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こんにちは!ボスニア・ヘルツェゴビナに2週間滞在した、世界半周中ののぶよ(@nobuyo5696)です。
(世界半周についてはこちらの記事へどうぞ。)
ボスニア・ヘルツェゴビナは、旧ユーゴスラビア諸国の中でも、最も複雑な民族構成を持つ国。
ボスニア人(ボシャニク人)が多数を占めるものの、セルビア人とクロアチア人の人口も多く、それぞれの民族が他民族を嫌いあっているという状況が今でも続いています。
絶対的指導者であったチトー率いたユーゴスラビア時代は表立った民族対立はなく、異民族間での婚姻も普通だったものの、90年代前半の独立によって各民族間の対立は深刻化。
泥沼のボスニア内戦へと発展することになります。
政治的な解説は専門の方に任せるとして、今回の記事ではいち旅行者として感じた「ボスニア・ヘルツェゴビナの民族対立」を、「ビール」というキーワードで紐解いていきます。
というのも、ボスニア・ヘルツェゴビナでは、各民族の居住地域によって、置いてあるビールの銘柄が異なるのです。
ボスニア・ヘルツェゴビナ国内の大まかな各民族の居住地域を表した図がこちら。
赤がセルビア人、緑がボスニア人、青がクロアチア人の多く居住している地域を表しています。
地域によって「住み分け」がなされているものの、いまだに複数の民族が入り混じって暮らす町や地域も多くあるボスニア・ヘルツェゴビナ。
そうした地域では、あるバーに置いてあるビールの銘柄によってどの民族の人々が出入りするのか不文律で分けられていることもあるほどなんです。
今回の記事では、ボスニア人、クロアチア人、セルビア人それぞれの居住地域で全く異なるビールの銘柄を紹介していきます。
記事後半では、ボスニアと国境を接するクロアチアとセルビアを含め、それぞれの国々が他の国に対して抱える思いや、これからの展望について考えていきます。
ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦 (ボスニア人居住地域)のビール
まずは、ボスニアで多数派のボスニア人居住地域について見ていきましょう。
首都のサラエボのボスニア・ヘルツェゴビナ連邦側、中部のヤイツェやトラヴニクなどの小さな町は、ボスニア人が多く住む地域です。
イスラム教徒が多いボスニア人ですが、戒律はかなり緩め。
そのため、普通にお酒が売っていますし、みんなよくビールを飲んでいます。
ボスニア人居住地域の町の観光記事も書いています。
サラエボ発!美味しい水で作られたサライェフスコ
ボスニア人に好まれるビールが、首都サラエボで作られるサライェフスコ(Sarajevsko)。
山に囲まれたサラエボは、水が美味しいことで有名です。
ボスニア内戦時に、セルビア人民軍に街全体が包囲され、水道や電気が遮断されたサラエボ。
そんな過酷な状況の中で、市民の命を救ったのがサラエボスコのビール工場でした。
川沿いに位置するビール工場では、浄水システムが完備されていたため、市民が水を求めて通っていたそうです。
のぶよ的にはかなり水っぽいサラエボスコですが、基本的に薄味のビールが多いボスニアではいたって普通のことだそう。
ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦 (クロアチア人居住地域)のビール
ボスニア西部、クロアチアとの国境沿いには、クロアチア人が多く居住しています。
観光客で賑わうモスタルは、有名なスタリィ・モスト(古い橋)の東側にボスニア人、西側にクロアチア人が居住していたそうで、現在でもある程度の線引きが存在するそう。
そんなクロアチア人居住地域では、クロアチア産のビールが主流です。
オヂュイスコ
クロアチア本国のNo.1ビールであるオヂュイスコ(Ožujsko)は、ボスニア・ヘルツェゴビナのクロアチア人居住地域で最もポピュラーな銘柄。
クロアチアで一番人気の銘柄でもあります。
バーの入口にこの銘柄がデザインされていたら、そこはクロアチア人がクロアチア人のために経営しているお店だと考えて間違いないでしょう。
ボスニアの薄味ビールに比べると、強めのキレとのどごしが特徴のオヂュイスコ。
クロアチアの物価を反映してか、ボスニア・ヘルツェゴビナの中では最も高い部類のビールですが、日本人好みの味だと思います。
カルロヴァチュコ
オヂュイスコに次いでポピュラーなのが、クロアチアのカルロヴァツという町で製造されるカルロヴァチュコ(Karlovačko)。
味はオヂュイスコと似ていて、すっきりとしたキレがあって飲みやすいのですが、価格はこちらの方が安めです。
セルプスカ共和国 (セルビア人居住地)のビール
ボスニア・ヘルツェゴビナ北部〜東部は、セルビア人が居住する地域です。
彼らは自分たちの居住地域を「セルプスカ共和国」と称し、ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦とは異なる政治、警察、郵便システムを持っています。
橋の町・ヴィシェグラードや、北部のセルプスカ共和国の「首都」であるバニャ・ルカ(Banja Luka)などの町がセルプスカ共和国に属しています。
とにかくイェレン一筋!
セルプスカ共和国のビール状況は、本国セルビアと全く同じです。
セルビアで見かける銘柄は全て揃っているんじゃないかと思うほど。
中でも、セルビアで大人気の鹿のマークの黄金のラベル、イェレン(Jelen)は、最もポピュラーな銘柄でしょう。
セルビア人経営のバーでは、間違いなく置いてあります。
他にも、セルビアと仲が良いモンテネグロのビールが飲めることも。
逆に、宿敵クロアチアの銘柄やサライェフスコなどのボスニア産ビールは、セルプスカ共和国ではもはや売られてすらいません。
ニクシチコ
セルビアのお友達、モンテネグロ産のニクシチコ(Nikšićko)は、セルプスカ共和国内でよく見かける銘柄。
クロアチアのビールと似て、キレがあってのどごしの良い風味が特徴です。
飲みの場でも依然として残るボスニアの民族対立
楽しいはずである飲みの場。
ボスニア・ヘルツェゴビナでも、バーやパブは社交場であり、昼間から仲間とお酒を嗜む人の姿も多く見られます。
しかし、ボスニア・ヘルツェゴビナの飲み屋はとても独特。
なぜなら、どのビールの銘柄を置いているかで、どの民族が経営している店なのか一目瞭然であると同時に、どの民族が客として訪れるのかが分かれているからです。
他の民族の音楽がかかると怒り出す人も
のぶよがモスタルでクロアチア系のカフェバーにいた時のこと。
もちろん置いてあるビールはクロアチアの銘柄のみでした。
そこで、離れた席に座っていたおじさんが、何やら店員の女の子につっかかっています。
長々とまくし立てた後、そのおじさんは店を出て行ってしまいました。
あとで店員さんに何が起こったのか聞いてみると、
「流してたラジオの番組で、セルビアの歌手の歌が流れたから怒ってたのよ」
とのこと。
のぶよ的には、「たかが音楽ぐらいでそんなに気を悪くする必要ある?」といった感じなのですが、それくらいに民族対立を深刻に意識している人もいるということです。
従業員はボスニア人、オーナーはセルビア人の異色のレストラン
バルカン半島きっての多民族都市であるサラエボ。
先述の通り、店によってどの民族が客として訪れるのか不文律で分かれているのですが、そんな現状を変えようとしている人たちも少なからず存在します。
セルビア人オーナーが経営するレストランで、セルビア料理やセルビアビールを提供しているにも関わらず、従業員はボスニア人を優先的に雇っているレストランや、その反対など、少しずつではあるものの状況は良い方向に変化しつつあります。
しかしながら、客の中には自分と違う民族が働いているとわかった途端、文句をつける人や退店してしまう人もいるそう。
新しい民族融和がボスニア・ヘルツェゴビナの一般の人々に浸透するまでは、まだまだ時間がかかるのかもしれません。
いまだに異民族間の交流が少ない、ボスニア・ヘルツェゴビナという国。
ボスニア内戦前は比較的みんな仲良くやっていたものの、壮絶な内戦はそんな人々の意識を変えてしまうのに十分なものだったのでしょう。
内戦終了から25年が経過した現在でも、ボスニア・ヘルツェゴビナ国内での異民族間の交流はとても少ないそうです。
三つの民族が住む首都・サラエボにおいても状況は同じで、戦争を経験していない若い世代ですら自分と同じ民族の友達しかいないことも普通だそう。
教育は民族によって別々に行われることはありませんが、歴史の授業だけは民族別に行われるそうです。
というのも、各民族によって歴史認識や主張が全く異なるため。
子供たちの間に余計な争いの種を植え付けることを避けるための苦肉の策だと言えます。
こんなにバラバラな人々が一体どうやって一つの国としてまとまっているのか不思議で仕方ありません。
ホステルの従業員(ボスニア人)の言葉がとても印象的でした。
「今は落ち着いてるけど、絶対にまた戦争が起こると思う。25年が経って、みんなどんどん内戦の辛さを忘れていってるのに、民族間の対立はずっと変わってないから。」
セルビア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ。それぞれの国民の他国への意識
ボスニア・ヘルツェゴビナという国は、複雑な歴史と民族構成を持つバルカン諸国の縮図と言えます。
ここからは、旧ユーゴスラビア諸国の中でも特に対立が激しいと言われるセルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチアの関係性を見ていきます。
セルビアとクロアチアの関係
三つの国の中で、最も民族対立が深刻なのがセルビアとクロアチア。
クロアチアはユーゴスラビアからの独立時に、セルビア人との間で激しい戦闘となったため、いまだに「セルビアだけは無理」というクロアチア人がかなり存在します。
特に、セルビア軍によってかなりの犠牲者が出たザダル(Zadar)やクロアチア北東部の人々の反セルビア感情は、クロアチア人の間でもお墨付きなほど。
対するセルビアもクロアチアが大嫌い。
海のないセルビアですが、夏の海水浴はクロアチアではなくわざわざモンテネグロに行くほどです。
セルビアとボスニア・ヘルツェゴビナの関係
こちらも全くもって良好な関係でないのが現状。
特に、ボスニア内戦時の歴史認識において、セルビア人とボスニア人の間で決定的な剥離があります。
内戦中にセルビア人民軍によって行われたとされる「スレブレニツァの大虐殺」について国際社会に訴えかけているボスニア・ヘルツェゴビナ。
対するセルビアでは「虐殺なんてなかった」という立場で、どちらも一歩も譲らない状態です。
クロアチアとボスニア・ヘルツェゴビナの関係
セルビアとの関係ほどは険悪ではないものの、良好とは言えない両国の関係。
クロアチアは、ボスニア・ヘルツェゴビナのことを「貧しい国」だと完全に見下している姿勢が見え見えです。
また、これら三国の中では、観光業の成功により経済的に比較的豊かなクロアチア。
EUへの加盟も果たしており、「自分たちは他の旧ユーゴスラビアの国とは違う」という意識が強く感じられます。
一方のボスニア・ヘルツェゴビナのクロアチアに対する気持ちは複雑。
内戦当初こそ、セルビア人民軍に対して共闘したクロアチア人とボスニア人。
しかしクロアチア軍の裏切り・セルビア人民軍側への寝返りによって、窮地に追い込まれたボスニア人の間では、未だにクロアチアに対して良い感情を抱いていない人が多いのは事実です。
一方で、国際的観光地のドブロブニクを有するクロアチア観光業の恩恵を多大に受けているボスニア。
モスタルに大挙してやってくるクロアチアからの日帰り観光客の数を見れば、一目瞭然です。
経済的には仲良くしたいけど、どうしても民族感情が許さない。
そんな複雑な関係性だと言えるでしょう。
旧ユーゴスラビア諸国のこれから
旧ユーゴスラビア諸国が経験した壮絶な戦争から25年が経過した現在。
クロアチア、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナの三国は、それぞれ違った形で、未来へ進もうとしています。
西を向くクロアチア
旧ユーゴスラビア諸国の中で、スロベニアとともに「成功者」とされるクロアチア。
戦争で受けた傷は決して少なくはなかったものの、順調に復興を果たし、EUへの仲間入りを果たしました。
観光立国としてのプロモーションも功を奏し、年々多くの観光客が訪れるようになったクロアチアは、確実に西側諸国との協調路線を進んでいます。
EU加盟国でありながら、シェンゲン協定(国境検査なしで人や物が移動できる)には非加盟のクロアチア。
次なる目標は、EU諸国との国境審査を廃止して、観光立国として更なる発展をすることでしょう。
独自路線を貫くセルビア
かつてのユーゴスラビア連邦の中心的存在だったセルビアは、西側諸国とは一線を画した立場を貫いています。
というのも、1990年代後半のコソボ紛争の報復としてNATO軍によって行われたベオグラード空爆の記憶が人々の間で燻っているため。
未だにコソボの独立を承認していないセルビア。
いち早くコソボ独立を承認したアメリカや西側諸国に対する不信感は強く根付いており、ベオグラードの町中でも「反NATO、反アメリカ」なスローガンが掲げられていたりします。
EU加盟には懐疑的な人の割合がとても多いそうで、西側諸国との和解まではまだまだ時間がかかりそうです。
国としてまとまれないボスニア・ヘルツェゴビナ
クロアチア、セルビアに挟まれたボスニア・ヘルツェゴビナでは、EUへの加盟が悲願。
しかしながら、ボスニア領内に住むセルビア人は総じてEU加盟に反対の姿勢を貫いています。
そのため、国としてまとまってEU加盟へと突き進むことができないのが現状。
またセルビア人共和国内では、いまだにボスニア・ヘルツェゴビナからの分離独立・セルビアへの編入を希望する人もある程度いるそう。
落ち着いたかのように見える民族対立ですが、その火種はまだ燻っていて、いつ再び爆発するかわからない状況です。
おわりに
バルカン半島を旅していると、切り離して考えることはできない民族問題。
各民族や各国で異なった主張がされており、私たち旅行者が理解するのは簡単ではありません。
セルビア人もボスニア人もクロアチア人も、そもそもは同じ言語を話す同じ民族。
和解するのには時間がかかるでしょうが、いつの日か、自分の好きな国の銘柄のビールを自由に頼めるようになることを願うばかりです。
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