こんにちは!ジョージア国内をじっくり旅行中、世界半周中ののぶよ(@nobuyo5696)です。
(世界半周についてはこちらの記事へどうぞ。)
以前からずっと行きたいと思っていたある場所に、ようやく足をのばすことができました。
その名も、ハダバレー(Khada Valley)。
ジョージアが誇るコーカサスの大自然の風景が360°広がる谷間は、まるでここだけ現代文明から切り離されてしまったかのよう。
静かで色彩豊かな山々に呑み込まれるように、小さな村や教会がぽつりとあるだけです。
数々の大自然スポットがあるジョージアですが、ハダバレーを訪れる旅行者はほぼゼロ。
インターネット上にも情報はほぼありませんし、まったくの無名スポットですが、言わせてください。
とにかく素晴らしかったです。苦労して行って本当に良かった…
ハダバレーを特別な存在にしているのが、もうすぐこの天国のような風景が見られなくなってしまうという事実。
まるでダムに沈むことが決まっている村のような、儚い雰囲気に包まれた美しい谷間は「幻の楽園」の称号にふさわしいものです。
どうしてこんなに美しい風景が見られなくなってしまうのか…
そこには、険しいコーカサスの山々を有するジョージアという国特有のある事情がありました。
今回の記事は、ハダバレーの観光情報を徹底解説するもの。
実際に訪れた人によるレポートは、日本初!…どころかたぶん世界初だと思います。(まあこんな僻地まで足をのばそうという人もなかなか居ないからなのだろうけど…)
もし今後数年のうちに(2024年以前に)ジョージアに滞在する人がこの記事を読んでいるなら、今こそがハダバレーを訪れるラストチャンス。
「幻の楽園」の美しくも儚い風景を、しっかりと目に焼きつけておきましょう。
もうすぐ消えてしまう「幻の楽園」…ハダバレーとは?
「六十の塔の谷」ハダバレーの歴史
トビリシの北側の広大なエリアを占めるムツヘタ・ムティアネティ地方(Mtskheta-Mtianeti / მცხეთა-მთიანეთი)の北部。
ジョージアにやって来た旅行者の多くが訪れるジョージア軍用道路から、深い山々が織りなす谷間へと入った場所にあるのがハダバレーです。
今日「ジョージア軍用道路」と呼ばれる道が整備されたのは、およそ200年前のロシア帝国時代のこと。
それ以前の中世の時代には、ここハダバレーが南北コーカサスを結ぶ交易路として利用されていました。
「交易路として多くの人々が行き交う=敵が入り込みやすい」ということで、コーカサスの山を越えてやって来る異民族の侵攻に備え、ハダバレーの人々はいくつもの石塔を建設しました。
ハダバレーに建設された石塔の役割は、さらに北に位置するカズベキ地域と同様のもの。
敵の襲来を発見次第、「塔の上で火を焚いて煙を上げる→それを見た次の塔でも火を焚く→また次の塔でも…」と、リレー形式の警報システムが構成されていたのだそうです。
そんな歴史から、いつしか人々はハダバレーを「六十の塔の谷」と呼ぶように。
現在でも中世に建設された石塔のいくつかが、ハダバレーの谷間に点在しています。
もともとハダバレーには十数個の村があり、山岳エリアらしい伝統的な生活が長い間営まれてきました。
石造りの民家の建築様式や家畜の放牧、このエリア発祥だとされるヒンカリ(ジョージア風小籠包)など、他地域とは地理的に隔絶されているハダバレーの伝統文化は、民俗学的にも計り知れない価値があるとされているそうです。
コーカサスの大自然と伝統的な村々が調和したハダバレーの風景は、まさに楽園そのもの。
しかしながら、あと数年でこの風景が見られなくなってしまうと危惧されています。
「幻の楽園」ハダバレーの今とこれから
ハダバレーに残る自然や伝統を危機にさらしている最大の原因が、2021年に始まったトンネル工事です。
現在、トビリシ~カズベキ~ロシアを結ぶ唯一の道路が、ハダバレーの西に位置するグダウリの町を通るジョージア軍用道路。
グダウリ付近は標高2000m以上の峠を越える区間であるため、冬季は積雪によって通行不可能となることがしばしば。
すると、さらに北側に位置するカズベキ周辺地域が陸の孤島となってしまうのです。
また、ジョージア軍用道路はジョージアやアルメニアとロシアを結ぶ唯一の道路。
ここが通行止めになってしまうと、物流に大きな影響が出てしまうのです。
そんな問題を解消するために開始されたのが、クヴェシェティからハダバレーを突っ切って山の向こうのコビ(Kobi)との間を結ぶ大規模なトンネル工事プロジェクトでした。
トンネル建設は、冬季に陸の孤島となることを避けたいカズベキ地域の人にとっては悲願。
しかしながら、ハダバレーに住む人々にとっては、この地に息づいてきた伝統や自然を破壊するものでしかありません。
このトンネル工事を仕切っているのが中国資本の会社。
地質や生態系への影響の調査、トンネル掘削時の振動による歴史的建造物へのダメージなどの調査が不十分であると言われており、有志による反対運動も行われたそう。
しかし結局トンネル工事は始まってしまい、危惧されていた通りにいくつかの石塔が振動によって壊れ、トンネル建設ルート上にある村からの住民の立ち退きが進んでいるのが現状です。
ジョージアの国家プロジェクトである大規模トンネルの完成予定は、2024年。
平和で伝統が息づくハダバレーの楽園のような風景は、アクセスが飛躍的に向上したカズベキへと向かう大型観光バスや、ロシアとの物流を担う大型トラックが轟音をたてて行き交う風景へと入れ替わることとなります。
あと2年ほどで完全に姿を変えてしまうハダバレーは、言うなれば「幻の楽園」。
その伝統の残り香や、ピュアな大自然の美しさをしっかりと目に焼きつけておきたいものです。
ハダバレー徒歩コースの概要
ハダバレーを観光する方法はただひとつ。自分の足で歩くことです。
エリア内の最奥部に位置するツケレ村までは、いちおう未舗装道路が敷かれているものの、これがかなりの悪路。
一般車やタクシーでのアクセスは難しいと考えておきましょう。
まずは、ハダバレーを徒歩で観光する際に必要な情報を見ていきましょう!
ハダバレー観光マップ
紫:商店
赤:ゲストハウス
緑:徒歩ルート
青:見どころ
ハダバレー徒歩コース詳細
ハダバレーの徒歩コースは、一本道を往復するだけの簡単なルート。
行きは上り/帰りは下りとなります。
プランニングの際に最初に考えるべきことは、「どのポイントまで行くか」です。
クヴェシェティ~ツケレ間
・所要時間:片道9.3km
・距離:片道3時間~3時間半
・高低差:▲▼543m
・難易度:★★☆☆☆
クヴェシェティ~ツケレ~ハダ大滝間
・所要時間:片道12km
・距離:片道4時間~4時間半
・高低差:▲▼840m
・難易度:★★★☆☆
人が住む最後の村であり、観光ハイライトとなるツケレ村まで歩くなら往復6時間 + 各見どころの見学時間。
最奥部のハダ大滝まで歩くなら往復8時間 + 各見どころの見学時間と考えておきましょう。
ハダバレー観光時の注意点
徒歩ルートはクヴェシェティからの往復のみ!
声を大にして言っておきますが、ハダバレーの徒歩ルートは本記事内で紹介しているクヴェシェティ~ツケレ間の単純往復ただ一つだけです。
地図アプリによっては、ハダバレーの西側の山を越えた先にあるグダウリ(Gudauri)へのトレイルがあるように表示されているものもありますが、実際のところグダウリへ抜ける道は存在しません。
(かつてはどうにか山を越えられたそうですが、ここ数年の間は土砂崩れの影響で行き来できなくなっているそう。)
グダウリ→ツケレ→クヴェシェティと下るルートの方が効率良さそうに思えますが、とにかく危険&途中で確実に詰むのでやめましょう。
必要なものは持参する!
ハダバレー内の各村には、商店やレストラン等はいっさい存在しません。
徒歩ルートのスタート/ゴール地点となるクヴェシェティ村でさえ、商店はたったの一軒しかなく(しかも品ぞろえもかなり微妙)、レストランが一軒あるだけ。
ハダバレー観光&クヴェシェティ村滞在の期間に必要なものはすべて、トビリシなど大きな町で購入して持参するのがベストです。
野生動物に注意!
トレッキング時の基本ではありますが、ハダバレーでは野生動物への注意が必要です。
ジョージア山岳部をトレッキングする際は「羊の群れ=牧羊犬=要注意」の方程式が基本ですが、ハダバレーの羊の放牧は有人で行われていることが多いようで牧羊犬のリスクは少なめ。
最も注意すべきは、熊やオオカミです。
人が住むツケレ村までの区間では遭遇するリスクは高くないですが、そのさらに奥のハダ三滝まで続くコースでは野生動物遭遇リスクが一気に高まります。(そういうわけで、最奥部のハダ大滝まで行けなかったわけです…)
個人でのハダバレー日帰りは可能?
トビリシ(あるいはカズベキ)を拠点として、個人でハダバレーを日帰り観光することは不可能ではありません。
徒歩コースのスタート地点となるクヴェシェティ村まで朝一番でタクシーでアクセス→ツケレ村まで往復トレッキング(6時間)→クヴェシェティ村からトビリシ/カズベキへ戻る というプランなら、理論上は可能です。
しかし、かなり忙しくなってしまう点と、帰りの交通手段が不便である点がネック。
(クヴェシェティ村には流しのタクシーなど存在しないので、帰りはミニバスを利用することになるはず)
最奥部のハダ大滝まで歩く場合は往復8時間は最低でもかかるため、日帰りは非現実的だと思います。
また、公共交通機関でクヴェシェティまでアクセスする場合も、帰りのバスの時間的に日帰りは無謀でしょう。
個人的にはクヴェシェティ村に宿泊して、余裕をもって歩くのがおすすめです!
ハダバレーの見どころ
ハダバレーには、大自然が織りなす風景から伝統的な村々までバラエティーに富んだ魅力があります。
ここでは、実際に歩いた徒歩コースのようすを交えながら、ハダバレーの主要な見どころを紹介していきます!
ハダバレーへの入口となるのが、ジョージア軍用道路沿いに位置するクヴェシェティ村。
村の最西端にハダバレーへと至る唯一の橋があるので、ここでミニバスを降車します。【マップ 黄色】
ここからは、橋を渡って道なりにずっと歩いていくだけ。
10分ほどで、十数軒ほどの民家が建ち並ぶベドニ村(Bedoni)に入ります ▼
ベドニ村を抜けたら、ほぼ平坦な未舗装道路をずっと歩いていきます。
スタートから30分ほどの場所にある断崖絶壁の中腹に建つのが、エルブジ城塞(Elbuji Castel / ელგუჯას გამოქვაბული)【マップ 青①】 ▼
崖の一部をくり抜いて建設された中世の城塞は、ミステリアスな雰囲気。
城塞部分まで登ることはできなくなっていますが、遠くから眺めるだけでも圧巻です。
エルブジ城塞からさらに未舗装道路を15分ほど歩いた場所には、天然炭酸水が湧くスポットがあります。【マップ 青②】 ▼
この水は飲用可能で、強めな鉄の味&シュワッと微炭酸が特徴的。
クセの強い味ではありますが、のぶよ的には美味しく飲めました。
宿泊した家の人によると「どんな病気にも効く!」とのことですが、ジョージアには万病に効く系の湧き水が至る所にあるので、まあ話半分ということで…(笑)
天然炭酸水スポットから未舗装道路を歩くこと10分ほど。
スタートしてから合計1時間ほどで、最初の見どころであるスヴィアナ・ロスティアナの滝に到着です!
スヴィアナ・ロスティアナの滝
ハダバレーで最初の見どころが、スヴィアナ・ロスティアナの滝(Sviana-Rostiana Waterfall)【マップ 青③】
緑に彩られた崖を、曲線を描いて流れ落ちる姿がとても美しいです。
岩がゴロゴロしてやや足場が悪いものの、滝壺まで近づくことは可能。
ここからはやや勾配がある坂を登っていくことになるので、十分にエネルギーチャージ&リフレッシュしておきましょう。
スヴィアナ・ロスティアナの滝からは、未舗装道路はややきつめの上り坂となります。
ハダバレーの徒歩コース全体を通して、ガッツリ登る区間はここだけ。
歩くこと30分ほどで、ようやく坂が平坦になる地点に到着します。
上り坂が終わった地点からは、北にのびる砂利道をひたすら歩いて行くだけ。
ぽつりぽつりと民家(ほとんど廃屋)が見えてきます。
こんな感じの道を歩くこと15分ほど。
進行方向左手に、次の見どころであるベニアン・ベゴニ教会が見えてきます。
ベニアン・ベゴニ教会
ハダバレー観光のハイライトの一つが、ベニアン・ベゴニ教会(Benian Begoni Church)【マップ 青④】
たまたま遭遇した村人によると「16世紀の建造」とのことですが、詳細は謎に包まれています。(個人的にはもっと古いような印象を受けた)
ベニアン・ベゴニ教会内部への立ち入りはできず、教会の敷地内も半ば放置されたような状態。
周辺の村からはトンネル工事にともなう住民の立ち退きが進んでいるそうで、維持する人がいないのかもしれません。
コーカサスの美しい緑を背景にした教会自体も素晴らしいのですが、ここからの眺めはとにかく最高でした。 ▼
これから向かっていくツケレ村方面のパノラマと、そのさらに奥にそびえるコーカサスの急峻な山々。
他に人の姿はいっさいなく、辺りを包み込むのは静寂(と、トンネル工事に向かうトラックが時折走る音…)だけです。
東側には、ベルベットのような緑の絨毯の上に石塔を有する小さな集落が点在する風景が広がります。
この辺りの集落にはもう数人の住民しか残っていないそう。
廃村となるのをゆっくりと待つだけの村々…そこはかとない儚さや「諸行無常感」に支配されていました。
ベニアン・ベゴニ教会からツケレ村までは、再び砂利道を北へと歩いていくだけの簡単な道のり。
途中には人がまだ住んでいる民家もいくつかあり、みんな笑顔で出迎えてくれます。
ベニアン・ベゴニ教会から歩くこと30分ほど。
ハダバレー最大の見どころであり、人が居住する最後の村であるツケレに到着です。
ツケレ村
ハダバレー最奥部に位置するツケレ村(Tskere / წკერე)は、文句なしの観光ハイライト。【マップ 青⑤】
まるで巨大な屏風のようにそびえるコーカサスの山々を背として、これ以上ないほどに緑一色の世界にふんわりと浮かび上がるような村は、ジョージアに数ある「美しい村」の中でもトップレベルの美しさでした。
ツケレ村には、「六十の塔の谷」を象徴する存在である石塔が二基残っています。
いずれも、ハダバレーを一望する場所に堂々と建っており、かつてこの場所がどれだけ重要な防衛拠点であったのか想像できるはず。
ツケレ村の民家は、半壊したまま放置されているものがほとんど。
人口は十数人しか残っていない限界集落そのものですが、最近になって「移住者」がやって来たそうです ▼
その「移住者」というのが、すぐ近くで行われているトンネル掘削工事に携わる中国人労働者たち。
廃屋となった民家を改修し、トンネル工事期間中の仮住まいとしているそうで、現在ではもともとのツケレ村の人口を上回る数の中国人労働者が生活しているのだそうです。
実際に村を歩いていると、中国人らしき人の姿がちらほら。
こんなコーカサスの奥地で、遠く極東アジアからやって来た人間同士が出会うとは…なんだか親近感を感じる瞬間でした。(笑顔で挨拶してくれたり(中国語で)と、みんな感じの良い人たちだった)
ツケレ村はゆっくりと一周しても30分ほどの小さな村。
消えゆく村の素朴な雰囲気と、コーカサスの山々の絶景を堪能しましょう。
ハダ三滝
ハダバレーで人が住むのはツケレ村が最後ですが、さらに奥へと歩を進めることも可能。
ツケレ村の手前の分岐点から北へとのびる道に沿って「ハダ三滝」と呼ばれる三つの滝が点在しているのです。
ハダ三滝への道は、それまでの未舗装道路から一転してトレッキングコースらしい山道となります。
ツケレ村~最も奥に位置するハダ大滝まで片道3km/往復2時間半ほどの道のり。
アップダウンは少なめなので、体力があるなら&時間が許すならぜひ足をのばしてみましょう。
ツケレ村を出発して20分ほど。
渓谷を挟んだ対岸の崖を流れ落ちるのがツケレ滝(小)【です。【マップ 青⑥】 ▼
人間の口のように裂けた岩の間を流れ落ちる滝は、小さいながらもかなりの美しさ。
いっぽうで、どことなく不気味な雰囲気が漂っている気がしました。(勝手に「口裂け女の滝」と名付けた)
ツケレ滝(小)から、山道をさらに進むこと10分ほど。
二つめの滝であるツケレ滝(大)の全景が一望できます。【マップ 青⑦】▼
ツケレ滝(大)からさらに山道をすすむこと10分ほど。
山道が途切れ、川にぶつかるポイントがあります。
この川を越え(流れはそこまで急ではないので、普通に越えられます)、再び現れる山道を30分ほど歩いた場所には、三つ目の滝であり正真正銘のハダバレーの最果てであるハダ大滝があります。【マップ 青⑧】
…が。
この川を越えるポイント付近でのぶよは見てしまいました。
まだ乾ききっていない血を、喰い散らかされた腹から流したまま動かなくなった二頭の仔牛と、すでに骨になった何らかの家畜の残骸を…(さすがに写真は自重)
そのすぐそばには、牛でも馬でも羊のものでもない真っ黒な糞…
そう。これはきっと、というかほぼ間違いなく、熊です。
仔牛の死骸の真新しさ的に&糞の乾き具合的に、熊がこの川付近まで下りて来てさほど時間は経っていない様子。
周りにはのぶよ以外の人間の姿はいっさいなく、万が一この先で熊に遭遇しようものなら、確実に終了となります。
迷ったのですが、ここは安全と自分の直感を信じて引き返すことにしました。(すんごく悔しい)
というわけで、ハダ大滝はこの目で見ることが叶いませんでしたが、もし行った人がいたら教えてください。(でも熊にはとにかく気をつけて…無理は絶対ダメ)
ハダ大滝が見られなかった心残りはあるものの、ここまで目にしてきた風景だけでも十分に満足。
もうすぐ見られなくなってしまう村や石塔を名残惜しむように眺めながら、来た道をゆっくりと引き返しました。
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