殺到すると、さまざまな問題が生じるもの。
実際に、2022年のジョージアでは、かつてないほどに急激で大規模な変化が見られました。
ロシア語しか聞こえなくなった町
急激なロシア人移住者の波は、ジョージアの大都市の雰囲気を一変させました。
ジョージアに逃れて来た11万人のロシア人のうち、ほとんどが首都のトビリシか西部のビーチシティー・バトゥミのいずれかの都市に滞在しているとされ(=つまりトビリシに5万人/バトゥミに5万人)、いずれの都市でも急激な「ロシア化」が進みます。
100万人都市であるトビリシの場合は、20人~21人に1人がロシア人移住者という計算になります。
これでもかなり多いのですが、さらに驚愕なのが黒海沿岸のバトゥミ。
バトゥミの人口はもともと15万人程度。そこに5万人のロシア人が押し寄せた結果、なんと町の人口の4人に1人がロシア人という驚異的な割合となっています。
この数字に偽りはなく、2022年末のバトゥミはもはやロシアの植民地のような状態。
街を歩いていても、スーパーで買い物していても、レストランに行っても…聞こえてくるのはロシア語ばかりという現状です。
ジョージアは1991年までソ連の支配下にあったこともあり、そもそもロシア語の通用度がとても高い国。
地元の人も母語であるジョージア語に加え、流暢なロシア語を話せる人がほとんどですが、ここまでロシア語ばかりが街で聞こえてくる状況というのは前代未聞のように思います。
家賃や物価の急騰
2022年3月のロシア人移住者殺到(第一波)以降、ジョージア都市部の家賃相場は急騰しました。
ロシア人の所得水準は、一般的なジョージア人の2倍近く。
特に、第一波でジョージアに逃れて来た層は都市部在住の裕福な層だったこともあり、ジョージアの現地人と彼らとの金銭感覚には大きな開きがあったように思います。
・ロシアの平均月収:61879RUB=$870=¥116,000
・ジョージアの平均月収:1250GEL=$450=¥60,000
※ソース:take-profit.org
所得水準が半分ほどの「安い国」ジョージアに、10万人ほどのロシア人がたったの3週間という短期間で殺到したことにより、まず最初に変化したのが家賃相場。
それまで低い水準で抑えられていたジョージア都市部の家賃相場は、数週間にして2倍~3倍に高騰します。
それまで部屋を借りていた地元の人や外国人が追い出され、代わりにロシア人向けに数倍の家賃で貸し出そうとする悪徳な家主も次々に現れ、家賃高騰は社会問題の様相に。
さらに、この家賃相場の急騰が3月~4月にかけて起こったのも不運。
この春先の時期は新学期の直前で、ちょうど地方部出身の学生が大学のある都市部で部屋探しをする時期にあたります。
家賃相場高騰によって住む場所が見つけられない/たとえ部屋を見つけたとしても到底払える金額ではない…そんな地方部出身のジョージア人が、ホステルやゲストハウス等の格安宿泊施設に流れた結果、賃貸ではない一般の宿代相場も急上昇しました。
家賃上昇による社会混乱に歯止めが効かぬ中、戦争勃発後からの天然ガス・石油価格の急騰による影響で暖房費や電気代が上がり、輸送費も高騰しはじめました。
運搬コストが上がったことで食料品や日用品など身近な品物も日に日に高騰していき、レストラン等の外食産業も値上げを余儀なくされます。
こうして、ジョージアでは空前絶後のインフレーション(物価高騰)が巻き起こったのです。
ジョージアに逃げて来たロシア人の思うこと。
「戦争を逃れてジョージアに逃れてきたロシア人」といっても、ひと括りにできるものではありません。
人によって戦争に対する考え方は様々ですし、教育水準やロシアで送っていた生活の水準も多岐に渡るでしょう。
個人的な肌感となりますが、彼らがジョージアに渡航してきた時期によって、大きく二種類のタイプに分けることができるように思えます。
・2022年3月:開戦後すぐに来たロシア人(第一波)
・2022年9月:部分的総動員令の前後に来たロシア人(第二波)
両者の間には、同じ「ジョージアに逃げて来たロシア人」とはいえ、大きく異なる部分があるように思います。
第一波のロシア人
2022年3月の開戦直後、ジョージアへ避難するロシア人の波(第一波)の際は、彼らの状況はより逼迫していました。
この第一波のきっかけは、「総動員令が発令されるのでは?」という噂がロシア国内で流れたこと。
現地ではパニックが起こり、ありあわせの現金と最低限の荷物だけを持って、文字通り「避難」してくる人が多かったように思います。(結局このときは噂止まりで、実際に部分動員令は発動されなかった)
この第一波の時期に避難してきたロシア人の間に共通していたのが、強い反戦の機運。
トビリシでも連日のようにウクライナへの連帯を示すデモが開催され、避難してきたロシア人がデモに参加して反戦を訴えるという光景も多く見られました。
この時期に避難してきたロシア人は、比較的裕福な都市部出身者が多かったことも特徴的。
すぐに避難を決断できる貯蓄や、リモートで賃金を得られるスキルを持ち合わせていた人も多く、彼らの存在がその数ヶ月後から始まるジョージアの好景気の土台となったことは間違いないでしょう。
第二波のロシア人
開戦直後にジョージアへ渡航してきたロシア人と少し事情が異なるのが、2022年9月に発令された部分的総動員令以降(第二波)に入国してきたロシア人たち。
第一波とは比べ物にならないほどに多くの人が殺到し、ジョージア~ロシア間の陸路国境は大混乱に陥ります。(ジョージア~ロシア間には飛行機の直行便の運航がないため、多くの人は陸路国境を越えようとした)
この時期にジョージアへ渡航してきた層は、都市部出身者だけではなく、地方部出身で裕福ではない層も多く含まれていました。
彼らを待ち受けていたのは、「話に聞いていた”ジョージア”ではない」という現実。
ジョージアの家賃相場はすでに高騰しており、第一波でやって来たロシア人に占拠されているため、空きもほとんどない状態。
アパートを探したいのに見つけられない「アパート難民」が多く出ることとなり、トビリシやバトゥミの安宿は、アパートが見つけられないロシア人で連日大盛況という状況になりました。
第二波のロシア人は、第一波のロシア人に比べて資金力もなく、リモートワークできる職種とは無縁の人生を送って来た人も多数。
「住む場所も見つけられない、仕事もない、でも手持ちのお金は減っていく」ということで、出費を抑えるために外出せず宿に籠った状態の「外こもりロシア人」の存在も多く見られるようになります。
また、さまざまな事情があるにせよ、「2022年2月の開戦から7ヶ月以上が経って逃げてくるというのは、少々都合が良すぎるのではないか?」とのジョージア人からの批判も聞こえるように。
戦争中とは言え比較的状況が落ち着いていた2022年の夏に、ビーチリゾートでバケーションを楽しんでおいて、総動員令が発令されるやいなや安全地帯に逃げて来たロシア人に対して、疑問を唱えるジョージア人も少なくなかったように思います。
第二波でやって来た人の中には、「心の中では戦争を支持しているにもかかわらず、いざ自分が戦争に行かされるという立場になると行きたくないのでジョージアに逃げて来た」という、あまりに自分本位なロシア人も。(実際に出会った)
避難してきたロシア人の間でも、戦争に対する考え方が大きく異なるというカオスな状況も珍しくなくなってきます。
とはいえ、多くのロシア人にとっては、部分総動員令の発令は自身の生死がかかった問題であった点は事実。
「戦争が自分の身近に感じられないと行動できない」というのは、批判するのは簡単でも、人間誰しもが持つ部分であり、決して責められて当然というわけでもないように感じます。
・ジョージア陸路国境で3日間待たされてようやく入国できた
・ジョージア入国の2日後に動員令で招集がかけられた(本人は出国しているので逃げられた)
・カザフスタン入国ができず、どうにかジョージアに入国ができた
・ロシアに再入国すれば即逮捕される(動員令を無視したため)
こうした話を聞くたびに、想像を絶する苦労や恐怖があったのだろうと思いますし、「もし自分が同じ立場に置かれたら、どう行動するだろう…」と考えさせられるもの。
彼らが開戦から7ヶ月以上経ってジョージアへ逃げて来たことを責める気持ちには、個人的にどうしてもなれません。
確かにロシア人はジョージアの経済に貢献している
ジョージアへのロシア人移住者の波によって、ジョージアの経済はバブルのような状態に突入します。
・2022年10月までのロシア人によるジョージア経済への貢献:5憶ドル=668億円
・ジョージア通貨ラリ:対ドルでここ数年間で最高値を記録
・ロシア人によるジョージアの銀行口座への新規預金額:4億5千5百万ドル=608億円
・ロシアからジョージアの銀行口座への送金額:11億ドル=1470億円
・ジョージアで新規登録されたロシア人による会社:9950社(前年比の10倍)
※数字はすべて2022年1月~10月までのもの(ソース)
家賃相場の上昇で潤う地元民や、ロシア人による圧倒的な購買力など、さまざまな要因があるでしょうが、最大の理由はジョージアがロシアに対して経済制裁を課していないため。
ロシア発行のクレジットカードこそ使用できないものの、銀行口座の開設や国際送金などは制限されておらず、1年足らずの間にロシア人マネーが流入したことになります。
その結果、ジョージア経済はかつてないほどの好調さで推移しており、2020年~2021年の2年間のコロナ禍での景気後退から見事なまでの回復を遂げました。
・2022年7月~9月時点の平均月収:前年比22%増の1595GEL(=$593=¥79194)を記録しました。
・2022年の月別GDP:前年比+8%~10%台で推移
※ジョージア国立統計局発表による(ソース)
このように数字だけを見ても、ロシア人移住者が2022年にジョージアにもたらした影響はとても大きいことが分かります。
新しい習慣やビジネス
ロシア人がジョージアにもたらしたものは、好景気だけではありません。
彼らが滞在先としたトビリシやバトゥミなどの大都市においては、これまで存在しなかった習慣や新たなビジネスが持ち込まれ、考え方の多様化がたった1年間の間に大きく進んだ一面も見逃せないでしょう。
・布製エコバッグの流行
・クラフトビール屋の盛況
・高価格帯のカフェが次々に開業
・オーガニック/ベジタリアン食材の流行
興味深いのが、はじめはロシア人の間だけの習慣として根付いていたものでも、ジョージア人の若者を中心に「お洒落なもの/最先端のもの」として徐々に受け入れられていく現象。
布製のエコバッグはトビリシの若者層に定着した感じがしますし、カフェ文化やオーガニック食材も一部富裕層の間ではポピュラーとなったように思います。
また、ロシア人が経営するカフェやオーガニック思考のショップも次々にオープンし、それまでのジョージアには存在しなかったビジネスが開かれつつある点も印象的。
地元の人に受け入れられて一つのジョージア文化となっていくのか、それともロシア人の内輪だけでの盛り上がりで終わるのか…その結末は、まだ誰にも分かりません。
我が物顔の宗主国しぐさ
…と、ここまでは好景気や新しい文化の流入などポジティブな面を語ってきましたが、物価の上昇や家賃相場の急騰などのマイナス面がつきまとってくるのは言わずもがな。
個人的に、ジョージアに逃げて来たロシア人の多くに関して最も疑問に感じるのは、「ジョージアという異国にいながら、現地を尊重しようとする人が少ない」という点。
ロシア人はロシア人同士で固まりますし、彼らの強固なコミュニティー内ですべての物事が回っているのはどこか不思議に映ることがあります。
文化的な違いなどから、自国民同士で固まりがちなのは、ある程度は仕方がないこと。
しかしながら、モスクワやサンクト=ペテルブルグなどの「先進的な」町と比較して「ジョージアではあれがない!これが不満!」と声高に主張する人に出会うと、どうしようもなく変な感じがします。
特によく耳にするのが、ジョージアの物価が想像以上に高いことへの不満。
のぶよ的には「は?あなたたちがどっと押し寄せたからこんなに物価上がってこっちも苦しいんですが?」と反論したくなること極まりないのですが…
経済的な恩恵のためや、国際関係上のバランスなどの要因から、ジョージア政府がロシアという国家に対して制裁を行っていないことや、ロシア人の入国に制限をかけていないのは事実。
ロシア人はいわば「ジョージアに恩をかけてもらっている」立場なわけで、そこに不満を言うというのは、ちょっと理解に苦しむものがあります。
もちろん全ての人がそうだというわけではなく、一部の人の行動や言動が目立ってしまっているわけですが、ジョージアはロシアの植民地ではありません。
この一部ロシア人の傍若無人な態度を「宗主国しぐさ」と呼んでいるのですが、やはり自国以外をあからさまに下に見ている人は不愉快だなあと感じてしまいます。
ロシア人を受け入れるジョージア人は複雑な感情
ここまで、ジョージアに逃れてきたロシア人の背景や、ジョージアという国レベルでの変化について書いてきました。
それでは、ジョージアの人々は2022年に自分たちの国に押し寄せたロシア人の波に対してどのような感情を抱いているのでしょうか。
もちろん、人によって親露的な人や反露的な人など様々な意見があるでしょう。
(個人的な肌感では「もうこれ以上ロシア人には来てほしくない」という人が多い気がするけど)
一つだけ言えるのは、ジョージアの人々の多くが「板挟み」のような複雑な感情を抱いているということです。
(表向きは)受け入れている人が多い
ジョージアとロシアの間には、アブハジアや南オセチアをめぐる領土問題が依然として存在しています。
2008年の南オセチア紛争以降、ジョージアのロシアに対する国民感情は大幅に悪化しました。
2022年のロシア人移住者の波に関しても、「ロシア人のビザなし入国を制限するべきだ」という声は多く聞かれました。
しかし結果的には、入国制限やビザ要件の厳格化などが行われることはなく、これまでと同様にロシア人がビザなしで入国できる状況が続いています。
ジョージア政府のいわば「弱腰」とも言える対露方針に対して批判的な声も根強いものの、「仕方がない」と受け入れている人の割合も比較的多いのが特徴的。
(少なくとも表向きでは)ロシア人だからといって差別的に扱う人は決して多くないように思います。
あまりに多すぎるロシア人に対する恐怖
表向きこそ、大挙してやってきたロシア人を受け入れている人の割合が多いジョージアですが、「ロシア人の入国を制限すべき」という声も根強いです。
歴史的な問題もありますが、よく聞かれるのが「ロシアが”自国民保護”を名目にいつかジョージアを侵攻のターゲットにしてくるのではないか」という論調。
2022年のウクライナ侵攻、そして2014年のクリミア侵攻の際に、ロシア側が共通して大義名分として掲げたものの一つに「現地で不当な扱いを受けているロシア民族の保護」というものがありました。
そもそもジョージアにはロシア系住民の数はとても少なく、これまでジョージア系住民とロシア系住民の間で表立った対立が起こったことは記憶にありませんが、1年間のうちに一気に押し寄せた10万人以上のロシア人たちがこのままジョージアに残るとすれば、彼らは「ジョージアに住むロシア系住民」となります。
言語的、文化的な違いから、問題が生じてくるのは目に見えていますし、将来的に「ジョージアに居住するロシア人保護」を名目にこの国がターゲットにされる可能性はゼロとは言えません。
ジョージアの場合は、2008年の南オセチア紛争時の苦い記憶がいまだに色褪せていないということもあり、「ロシアがいつか再びジョージア領を攻撃してくるのではないか」と考える人が一定数いるのも納得がいきます。
ロシア人バブルを享受する人とそうでない人
ロシア人流入による好景気は、ジョージアの社会や人々を二分させました。
家賃高騰によって思わぬ高収入を得た不動産所有者や、飲食店等のビジネスに携わる人にとっては、思わぬ形でロシア人バブルの恩恵を享受することができたと言えるでしょう。
しかしながら、こうした層はジョージアでは少数派。
主にトビリシやバトゥミに住む、もともとお金にさほど困っていなかった層だけが恩恵を受けられたと言えます。
この国の人口の大半を占める都市部の庶民層や地方部在住のジョージアの人々は、急激すぎる物価の上昇に困窮し、家賃が払えず住む場所に困っている状況にある場合も。
都市部における路上生活者の問題や、国全体の失業率の問題はいまだに山積みであり、治安の悪化も懸念されています。
反露感情はものすごく根強い
表立ってロシア人を拒否する人こそ少数派ですが、歴史的・政治的な問題のために、ジョージアには反露感情が根強い点も事実。
戦争勃発直後は、差別的な落書きやあまりに理不尽なルールを掲げる飲食店なども目立っていたもの。
それを正当化する人と反対する人の間で、ある種の論争が起こったこともありました。
・ロシアナンバーの車を青と黄色のペンキで落書き
・トビリシで一番の高級ホテルが入口に差別的な文言を掲げる
・ロシア国籍者は20%多く払わなければいけない飲食店
・ロシア国籍者の宿泊お断りの宿
ジョージアの人々は、何人であろうと分け隔てなく接してくれる場合がほとんどではありますが、やはり「本音と建前」はあるよう。
個人的に印象的だったのが、ロシアと関係のない外国人ということもあってか、ジョージア人から反露的な話(「ロシアは大嫌いだ」「本音を言うならロシア人を宿に泊めたくない」「ロシア人の入国を禁止すべきだ」etc)をされることもしばしばあったこと。
特にアルコールが入った場では、高確率でその話題になることも多いように思います。
いち他所者があれこれ言える話ではありません。
しかし、一見懐が広そうに思えるジョージアの人々の間でも、ロシアという国や国民に対する感情はとても複雑であると実感させられる場面が、この2022年にはものすごく多かったように思います。
おわりに:国家と個人を分けて考えることの難しさ
出身国という大きな枠組みだけを用いて、ある個人を判断するべきではありません。
しかし、そこは人間。どうしても「国家」という大枠に当てはめて個人を判断しがちなのは仕方がないことですし、ロシアという国が現在進行形で行っていることは許しがたいものがあるため、国家に対する負の感情が個人へと繋がってしまいがちなものです。
「ジョージアに逃げてきたロシア人」とひとことで言っても、個人によって事情や考え方は様々。
ジョージアでビジネスチャンスをつかんだロシア人もいれば、収入の糸口がなく困っている人もいますし、強い反戦意識を持つ人もいれば、宗主国しぐさでジョージアという国を偉そうに闊歩する人もいます。
しかし、多くのロシア人にとっては、この戦争が続く限りどこにも帰る場所がないというのも事実。
侵攻を受けているウクライナの人々が被害者であるのはもちろん、自国の行っていることに異を唱えてジョージアに逃げざるを得なかった大多数(だと信じてる)のロシア人もまた、この大義なき戦争の被害者なのかもしれません。
個人的には、ジョージアで出会ったロシア人に対しては負の感情を持つことはあまりなく、むしろどちらかというと付き合いやすい人が多い印象。
初対面での適度な距離感であったり、内輪社会の文化であったり、「どこか日本人に似ている気質だな」と親近感を感じる場面も少なくありません。
今後、ウクライナでの情勢がどうなっていくのか、それに伴ってジョージアがどのような影響を受けるのかは、現時点では誰にもわからないこと。
2023年がどのような世界になろうとも、個人と国家を区別して考えることができるよう、気をつけていたいものだと思います。(それが時にとても難しいのだけれど)
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