こんにちは!アルメニア滞在も4ヶ月目、世界半周中ののぶよ(@nobuyo5696)です。
(世界半周についてはこちらの記事へどうぞ。)
滞在も4ヶ月になると、「エレバンの見どころはもう全て行きつくしたぜ!えっへん!」と知ったかぶりをしたくなるもの。
…いいえ、この町はそんな薄っぺらいものではありません。
まだまだありました。ほとんど知られていない超穴場&超おすすめのスポットが。
それが、今回紹介するレヴォンの地下迷宮(Levon’s divine underground)。
アルメニア最大の人口を誇る首都・エレバン。
その地下深くに「大迷宮」さながらの空間が広がっていることは、旅行者にはほとんど知られていません。
実はこの場所、ある一人の男性が23年以上の年月をかけ、たった一人で造りだしたもの。
そうとは信じられないほどの規模とクオリティーの高さに、人間の執念の強さを感じさせられます。
今回の記事では、謎めいたレヴォンの地下迷宮の観光情報を解説するもの。
エレバン中心街からも簡単に足をのばせるので、滞在中にぜひ訪れてほしいです!
レヴォンの地下迷宮とは?ある男の執念の物語。
エレバン中心街からたった数キロの高台に位置するアリンジ村。
大都市のすぐ近くだとは思えないほどにのどかなこの村に、建築家のレヴォン・アラケルヤン(Levon Arakelyan)という男性が妻のトシヤ(Tosya)と暮らしていました。
レヴォンが44歳だった1985年のある日のこと。
妻のトシヤが「地下にジャガイモの貯蔵庫を作ってほしい」と夫に頼んだのが全てのはじまりでした。
妻の頼みを快諾し、自宅の地下を掘り始めたレヴォン。
じゃがいもの貯蔵庫はすぐに完成したものの、その手を止めることはありませんでした。
まるで何かに憑りつかれたかのように、さらに深く、さらに広く…と地中を掘り下げ続けたのです。
建築家としてのこだわりだったのか、はたまたソ連時代の「物がなければ自分の手で作る」手作業文化の結晶か…
とにかく、レヴォンは電動ドリルなどの近代的な道具を使うことはいっさいしませんでした。
ノミや金づちなどのシンプルな道具のみを使い、来る日も来る日も、岩盤がゴツゴツした固い地面を掘り進めていったのです。
どうして彼は、ここまでの情熱を持って地下を掘り続けたのでしょうか。
妻のトシヤは、「夫は夢で天啓のようなものを得て、毎日地下を掘ることに憑りつかれていた」と言います。
レヴォンが作り上げた地下空間は、彼が夢に見たイメージそのままの世界。
宗教的なモチーフが施されたゲートや、神殿のようなスペースもいくつか造られ、まるでここが聖域であるかのように感じさせます。
休日をとることはほとんどなく、1日18時間もの時間をかけて掘り進めた地下通路は、いつしかかなりの規模に。
こうして出来上がったのは、広さ300㎡、深さ21mにも及ぶ、巨大な地下迷宮でした。
レヴォンが67歳の若さで亡くなったのが2008年のこと。
それまでの23年以上もの間、彼が地下迷宮へと下りて作業しなかった日はなかったと言います。
亡くなる当日も地下に降りて作業をしていたというのですから…
もはや「常軌を逸していた」と表現するべきなのかもしれません。
志半ばでこの世を去ったレヴォン。
彼の中では、この地下迷宮は「決して完成することない未完の作品」そのものです。
かの建築家・ガウディの野望あふれる未完の傑作に敬意を示しつつ、「アルメニアのサグラダ・ファミリア」なんて言ったらバチが当たるでしょうか…
(こっちは大空ではなく地下に向かってのびているけど)。
レヴォンの死後、「夫が生きた証をこのままにしておくのはもったいない」と感じた妻のトシヤ。
地下迷宮を中心に、自宅の一部をミュージアムへと改装し、一般観光客に公開することにしました。
レヴォンの執念にも似た情熱のストーリーは、エレバンの地元民はもちろん、アルメニア全土に瞬く間に広がり、現在でも彼が遺した地下迷宮を訪れる人が後を絶ちません。
レヴォンの地下迷宮に潜入!
もはや事前知識だけでも、わけのわからぬほどに興味を駆りたてられたのぶよ。
エレバン中心街からバスで20分ほどのアリンジ村にある、レヴォンの地下迷宮へと実際に行ってみました。
入口の扉にはちゃんと英語表記もあり、行けばすぐにわかるようなたたずまい。
アリンジ村の人も「外国人=地下迷宮」という方程式があるのか、尋ねてもいないのに道を教えてくれたほどです。
入口扉左上にあるブザーを鳴らすと、レヴォンの妻・トシヤが出迎えてくれます。
特に何も説明せずとも(ここに来るのは地下迷宮目的の人なので)、中に招き入れてくれました。
民家の入口の扉を抜けたすぐ先に、いきなり現れるのがこちら。
地下迷宮へと下っていく階段です ▼
かつては、トシヤが地下通路に一緒に入って見学客を案内していたそうですが、彼女もかなりの高齢。
地下21mもの深さを延々と階段で上り下りするのはもう難しいのか、自由に見学するスタイルとなっていました。
普段は電気を消しているようですが、見学客が来ると地下迷宮の明かりをつけてくれます。
(電気代が相当なものなんだと思う)
まばゆいほどのライトに照らされた大迷宮へのトンネルが、まさに自分の目の前でぽっかりと口を開けた光景には、思わず「うわぁ…」と声を漏らしてしまったほど。
階段が地下深くへと続いて行く光景は、なんだか得体のしれない不安を感じさせます。
果てしない「異世界への入口」感。
トルコ・カッパドキアにある地下都市に訪れたときの感覚に、どこか似たものを覚えました。
この階段はコンクリートなどで後付けしたものではなく、もともとの岩盤を削って作られたものです。
一段一段が驚くほどに水平で、高さもぴっしりと均一。
建築家であったレヴォンのこだわりや、元来の几帳面な性格が表れているような気がしました。
通路の壁には、ノミなどで削った跡が無数に。
その一つ一つからレヴォンの情念がにじみ出ているようです。
レヴォンにとっては天啓を受けて掘り進めたのが、この地下迷宮。
彼の中では一応の完成形のイメージがあったようです。
迷宮内には小部屋のようなスペースがいくつもあるのですが、どこも十字架のモチーフをはじめ、宗教的な意味合いを含んでいそうな装飾が施されています。
地下へと下りる階段は一か所ではなく、合計で五つの層に分かれたフロアをごちゃごちゃにつないでいます。
実際に歩くと、「え…まだ下まで続いているの?」とびっくりするはず。
地下へと空気を取り込むための空気孔もちゃんと設置されており、さすが建築家と感心させられます。
地下21mの最深部にいたる直前は、いくつもの通路が交差しあう「大迷宮」そのもの。
怪しい儀式が行われていてもおかしくないような、どこかエキゾチックで現実離れしたミステリアスな雰囲気に包まれています。
そして、ようやく到達した最深部には、礼拝堂のような不思議な空間が広がっていました ▼
物音ひとつ聞こえない、地底の大迷宮の聖域のような空間。
この時の見学者はのぶよ一人きりで、何とも言えない不安に包まれます。(「今電気消されたら完全に詰むわこれ…」なんて思ってた)
↑エレバンの地下迷宮、動画で見るとより臨場感伝わるかも。見学客のぶよ一人だったし、下手なお化け屋敷より怖かった… pic.twitter.com/dCEH3FUw5T
— 小山のぶよ🇵🇹世界半周中の翻訳してる人 (@nobuyo5696) October 28, 2021
ここからは、とにかく地上に向かって階段を上っていくだけ。
行きで下ってきた階段とは別の階段状の通路が掘られており、入口とは別の出口につながるようになっています。
レヴォンがどれだけの労力をこの空間にかけたのかを考えると、気が遠くなりそう…。
出口付近にある一枚岩を削って作られた十字架には、レヴォンが地下を掘り始めた”1985″の年数が刻まれています。
ここが、彼が一番最初に掘り始めた部分だそう。
“1985”と刻んだその日には、妻のトシヤもレヴォン本人も、こんな空間ができあがるなんて想像だにしていなかったのでしょう。
狂気?芸術?レヴォンの遺したもの
見学ハイライトとなる地下迷宮を探検した後は、レヴォンの妻・トシヤが生活するスペースを案内してくれます。
かつて夫婦が生活していたリビング部分は、レヴォンの遺品などを展示するスペースへと改装されており、彼が実際に使用していた道具などを見ることができます。
長年の土埃をかぶって原型がなくなりつつある、ドロッドロのレヴォンの靴には衝撃。
古代の人が履いていたものだと言われても疑わないほどの、ボロボロ加減です。
彼が実際に使用していた道具も展示されているのですが、これにも目を疑いたくなるはず。 ▼
電動ドリルなどの類は一切使っていないそうで、本当にここにある道具があの地下迷宮を作り上げたものの全て。
こんな昔ながらの道具だけで、あの規模の大迷宮を作り上げたなんて…
人間の執念が持つ可能性に、感動させられました。
また、2020年にアルメニアとアゼルバイジャンの間で起こったナゴルノ=カラバフ戦争で犠牲になったという、レヴォンとトシヤの孫にあたる男性の写真も飾られていました ▼
写真左側の小さな聖書は、彼が肌身離さず携帯していた遺品だそう。
1年前の戦争は、アルメニアという国で暮らす人々に暗い影を落としていることを実感する瞬間でした。
地下迷宮以外にも、レヴォンは自宅の大部分を自身で設計&建築したそう。
その象徴が、ミュージアム部分で最後に案内される中庭。
小石を集めて造られたアーチの中に、レヴォンが描いた自画像と妻・トシヤの肖像画がありました。 ▼
地下迷宮に文字通り「憑りつかれていた」レヴォンですが、妻を想う気持ちだって同じくらいあったはず。
この夫婦の肖像画こそが、彼の気持ちを象徴しているかのようです。
そもそもこの地下迷宮の全てのはじまりとなったのは、トシヤの「じゃがいも貯蔵庫が欲しい」という願いに応えるためだったのですから。
(もはやアルメニア全人口分のじゃがいもを貯蔵できそうだけど)
草木に満ち溢れた中庭を散策する旅行者の姿を物言わずに眺める、絵の中のレヴォン。
自身の生きた証が多くの人に感動や驚きを与え続けていることを、きっと嬉しそうに見守っている。
そんな気がしました。
レヴォンの地下迷宮へのアクセス
レヴォンの地下迷宮が位置するのは、エレバン中心街の北東側のはずれ。
公式にはエレバン市ではなく、コタイク地方のアリンジ村(Arinj / Առինջ)に属するのですが、エレバンの市内路線バスでアクセスできるのが嬉しい点です。
・中心街(メスロプ・マシュトツ通り)から:路線バス47番→徒歩5分
・エレバン中央駅から:路線バス58番→徒歩10分
(実際はピンの場所より300m北の交差点付近)
いずれも10分~15分に1本の頻度で走っており、エレバンの市内交通の通常運賃(100AMD=¥23)で利用できます。
おわりに
エレバンの隠れた見どころであるレヴォンの地下迷宮を紹介しました。
正直なところ、訪問前は「どうせB級観光地みたいなもんだろ」と考えていたのぶよ。
実際に地下空間へと足を踏み入れた瞬間、そんな考えは完全に吹き飛びました。
地下迷宮自体の規模もクオリティーもすごいのですが、その背景にあるレヴォン老人のストーリーも魅力的。
「人間、やる気さえあればなんでもできる」なんてベタに励まされたくらいですから(笑)
エレバン中心街から個人で簡単にアクセスできますし、往復移動+見学で2時間もあれば十分。
市内観光の合間にでも、ぜひ足をのばしてみてはいかがでしょうか。
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