こんにちは!アルメニアに5ヶ月滞在した世界半周中ののぶよ(@nobuyo5696)です。
(世界半周についてはこちらの記事へどうぞ。)
アルメニアで色々な場所を訪れては発信しているのですが、最もよく聞く感想が「RPGゲームの風景そのまま!」というもの。
中世の古びた修道院のたたずまいや、現実離れした大地の風景…
確かに、アルメニアは異世界感がただよう国かもしれません。
そんなアルメニアにおいても指折りの「RPGの世界感」に触れられるエリアが、北部のシラク地方(Shirak)。
今回紹介するのは、シラク地方南部の2つの修道院です ▼
荒涼とした大地の風景が印象的なシラク地方は、千年前の中世アルメニア王国時代の首都・アニ(Ani / 現在はトルコ領)から数十kmしか離れておらず、かつては王国の中心地だったエリア。
そのため、当時の栄光を現在に伝えるような建築物が多く残っているのです。
当時のアルメニアの人々の聖地造りに対するこだわりは尋常ではなかったようで、今回紹介する2か所の修道院のいずれも息を呑むほどに素晴らしいものです。
いずれもやや辺鄙な場所にあるため、多くの人は車やタクシーチャーターで訪れるのですが、のぶよのようにマルシュルートカ + 徒歩でアクセスすることも可能です。
というか、シラク地方の広大でダイナミックな大地の風景の中を自分の足で歩くこと自体が、RPG感でいっぱいのこのエリアを楽しむ最善の方法かもしれません。
今回の記事は、シラク地方南部の2つの中世修道院の観光情報を解説するもの。
なかなかアルメニア地方部のこんなところまで自力で訪れようという旅行者も少ないでしょうが、本当に素晴らしかったので記事にします。(特に、ハリチャヴァンク修道院はまじでものすごい)
ギュムリ滞在中のデイトリップ先としてもおすすめなので、ぜひとも多くの人に知ってもらえれば嬉しいです!
シラク地方南部中世修道院の徒歩コース概要
今回紹介する2つの修道院を徒歩でまわる場合、総歩行距離は12.5km / 所要時間は3時間~3時間半ほど。
正式なハイキングコースではなく、大部分は車両が通行可能な道を歩くことになります。
(地元の人が普通に停車して乗せてくれることも多いので、甘えるのもアリかも)
2つの修道院はまぎれもなく観光ハイライトとなりますが、途中の風景の美しさも見逃せません ▼
車ではサーッと通り過ぎてしまうだけの風景も、自分で歩きながら眺めるとやはり格別というもの。
シラク地方らしい広大な大地の風景や、途中の村の素朴な風景も素敵。
天気が良ければアルメニア国内最高峰のアラガツ山(Mt. Aragats)の姿を望みながらのミニ・ハイキングが楽しめます!
2つの修道院のアクセス拠点となるアルティクという町まではマルシュルートカ(公共ミニバス)で簡単にアクセスが可能です。
アルティクはシラク地方南部エリアの中心的な町。
中心街ど真ん中に位置するバスステーションに到着したら、南北にのびるメインストリートをひたすら南方向へと歩いて行きましょう。
中心街のはずれまで行くと、道は未舗装道路となり上り坂がはじまります。
この上り坂を登りきったところにあるのがルンバタヴァンク修道院。
アルティク中心街~ルンバタヴァンク修道院間は2km / 30分ほどの道のりです。
大地を見渡す孤高の聖地!ルンバタヴァンク
一つ目の中世修道院が、ルンバタヴァンク修道院(Lmbatavank / Լմբատավանք)。
7世紀(1400年前)の建造で、小高い丘の頂上にぽつりと建つ絶好のロケーションが特徴的。
周囲の広大な大地の風景や、麓のアルティクの町を一望することができます。
ルンバタヴァンク修道院の建物は、縦長&ドーム型屋根が特徴の聖ステパン教会(Surb Stepan)たった一つだけ。
ピンク色のトゥファ(tufa)という石で統一された外観が目を引きますが、実はここアルティク周辺はこのトゥファの一大産地なのだそう。
次のポイントであるハリチャヴァンク修道院への徒歩ルートの途中には、トゥファの採石場もあります。
聖ステパン教会の内部はかなりこじんまりとしていますが、アーチ部分に残る7世紀のフレスコ画には驚嘆するはず ▼
ここルンバタヴァンク修道院は、セルジューク朝やモンゴル帝国など中世後期の異民族による攻撃を免れたそうで、古い時代のフレスコ画が破壊されることなく保存されているのだそうです。
セルジューク朝がこの地に侵攻してきた際、ルンバタヴァンク修道院を砲撃しようとしたそうですが、大砲が暴発して自軍が壊滅状態になってしまったそう。
現在でもアルティクではルンバタヴァンク修道院が町の守り神として崇拝されており、こうした伝説めいたエピソードがいくつか語り継がれているのだそうです。
この日はちょうど日曜日だったこともあり、麓のアルティクの町から多くの人が礼拝に訪れていました。
十数名の人が集まって熱心に祈りを捧げ、教会の小さな空間に聖歌が響き渡る…
1400年前から変わらずに行われてきた伝統が現在にも息づいていることを目の当たりにして、そこはかとない興奮を覚えました。
↑ルンバット修道院のミサの様子も素晴らしかった😭
— 小山のぶよ🇵🇹世界半周中の翻訳してる人 (@nobuyo5696) October 11, 2021
小さな教会に生演奏のオルガンと人々の歌声が響いて、魂抜かれるかと思った。
神父さんが超ウェルカムで「写真?動画?撮れ撮れ!ガハハハァッ!」て感じだったのもコミュ力お化け大国ならでは?
(気合い入れてワインでも飲んだんかな😂) pic.twitter.com/wr8vClZWrk
規模こそ小さいものの、内部の神聖な雰囲気と絶好のロケーションは一見の価値あり。
どうしてこの小さな修道院が地元の人々の信仰を集め続けるのか、なんとなく理解できたような気がしました。
ルンバタヴァンク修道院~ハリチャヴァンク修道院間は、5.8km/1時間半の道のり。
ゆるやかな上り坂が続くコースで、距離の割に時間がかかります。
ルンバタヴァンク修道院からは登ってきた坂を一度下り、アルティクの東側の集落内の道を北東に真っすぐ進んでいくだけ。道はかなり分かりやすいです。
集落を抜けた先では幹線道路とぶつかるので、右に曲がり、ハリチ村(Harich)がある東方向へと歩いていきます。
幹線道路とぶつかる直前の橋付近からは、ピンク色の石の採掘場が見られます ▼
幹線道路を800mほど東に歩くと、ハリチ村への分岐点に至ります ▼
▲ 上のゲートがあるポイントがハリチャヴァンク修道院への分岐点。
ここを右に曲がって1.5kmほど真っすぐに歩いて行くだけです。
RPGの世界そのまま!ハリチャヴァンク修道院
続いてのシラク地方南部の中世修道院が、ハリチャヴァンク修道院(Harichavank / Հառիճի վանք)。
ここに関しては、もう言葉であれこれ説明する必要はありません。
外観の異世界感も内装の厳かさも1400年の歴史も…アルメニアに数ある修道院の中でもトップクラスの見ごたえを誇ります。
ハリチャヴァンク修道院内で最古の建造物が、7世紀(1400年前)に完成した③聖グレゴリウス教会。
その後13世紀初頭(800年前)に、敷地内で最大の建造物である②聖母教会や①ガヴィトなどが増設され、オリジナルの修道院を飲み込んだかのような巨大複合施設となりました。
中世アルメニアの建築技術のすべてがつぎ込まれたと言っても過言ではないほどに、一つ一つの建造物のディテールは秀逸。
見学には最低でも1時間はかけて、じっくりと当時の人々の信仰心の象徴を味わうのがおすすめです!
①ガヴィト(拝廊)
ハリチャヴァンク修道院の黄金時代を象徴する建造物が、1224年に完成したガヴィト(拝廊)。
「ガヴィト(gavit)」とは中世アルメニアの修道院建築によく見られるもので、聖堂と外界を隔てる空間のこと。
聖堂内に立ち入ることができなかった人々(身分が低い/洗礼を受けていないetc…)でも祈りを捧げることができるように造られたものです。
ハリチャヴァンク修道院のガヴィトは、②聖母教会に併設される形で建設されています。
星型を模した入口上部の装飾が有名ですが、その内部も傑作です ▼
四本の柱が天井部分のアーチを支える形になっているのは、11世紀~13世紀のアルメニアでは定番のスタイル。
自然光がうまく入るように計算されている点も、この時代の建築の特徴です。
ハリチャヴァンク修道院のガヴィトで独特なのが、天井部分に施された装飾の数々 ▼
アーチで仕切られた長方形の中に、正方形や花のモチーフが掘られており、どれもデザインが異なるのが特徴的。
ガヴィトの天井部分にここまでこだわり抜かれた装飾が施されている場所も、なかなか珍しいかもしれません。
②聖母教会
ハリチャヴァンク修道院内で最大の建造物が、聖母教会(Սբ. Աստվածածին)。
ザカリアン家のザカレ・ザカリアン(Zakare Zakarian)という人物によって建設が命じられ、1201年に完成したものです。
「ザカリアン家」というのは、12世紀後半~13世紀にかけてアルメニア北部地域を治めたアルメニア系グルジア人(ジョージア人)の一族のこと。
中世アルメニア王国の崩壊以降(11世紀~12世紀後半)のアルメニア地域は、中央アジアから西進してきたイスラム王朝・セルジューク朝の支配下にありました。
イスラム教徒の支配からアルメニア北部地域を解放し再度キリスト教化させる名目で、中世グルジア王国(現在のジョージア)からこの地にやって来たのがザカリアン家。
彼らは12世紀後半にセルジューク朝を撃退し、アルメニア北部地域では再びキリスト教文化が花開くこととなります。
ザカリアン家は、自身の権力下にあったアルメニア北部のロリ地方やシラク地方の修道院をリノベーションしたり、新たな教会を作ることに尽力しました。
ザカリアン家は、アルメニアのキリスト教とは宗派が異なるグルジア正教会で洗礼を受けた一族。
そのため、アルメニア北部地域で彼らが建築・再建に関与した修道院の多くには、中世グルジア王国風の宗教建築様式(外壁に十字架のモチーフ/内壁をフレスコ画で覆う)が見られる点も特徴的です。
聖母教会最大の特徴は、傘をかぶったようなドーム天井部分の装飾と外壁に刻まれた十字架 ▼
このようなスタイルの聖堂はアルメニア国内でも珍しく、ナゴルノ=カラバフ共和国(現アゼルバイジャン領)にあるガンザサル修道院(Gandzasar Monastery)を模したものだと考えられているそうです。
聖母教会への入口は①ガヴィトの内部に一か所のみ。入口周りの装飾も秀逸です ▼
のぶよが訪れた際は聖母教会内部でちょうど結婚式が行われていて、ぴんと張りつめた厳かな雰囲気が漂っていました ▼
聖堂内には数十人の人が集まっているにもかかわらず、誰一人として言葉を発することはありません。
神父の祈りの言葉だけが静寂を割き、儀式めいた不思議な雰囲気に圧倒されるばかりでした。
③聖グレゴリウス教会
②聖母教会の圧倒的な存在感に隠されるようにたたずむのが、聖グレゴリウス教会(Surb Grigor Lusavorich)
7世紀(1400年前)の建造で、ハリチャヴァンク修道院内で最古の歴史を誇ります。
「聖グレゴリウス」というのは、301年にアルメニアをキリスト教化した啓蒙者グレゴリウスのこと。
いわば、「アルメニアのキリスト教の父」のような存在の人物の名を冠した教会なのです。
教会内部はかなり質素な雰囲気。
内壁は黒っぽい石で統一されており、窓から差し込む自然光がこじんまりとした空間を照らします。
正直、聖グレゴリウス教会の内側だけ見ても「アルメニアによくある小規模の教会」くらいにしか思えませんが、1400年前からこの地に建ち続けている歴史は相当なもの。
他の建造物よりも600年ほど前の完成だとは信じられないほど、ハリチャヴァンク修道院の建物の絶妙な調和を演出しています。
さきほど聖母教会内で結婚式を済ませた新郎新婦が、聖グレゴリウス教会の前で白い鳩を飛ばしていた姿がとても印象的で、まるで映画のワンシーンを見ているかのようでした。
アルメニア地方部の結婚式🇦🇲
— 小山のぶよ🇵🇹世界半周中の翻訳してる人 (@nobuyo5696) October 10, 2021
1400年前の由緒ある教会での挙式もすごいけど、新郎新婦が白い鳩飛ばしてるのはもう映画のワンシーン。ここ中世ですかね? pic.twitter.com/VqqTsPIRxC
④半壊したガヴィト
③聖グレゴリウス教会のすぐ横にあるのが、半壊したガヴィト。
聖グレゴリウス教会の完成後、12世紀頃に増設されたものだと考えられていますが、地震で半壊したまま放置されて現在に至っています。
まともな状態で立っているのは一本の柱だけ。ここだけ見るとどんな建物だったのか全く想像がつきません。
半壊したガヴィト付近は、ハリチャヴァンク修道院の建造物をすべて眺めることができる撮影スポットとなっています。
⑤12世紀の礼拝堂
ハリチャヴァンク修道院の南側は断崖絶壁になっているのですが、その一部に12世紀の礼拝堂が残っています。
見てお分かりの通り、なんとも絶妙なバランスで斜めになった岩の頂上に建っており、アクセスすることは不可能。
ハリチャヴァンク修道院のミステリーの一つとして、ひそかに有名な存在です。
もともとは修道院の敷地がある断崖絶壁の端にあった礼拝堂でしたが、おそらく度重なる地震によって崖の一部が崩落して現在の姿になったのではないかと考えられているそうです。
⑥カトリコスの宿坊
ハリチャヴァンク修道院の北側にずらりと並ぶ二階建ての建物が、1850年代に建設されたカトリコスの宿坊。
「カトリコス」とは、アルメニアのキリスト教における最高指導者のこと。
聖なる都市・エチミアジンに代々居住していますが、当時のカトリコスが夏場の避暑地として選んだのがここハリチャヴァンク修道院でした。
宿泊棟や食堂はもちろんのこと、かつては修道僧用の施設や学校まで備わっていたそう。
ハリチャヴァンク修道院があるシラク地方は、夏場でも灼熱の気候となることは珍しい地域。
エチミアジンの夏の暑さを厭ったカトリコスの気持ちもなんとなく理解できます。(エレバンやエチミアジンあたりの夏はまじで恐ろしい暑さなので)
⑦ハリチ村
ハリチャヴァンク修道院のおひざもとであるハリチ村は、人口数百人もいるかどうか…というほどの小さな村。
ハリチャヴァンク修道院は村南部の高台に位置しているため、修道院の敷地から出て少し歩けば村の全景を一望することができます。
ハリチ村自体には特に見どころはありませんが、ほとんどすべての家がピンク色の石造りで統一されているのはお見事。
アルメニア最高峰であるアラガツ山に見守られて、平和を絵に描いたようにのんびりした雰囲気のハリチ村。
ピンクの家々が連なる田舎道を散策しながら、ゴール地点であるアルティク方面へと続く幹線道路を目指すのもおすすめです!
ハリチャヴァンクの観光を終えたら、来た時と同じ道を1.5kmほど再び歩いて幹線道路に戻ります。(ハリチ村を散策しながら幹線道路に向かうのも◎)
幹線道路からは、アルティク方面に向かって西に3kmほど歩いていくだけ。
アルティクの市街地に入ってからは下り坂となります。
この区間の幹線道路は交通量もまあまあありますが、路肩が広いので安心。
多くの場合誰かしら停車して乗せてくれる(&ほとんどの車はアルティクに向かう)ので、甘えるのもOKだと思います。
アルティクへのアクセス情報
ルンバタヴァンク&ハリチャヴァンクが位置するのは、シラク地方の中心都市・ギュムリから南東に50kmほどの場所。アルティクという町の近郊にあります。
アルティクへのアクセス拠点はギュムリ一択で、以下の2通りの方法があります。
①タクシー
最も簡単&効率的な移動手段が、ギュムリでタクシーをチャーターしてしまうこと。
ギュムリ~ルンバタヴァンク&ハリチャヴァンク間の単純往復 + 観光時の待機時間2時間ほどで、1台15000AMD(=¥3577)ほどが料金相場です。
のぶよ的には、せっかくタクシーをチャーターするなら、シラク地方南部の見どころもセットでまわるのが効率的だと思います。
(もちろん料金相場は上がってくるので、あとは交渉次第!)
・イェレルク聖堂(Yereruk Cathedral)
・ハイカゾル展望台(Haykadzor viewpoint)
・ジラピ村のキャラバンサライ(Jrapi Caravansaray)
とはいえ、いくらタクシーをチャーターしようと、上に挙げた見どころをすべて一日でまわるのはかなりハード。
シラク地方の道路状況はかなり悪く、上の見どころも距離的にはそれぞれ近いものの移動には想像以上に時間がかかるためです。
(特に、イェレルク聖堂&ジラピのキャラバンサライは別の日にまわるのが◎)
日帰りでまわるなら、今回の記事内で紹介している2か所を半日でまわるのがおすすめです。
②マルシュルートカ
今回紹介している2つの修道院の玄関口がアルティク(Artik / Արթիկ)という町。
ギュムリ~アルティク間を結ぶのは37番マルシュルートカ。
1日6往復のスケジュールで、個人での移動も楽勝です。
ギュムリでの発着地は中心街最南端に位置するバスステーション ▼
終点はアルティクの中心街にあるバスステーションです。
おわりに
シラク地方南部に位置する2つの中世修道院と、徒歩コースを紹介しました。
実際に徒歩でまわってみて感動したのが、とにかく美しい風景の連続だったこと。
2つの修道院自体の見ごたえもさることながら、途中の大地の開放的な風景やアラガツ山の雄大な姿も素晴らしかったです。
ギュムリ滞在中に時間が許すなら、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
コメント
ギュムリ 8:30,11:30,15:00発のマルシュルートカ043番がハリチャヴァンク修道院の直ぐ側まで行きます。
これを使いハリチャヴァンク修道院からルンバタヴァンク修道院経由でアルテックからギュムリに帰ると効率いいです。
アルティク発のギュムリ行きは他に047番マルシュルートカなども走っていて便数は多いようです。