こんにちは!ジョージアの秘境・トゥシェティ地方をのんびり旅行中、世界半周中ののぶよ(@nobuyo5696)です。
(世界半周についてはこちらの記事へどうぞ。)
トゥシェティ地方の小さな村をこまごまと周ること2週間。
どこもコーカサスの奥地らしい美しい風景の村ばかりで毎日が感動の連続なのですが、その中でも圧倒的な秘境感漂うエリアを旅してきました。
それが、ゴメツァリ渓谷(Gometsari gorge/გომეწრის ხეობ)です。

ゴメツァリ渓谷とは、トゥシェティ地方滞在の中心となるオマロ村から北西方向を流れるトゥシュリ・アラザニ川が形成する深い渓谷地帯のこと。
標高1800m~2300mほどの地点には伝統的な趣を強く残した小さな村が点在しており、どの村もそれぞれ個性溢れるたたずまいです。


ゴメツァリ渓谷において何よりも素晴らしい点が、観光地化の波がまだ到達しきっていない点。
かつては「ジョージア最後の秘境」と称されたトゥシェティ地方ですが、ここ数年で一気に観光客向けにひらけ、有名どころの村には多くの旅行者の姿が見られるようになりました。
しかしゴメツァリ渓谷は知名度が高くない&アクセスにやや難ありなため、限られた日程で訪問する人は少ないのです。

そんなわけで、ゴメツァリ渓谷の村々ではトゥシェティ地方のピュアな魅力が強く感じられるもの。
旅行者向けにお見せする用ではない、本物のトゥシェティ地方らしさを感じたい人には、ここ以上のエリアはもう残っていないかもしれません。
のぶよはゴメツァリ渓谷エリアに合計3日間滞在したのですが、「ここを訪れずに秘境なんて言葉を使うのは甘え!やれ秘境それ秘境と言いたがるキラキラ旅界隈は滅びろ!」と常に感じていましたから。


ゴメツァリ渓谷の各村や各見どころへは基本的に自分の足で歩くしかなく、正直絶望的に不便な場面も多々あります。
しかしそれが逆に、「体力と時間に余裕がある人だけが楽しめる極上の秘境」といった特別感を演出しているのかもしれません。
というわけで今回の記事は、トゥシェティ地方最後の秘境かもしれないゴメツァリ渓谷の観光情報を徹底解説するもの。
見逃せない見どころから宿情報、絶景カフェまで…この素晴らしいエリアを旅するバイブルのような大ボリューム記事となっています!
日本語でも英語でもいっさい情報がないゴメツァリ渓谷。
おそらくこんな需要皆無ながらも魅力は無限大なエリアを特集した記事は世界初だと思うので、これを無料で&日本語で読める幸せを噛み締めながらお読みいただければ(笑)
ゴメツァリ渓谷観光マップ
赤:飲食店
紫:ゲストハウス
ヨーロッパで最も標高が高い村?ボチョルナの見どころ

オマロ方面からゴメツァリ渓谷エリアに入って最初の村がボチョルナ(Bochorna/ბოჭორნა)。【マップ 青①】
深い山々を一望する山の中腹にひらけた小さな集落で、村の遠景からすでに美しさが感じられます。
・距離:片道8.4km
・所要時間:片道2時間半~3時間
・高低差:▲537m ▼149m
・難易度:★★☆☆☆


実はボチョルナ、「ヨーロッパで最も標高が高い村」を自称(?)しており、その標高はなんと2345m。
同じく「ヨーロッパで最も標高が高い村」とされるスヴァネティ地方最奥部のウシュグリ村(標高2200mほど)と比べても、ボチョルナの標高の高さは際立っています。
しかし、年間を通して住人がいるウシュグリに対して、ボチョルナはトゥシェティ地方の他の村と同様に冬季は無人になる村。
そのあたりが「最も標高の高い”村”」の定義的に微妙と言えば微妙なのかもしれません。
石造りの村を散策

ボチョルナの集落に入ると、多くの建物が黒っぽい石を積み上げて作られていることに気がつきます。
現在でこそ屋根だけトタンの建物も多いですが、かつては屋根まで全て石造りだったそう。
この山奥で石を積み上げて建物を造った人々の苦労に、頭が下がります。


ボチョルナには合計で十数軒の建物があり、人が住んでいる気配があるのは半分ほど。
残りはすでに廃屋となっており、ひっそりとした雰囲気が小さな村を覆っています。

村からはゴメツァリ渓谷を一望できることもあり、かつて敵の侵入に備えて建設された見張り塔も残っています。


集落は山の斜面にひらけているため、散策して周るのもなかなか大変。
村人はこの斜面を毎日登ったり下りたりしているわけで、生活の不便さは想像を絶するものかもしれません。

ボチョルナは、村の遠景も村から眺める風景も素晴らしい村。
東側にはオマロ村のシンボルであるケセロ城塞が、西側にはゴメツァリ渓谷の深い谷間が見え、山々に浮かび上がるかのような集落の風景は「天空の村」そのものです。


ボチョルナの集落は、ぐるりと周っても30分ほどの規模。
天空感を十分に満喫したなら、ボチョルナ名物の民家カフェに立ち寄ってみましょう。
ボチョルナの絶景民家カフェ

観光自体はすぐに住んでしまうボチョルナですが、この村では見逃せないスポットがひとつあります。
それが、集落の中で最も低い場所にある民家に併設されたカフェ。【マップ 赤】
飲み物はもちろんフード類も置いてあり、ちょっとしたショップも兼ねている、トゥシェティ地方の村でよくある形態のお店です。


この民家カフェのウリは、何と言っても極上の眺め。
(自称)ヨーロッパで最も標高が高い村から眺める山々の風景を目の前に、のんびりとくつろぐことができます。

メニュー類は限られておりどれも山プライスではあるものの、ヒンカリ(1個3GEL=¥150)やトゥシェティ風ハチャプリのコトリ(10GEL=¥500)など定番系が食べられます。
柔らかな態度で笑顔が素敵な、店のおばちゃんおすすめのヒンカリを注文することにしました。▼

このお店のヒンカリは、完璧な見た目の山岳地域風。
ぺちゃっと潰れた形に厚めの小麦粉生地が特徴的で、ひだひだの折り方も美しいです。
トゥシェティの山々を眺めながら名物のヒンカリが食べられる幸せを噛み締めながら、茹でたて熱々のヒンカリちゃんをひと口…
!!!!!!!!!!!めっちゃくちゃ美味しいです!!!


トゥシェティ地方ならではの羊と牛の挽き肉は配合がパーフェクトで、牛の旨味も感じられつつ羊の風味も味わえる絶妙さ。
挽き肉に混ぜられたみじん切りの玉ねぎも良いアクセントとなっており、とにかく肉のジューシーさと旨味が異次元です。
手作りの生地の厚さやもっちりした質感も素晴らしく、全体的にものすごいレベルの高さ。
正直、こんな山奥の村でこんなに美味しいヒンカリに出会えるとは期待していませんでした…

自家製ヒンカリの感動的な美味しさはもちろん、眺望もお店の人の気さくで柔らかな感じも素敵な、ボチョルナのカフェ。
ゴメツァリ渓谷にはここ以外に飲食店は存在しませんし、観光の際の腹ごしらえにはぴったりです!
「戦士の村」と呼ばれる隠れ里!ドチュの見どころ

ボチョルナから緩やかな下り坂の未舗装道路を歩いていくと、遥か眼下に小さく見えてくる集落があります。
それが、ゴメツァリ渓谷全体の観光ハイライトとなるドチュ村(Dochu/დოჭუ)。【マップ 青②】
人目を憚るように見えにくい場所に広がる集落は、まるで隠れ里のような印象を与えます。
・距離:片道5.5km
・所要時間:片道1時間半
・高低差:▲77m ▼336m
・難易度:★★★★☆
未舗装道路~ドチュ村間は直線距離ではたったの数メートルしかありませんが、高低差は300m近くあるのがポイント。
ドチュ村まではものすごい傾斜の下り坂を下っていくしかなく、帰りは同じ坂を登る必要があります。


未舗装道路から眺めるドチュの遠景も素敵ですが、ここまで来たなら集落内まで足を運びたいもの。
「急坂を歩くのは無理!」という人でも、次に紹介するビューポイントまでは車両通行が可能なのでぜひとも…!
ドチュ村ビューポイント

ドチュ村の美しい風景を堪能したいなら、未舗装道路の分岐点からつづら折りの坂道を800mほど下った先のビューポイントまで行くのがおすすめ。【マップ 青③】
深い谷間に隠れるようなドチュ集落のミステリアスな風景を近くで眺めることができ、石造りの民家の厳めしいたたづまいなど、ディテールまで確認できます。

車両でアクセス可能なのはこのビューポイントまで。
ドチュ集落自体まではさらに300mほどの険しい山道を徒歩で下る必要があります。

現在でも道路が敷かれていないドチュ村では、荷物の運搬にロープウェイが現役で使用されているのも独特。
村での生活は想像を絶するほどの不便さだと思いますが、今でも数十人の住人がおり、生活の香りもちゃんと感じられます。
ドチュの集落内を散策

体力と時間が許すなら、ビューポイントからやばすぎる傾斜の急坂を徒歩で下って集落内へと歩を進めましょう(帰りはこのやばすぎる急坂を登らないといけない点はお忘れなく!)。
ドチュは、山の急斜面に寄り添うようにして石造りの民家が建ち並ぶ美しい村。
東側の集落と西側の集落に分かれており、二つの集落の間を滝から流れ出た小川が隔てています。


正直「どうしてこんなところに村を作ったんだろう…」と感じてしまうほどの不便な立地なのですが、ドチュ村の独特な立地にはちゃんと理由があります。

ドチュ村が位置するゴメツァリ渓谷は、かつて外敵がトゥシェティ地方へと侵攻して来る際の定番ルートだったそう。
山の中腹にあるドチュ村は、山の上からは影になって見えにくく谷底からは村の姿が全く見えないのですが、逆にドチュからは眼下に広がる渓谷を一望することができます。
このドチュ独特の立地は外敵からの防衛拠点としてぴったりだったよう。
トゥシェティ地方に外敵が侵入してきた際に、ドチュの男たちは最初にそれを発見して迎え撃つことを使命だと考えていたのだそうです。


そんな歴史から、ドチュは「戦士の村」との異名を持つように。
現在でこそ外敵に悩まされることはなくなりましたが、トゥシェティ地方を守るという使命に駆られた戦士らしい気高さは、今でもドチュ村にほんのりと漂っているような気もします。

そんな誇り高きドチュの集落内に足を踏み入れると、人影がほとんどないひっそりとした雰囲気に包まれます。
集落内の建物は、もう3分の2ほどが廃屋になっているよう。
ちゃんと手入れされている民家から半壊している民家までが混在しています。


ドチュ集落内もアップダウンが結構激しいのですが、どの角度からも美しい村の風景が広がるのが素晴らしい点。
全ての建物が、トゥシェティ地方伝統の三層構造の石造り住宅となっており、真っ黒な塔のような建物がずらりと並ぶ光景は圧巻です。

また、固い印象の黒い石造りの民家群に温かみを添えるのが、木製のバルコニー。
ドチュの民家の大半に木製バルコニーが設置されており、景観を独特なものとしています。
ドチュ集落内の聖地をめぐる

トゥシェティ地方のどの村にも存在する、古来からの精霊信仰とキリスト教がミックスされた聖地。
民家と同様に石を積み上げて作られた祠は「ハティ」と呼ばれ、現在でも村人の信仰の対象として機能しています。
ドチュ村にはのぶよが確認しただけで3ヵ所のハティがあり、人口規模を考えると異例なこと。
「戦士の村」らしく、戦いに駆り出される機会が多かったことも、信仰心の篤さや聖地の多さと関係しているのかもしれません。


ドチュに点在するハティは、こぢんまりとしたものから、動物の骨が飾られた威厳たっぷりなものまでさまざま。
どのハティも見晴らしの良い場所に設置されており、蝋燭を供えた跡や飲み会の跡(トゥシェティの男たちはハティの前で酒盛りをする)が見られ、現役の聖地として人々の生活に密接していることが感じられます。

ドチュだけではなく、トゥシェティ地方のハティは女人禁制である場合が多いので、女性はご注意を(ドチュでは特に表示などなかったけど、たぶんここも女人禁制)。
女性は祠に近づくだけでもNGで、万が一それを村人が見つけると相当の怒りをかいます。
渓谷沿いの絶景村!ジュワルボセリ周辺の見どころ

ゴメツァリ渓谷の最奥部にある小さな村がジュワルボセリ(Jvarboseli/ჯვარბოსელი)。【マップ 青④】
ゴメツァリ渓谷を形成するトゥシュリ・アラザニ川と、さらに奥のツォヴァタ渓谷を形成するツォヴァティスツカリ川が合流する地点に位置しており、周辺には小さな集落がいくつも点在しています。
・距離:片道10.6km
・所要時間:片道2時間半~3時間半
・高低差:▲391m ▼555m
・難易度:★★☆☆☆
ジュワルボセリの村自体もかなり美しく、とてつもない秘境感がただよう村の遠景は必見。
雄大な渓谷美も、各集落の伝統的な雰囲気も楽しむことができます。


ジュワルボセリには、ゴメツァリ渓谷全体で数軒しかないゲストハウスがあるのもポイント。
周辺にはみどころがたくさんあるので、この村に宿泊しながら観光するプランがおすすめです。
ジュワルボセリ村の絶景

ボチョルマやドチュ方面から延々と未舗装道路を歩いた先に、ようやく見えてくるジュワルボセリの村。
トゥシュリ・アラザニ川が形成する渓谷に沿った山の中腹にひらけた集落の風景は、まるで楽園のような雰囲気を放ちます。


遠くから見ても、近くで見ても、それぞれ異なる美しさがあるジュワルボセリ。
背景となる山々の雄大な姿も含めて、とても絵になる風景が見られます。

しかしながら、「美しい薔薇には棘がある」とはよく言ったもの。
ジュワルボセリ集落までは車両の乗り入れができず、渓谷の底を経由する山道を歩かなければならないのです。
秘境らしくアクセスは大変!ジュワルボセリ集落への道

ここまで歩いてきた未舗装道路は、ジュワルボセリ村がある山の中腹とトゥシュリ・アラザニ川を隔てた対岸に敷かれています。
そのため、ジュワルボセリの村内に行くためには、川をわたる必要があります。


しかしながら、川には車両が通行可能な橋が架かっておらず、徒歩でしか渡れない恐怖の木橋があるだけ。
しかもこの橋は谷底部分にあるため、未舗装道路から急斜面を一度下って橋を渡り、再び斜面を登ってジュワルボセリ村まで歩く必要があるのです。

無事に橋を渡っても、ジュワルボセリ側の上り坂はかなりのもの。
これしか村へのアクセスルートはないため、周辺を観光する際にはいちいち谷底への上り下りを繰り返すことになります。
ジュワルボセリ村内を散策

どうにかしてジュワルボセリの集落に到達したら、斜面に家々が林立する風景の中を散策しましょう。
多くの家が伝統的な黒い石造りで、重厚な雰囲気がただよっています。


このときは9月前半だったのですが、すてに村人の大半は山を下ってしまっていたよう。
集落には人影はほとんどなく、静寂が石造りの家々を覆っていましま。
ヴェルホヴァニの滝

ジュワルボセリ集落から西に1kmほど。
ヴェルホヴァニという別の集落がある断崖絶壁から流れ落ちる美しい滝があります。
これがヴェルホヴァニの滝(Verkhovani Waterfall/ვერხოვნის ჩანჩქერი)。【マップ 青⑤】
ジョージア人旅行者の間では結構有名なスポットなのだそうです。


ヴェルホヴァニの滝の規模はそこまで大きなものではありませんが、数段に分かれて流れ落ちる水の優雅なフォルムは印象的。
晴れた日であれば、滝壺となっているトゥシュリ・アラザニ川の清流でひと泳ぎすることも可能です。
ヴェルホヴァニ村

ジュワルボセリ村からも見えるヴェルホヴァニ村(Verkhovani /ვერხოვნი)は、ゴメツァリ渓谷において人の営みがある最後の集落。【マップ 青⑥】
現在、ここより先に人は住んでおらず、かつての集落跡や羊飼いの放牧拠点となる小屋がいくつか点在するのみとなっています。


ヴェルホヴァニむは、トゥシュリ・アラザニ川が流れる谷底から見てかなり高い位置にひらけており、ヴェルホヴァニの滝がある谷底からのアクセスは不可能。
ジュワルボセリ村側の岸から続く山道を歩いてのアクセスとなります。

ゴメツァリ渓谷最奥部&谷底よりもかなり高い場所にあるというヴェルホヴァニ村の立地は、外敵の侵入を見張るにはぴったり。
村には完璧な状態の見張り塔が残っており、なんと内部に入って最上階まで上ることも可能です。


ヴェルホヴァニ村の見張り塔は四層構造となっており、各階には比較的新しいベッドや机などの家具も。
一階部分には水洗トイレまで設置されており、かなり最近まで誰かが住んでいたような形跡があります。
その他周辺の小さな村へ

ジュワルボセリ周辺にはさらに規模の小さな村が点在しており、時間と体力が許す限りめぐってみたいもの。
ジュワルボセリ村からも遠景が見られるアリスゴリ村(Alisgori / ალისგორი)【マップ 青⑦】や、ジュワルボセリからひがしに3kmほどの場所にあるベゲラ村(Beghela / ბეღელა)【マップ 青⑧】など、どの集落も絵になる風景です。


いずれの村も渓谷部分からはかなり高い場所に広がっているため、ご想像のとおりアクセスはかなり大変。
しかし、苦労して到達した小さな村の秘境らしい雰囲気と、村から眺めるゴメツァリ渓谷の絶景は、忘れられない旅の思い出となるでしょう。
ゴメツァリの吊り橋

ジュワルボセリ村とベゲラ村のちょうど中間あたりには、トゥシュリ・アラザニ川の急流の上に架かるゴメツァリの吊り橋(Gometsari bridge / გომეწრის ხიდი)があります。【マップ 青⑨】
…もうすでに写真からして伝わっていると思いますが、この橋がもう恐怖すぎて大号泣。
谷底から高さ数十メートルの地点に架かる橋は、細いワイヤーで木の板を吊るして並べただけのもの。
いつ設置されたのかも、いつ最後にメンテナンスされたのかも不明で、デフォルトの状態から斜めにひん曲がっています。


踏み板と踏み板の間は数十cmあり、手すりもないため、バランスを崩したら谷底へさようなら…
しかも一歩進むごとにものすごい勢いでたわむので、高所恐怖症の人には(というか普通の感覚の人にも)絶対に無理だと思います。
ゴメツァリの吊り橋は、必ず渡らなければいけないものではないのでご安心を。
これを渡らずともジュワルボセリまではちゃんとアクセス可能ですが、スリルを求める人はぜひとも挑戦してみては?
バフビ人の文化香る最果ての地!ツォヴァタ渓谷の見どころ

ジュワルボセリ村付近のトゥシュリ・アラザニ川とツォヴァティスツカリ川が合流する地点からさらに奥は、ツォヴァタ渓谷(Tsovata gorge / წოვათას ხეობა)と呼ばれるエリアです。
・距離:片道8.6km
・所要時間:片道2時間半~3時間
・高低差:▲387m ▼204m
・難易度:★★☆☆☆
比較的広めの渓谷地帯が続き開放感があるゴメツァリ渓谷に比べ、ツォヴァタ渓谷は山々が谷底近くまで聳えた地形で奥まった感じ。
秘境っぽさという意味では、ゴメツァリ渓谷の上をいきます。


ツォヴァタ渓谷エリアは、ジュワルボセリから日帰りで往復ハイキングするのがベスト。
最奥部にあるインドゥルタ村までへ片道2時間半ほどでアップダウンもそこまで激しくないため、滞在中のアクティビティーにぴったりです。

ツォヴァタ渓谷はその自然美も去ることながら、廃村となった各集落の芸術的なたたずまいも素敵。
かつてはバツビ人という、ジョージア人とは系譜が異なる&出自が謎に包まれている民族が居住していた地域でもあり、最果ての地でミステリアスな雰囲気に存分にひたれます。
ツァロ

ジュワルボセリからツォヴァタ渓谷に入り、最初に現れる集落跡がツァロ(Tsaro / წარო)です。【マップ 青⑩】
ツァロ集落は、小高い山の斜面から頂上にかけて、石を積み上げた民家の残骸がびっしりと並ぶ風景が圧巻。
集落跡がある山の斜面は黒っぽい石でびっしりと覆われており、まるで別の惑星に来てしまったかのような印象さえ持ちます。


ツァロ集落は、ジョージア人ではなくバツビ人が住んでいた場所。
集落がある山の頂上には城塞の名残と、精霊信仰の祠が二基残っており、かつてのバツビの人たちの日々の営みを現在に伝えています。
インドゥルタ

ツォヴァタ渓谷の最も奥。
「もうここから先には人間が残した痕跡はない」といった、最果ての中の最果てに位置するのがインドゥルタ(Indurta / ინდურტა)という集落跡です。【マップ 青⑪】


ジュワルボセリからインドゥルタまでの道のりは決して険しいものではないものの、人間の香りがいっさい漂っていない渓谷を歩くのはかなり不思議な気持ちになるもの。
最後にようやくインドゥルタの集落跡の遠景が目に入った瞬間の感動は、言葉にできないほどのものです。

すでに触れた通り、インドゥルタはジョージア人が住んでいた集落ではなく、バツビ人という民族が築き、居住してきた村。
バツビ人のルーツには諸説あり、古代にナフ人(現在のトゥシェティ地方の人々の大半の祖先)から分岐した民族であるという説や、17世紀頃(400年前)に北コーカサスのイングーシ地域(現在ロシア領)からこの地にやって来た異民族であるという説があります。


バツビ人が話していた言語は、北コーカサス系言語であるイングーシ語に近いバツビ語。
ジョージア語とは言語グループ自体が完全に異なり、互いに意志疎通は全く不可能です(例えるなら日本語とアラビア語くらい違う)。
しかし、ツォヴァタ渓谷に住むバツビ民族とゴメツァリ渓谷に住むジョージア民族は、文化や言語、民族の違いによって敵対することはなく、この山深い地に暮らす民として協力し合いながら仲良くやっていたのだそうです。

ジョージア東部地域がロシア帝国の支配下にあった1850年代には、ツォヴァタ渓谷に住むバツビ人の人口は2000人を越えたそう。
しかしその後に数度に渡って発生した大規模な土砂崩れによって、人々は徐々にツォヴァタ渓谷から出て行くようになり、インドゥルタをはじめとするバツビ人の村々はとうとう完全に無人となってしまいました。


現在のバツビ人はもうトゥシェティ地方には住んでおらず、大半は麓にあるゼモ・アルバニ村で小さなコミュニティーを形成しています。
ジョージア民族との同化もかなり進んでおり、アイデンティティーであるバツビ語を話せる人はもう数人しか存命していないそう。
立派な消滅危機言語であるバツビ語とバツビ人の文化ですが、ジョージア政府による保護政策などは全く行われておらず、あと十年もすれば完全に途絶えてしまう運命にあります。

バツビ人のミステリアスな一面と、彼らの生活の営みが確かに存在していたインドゥルタ集落跡。
現在は、夏の間だけここを拠点に家畜を放牧させる羊飼いが一人いるだけで、基本的には完全に無人となっています。

集落の最も高い場所に聳えるかつての城塞&見張り塔からは、住む人を失った集落跡とツォヴァタ渓谷の美しい景観が。
およそ150年前までこの地で暮らしたバツビの人たちも、同じ風景を毎日眺めていたのでしょう。


インドゥルタにあるのは、集落跡と城塞跡、ただそれだけ。
しかし、文字通りの最果ての地に漂うなんともいえない異世界な雰囲気は、いつまでも堪能していたいと思うほどに極上のものです。
ゴメツァリ渓谷の宿情報

ゴメツァリ渓谷は東西20km以上に及ぶ広いエリアなので、オマロからの日帰りはかなりの難易度。
4WDをチャーターしてボチョルナやドチュなどエリア東側の村だけ訪問するなら余裕ですが、ジュワルボセリやツォヴァタ渓谷などエリア西側まで行くなら、一日では絶対に足りません。
自分の足で歩いて周る場合はさらに多くの時間が必要になりますし、いずれにしてもゴメツァリ渓谷を訪問する際は宿泊をともなうこととなるでしょう。
しかし、ゴメツァリ渓谷は観光地としてのインフラが整っているわけではなく、エリア内の宿泊施設は限られているのが現状。
現在ゲストハウスとして旅行者を受け入れているのは、ボチョルナに一軒とジュワルボセリに一軒のみです。【いずれもマップ 紫】
ここでは、のぶよが実際に宿泊したジュワルボセリ村のゲストハウスを紹介します。
【Pocholi Guesthouse】

・部屋タイプ:ツインルーム一人利用
・料金:50GEL(=¥2500)
・食事:朝食20GEL(=¥1500)/夕食30GEL(=¥1500)
・立地:2/10
すでに触れた通り、宿までは車の乗り入れができず、数百mは徒歩となります。
この数百mの道は川を越えるえげつない山道で、いちいち登ったり下りたりしなければなりません。
・アクセス:10/10
ジュワルボセリ村入口の未舗装道路には看板が出ています。
宿自体には宿名が書かれた看板などはありませんが、ジュワルボセリ村に入って最初の建物でありゲストハウスっぽい雰囲気満載なので、迷うことはないでしょう。
宿には常にオーナー家族がいるので簡単にチェックイン可能です。
・スタッフ:7/10
オーナー夫妻と住み込み?の女性ふたりで切り盛りしています。
客の対応などメインのおばさんははつらつとした感じで笑顔。
とはいえ、ビジネスライクっぼさが強く感じられるかもしれません。
全体的に、宿の人たちが旅行者と絡む機会は多くはなく、あくまでも「旅行者は旅行者」といった線引きが色濃い印象でした。
それもそれで楽なのですが、個人的にはこんな最果ての村で宿をやるなら、もう少しアットホームでローカルな感じだったら良かったです。
・清潔さ:9/10

一日数回掃除がされているため、部屋も食堂部分も中庭もすごく綺麗です。

トイレ&シャワーは若干掃除が甘い感じもありましたが、熱めのお湯も出ますしトイレットペーパーなども十分に補充されていました。
・設備:8/10

宿全体がリノベーションされており、山奥の村とは思えないくらいの充実した設備がこの宿のウリ。
トゥシェティ地方全体に言えることなのですが、発電が太陽光パネルのみであるため、悪天候の際には電気自体使えなくなります。
また、コンセントは部屋にはなく、2階の共用エリアに1ヵ所だけ(これもトゥシェティあるある)。
これがかなり不便で、充電のためにいちいち外に出て階段を上り下りして…というのはなかなかにストレスでした。

また、太陽光パネルの数に対して部屋数が多すぎるためなのか、各部屋の電気はLEDライトのような薄暗いものしかなかったのもマイナス。
結構色々な面で電気を節約してる感が漂っていたのですが、正直「リノベされたおしゃれな宿」としてやってるならまずは太陽光パネルを増設すれば良いのでは…?と。
・ベッド:9/10
ベッドは文句無しの快適さで、ぐっすりと眠れます。
若干きしむ音がした点が、マイナスと言えばマイナスかも。
・Wi-Fi:7/10
基本的には宿全体で問題なく接続できますし、大きなファイルのアップ等もサクサクできます。
しかし時間帯によっては接続自体が途切れることもあり、常に電波が安定しているわけではないようです。
・雰囲気:6/10

清潔で、ウッド調の温もりある感じで、決して雰囲気は悪くありません。
敷地内からはゴメツァリ渓谷を一望することができ、のんびりと好きなように過ごすことができます。
しかし何故なのか、のぶよ的には微妙に居心地の悪さを感じたのが不思議。
あまりにきっちりしすぎた感じと言うか、ジョージア地方部ならではのゆるさのようなものがなかったためかもしれません。
宿泊客はキッチンを使用できないため、コーヒーや紅茶用のお湯はいちいち食堂のスタッフにお願いしなければいけないも面倒。
電気ポットにお湯を沸かしておいてくれれば良いのに…と常に思っていました。
・食事:8/10

この宿の最大のウリは、バラエティー豊かな食事。
山奥の村とは思えないほどに、様々な素材を用いた自家製料理を楽しむことができ、味はもちろん品数の多さも素晴らしいです。

しかし、作り置きの料理がやや多めだったのがマイナス。
大量に作っておいて旅行者に流れ作業で出すといった感じも少しありました。
・総合:7.3/10
ジュワルボセリで唯一のゲストハウスですが、問題なく滞在することができます。
宿の綺麗さや食事のクオリティーは素晴らしいですし、立地を考えるとこの値段はかなりお得だと思います。
しかしとにかくマイナスなのが立地。
ジュワルボセリ村自体の立地の問題なので宿のせいではないのですが、正直建物をピカピカにリノベする前に対岸との橋を架けてくれ…
アットホームさについては完全にのぶよの好みですが、「ただ泊まってご飯食べて寝るだけ」という考えの人には問題にならないはず。
総合的に、なかなか悪くない宿です。
【トゥシェティ地方の宿をすべて見る!】
ゴメツァリ渓谷へのアクセス

ゴメツァリ渓谷の各村へのアクセス拠点となるのは、トゥシェティ地方最大の村であるオマロ。
ゴメツァリ渓谷のみならずトゥシェティ地方内には公共交通機関が存在しないため、アクセス手段はかなり限られてきます。
①オマロから4WDチャーター

最も快適なアクセス手段が、オマロで4WDジープをチャーターすること。
料金の相場は以下の通りです。▼
・オマロ~ボチョルナ間の片道:1台100GEL(=¥5000)~
・オマロ~ドチュ間の片道:1台150GEL(=¥7500)~
・オマロ~ジュワルボセリ間の片道:1台200GEL(=¥10000)~
・1日チャーター:1台400GEL~500GEL(=¥20000~¥25000)
大人数で移動するならまあまあお得感がある4WDチャーター。
手配に関しては、オマロの宿泊先の人に相談すれば都合に合うドライバーに必ず繋いでくれます。
注意したいのが、ゴメツァリ渓谷には4WDでさえ通行不可能な道が多くあり、結局最後は自分の足で(えげつない山道を)歩かなければならない場合もあることです。


ドチュ村の集落までの道や、ジュワルボセリ村までの道は、いずれも急坂であるにもかかわらずアクセス手段は徒歩のみです。
②オマロから徒歩

体力と時間に余裕があるなら、オマロからジュワルボセリまで徒歩で移動しながら各見どころに立ち寄るのもアリ。
オマロ~ジュワルボセリ入口間には未舗装道路がずっと続いているので、比較的楽に歩くことができます。
・距離:片道21.5km
・所要時間:6時間~7時間
・高低差:▲752m ▼776m
・難易度:★★★☆☆


オマロ~ジュワルボセリ間の未舗装道路は、渓谷沿いの絶景ルート。
高低差はまあまあありますが、ゴメツァリ渓谷の最果て感を感じながら歩くことができます。

個人的にこのルートを歩いてみてしんどかったのが、ジュワルボセリまであと3kmほどの区間。
未舗装道路が何度も何度もアップダウンを繰り返す&靴を脱いで川を渡らないといけない箇所があるなど、長い距離を歩いたラストに大変な思いをさせられました。
③パルスマからトレッキング

オマロ以外から直接ジュワルボセリまで行きたい場合は、ピリキタ・バレーにあるパルスマ村~ジュワルボセリの少し先にあるヴェルホヴァニ村間を結ぶトレッキングコースを歩くこともも可能。
しかし、途中で標高2900m以上ある峠を越えるルートであるため、高低差が上り/下りともに1000m以上あり、難易度はかなり高いです。
おわりに
ジョージアの中でも「秘境」と言われるトゥシェティ地方。
その中でもおそらく最高レベルの秘境であるゴメツァリ渓谷の観光情報をがっつり解説しました。
日本語はおろか英語での情報すらいっさい出てこないエリアですが、正直本当に足を運んで良かったです。
ここ数年で一気に旅行者向けにひらけた感があるトゥシェティ地方において、「まだ見つかっていない感」がこれほどに強く感じられるのは、ゴメツァリ渓谷以外にはほぼありません。
この最果ての地の村々にも観光ブームの波が到達するのは時間の問題(まあアクセスの不便さが解消されるのは嬉しいことだけど)。
ピュアなトゥシェティ地方の山村をめぐりながらの渓谷旅をするなら、今がチャンスかもしれません!
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