こんにちは!アルメニア南部のヴァヨツ・ゾール地方をのんびりと旅行中、世界半周中ののぶよ(@nobuyo5696)です。
(世界半周についてはこちらの記事へどうぞ。)
気づけば1ヶ月半に渡るアルメニア南部の旅も終わりを迎えるとき。
この魅力たっぷりなエリアの旅の締めくくりにのぶよが選んだ町が、ヴァヨツ・ゾール地方の東部に位置するジェルムック(Jermuk/Ջերմուկ)です。

ジェルムックは、アルメニア国内ではもちろん、旧ソ連圏全域で高い知名度を誇る町。
その理由は、この町で生産されるミネラルウォーター”Jermuk”の存在が大きいですが、それ以外にも温泉保養地として古くから人々に愛され続けてきた歴史も関係しています。
標高2100m近い高原に位置するジェルムックは、澄んだ空気と良質な水、そして万病に効くとされる温泉が有名な自然派山岳保養地。
ソ連時代にはサナトリウムなどの長期滞在施設が多く建設され、温泉の効果で体の不調を改善しようと多くの人がジェルムックに滞在するようになりました。


ジェルムックの町に一歩足を踏み入れてみるとすぐに分かるのですが、歴史ある保養地ならではの優雅さや気品に、昔ながらの温泉地らしいレトロさ、そして町の周囲の大自然の美しさが見事に調和しており、唯一無二の魅力が感じられます。
中心街はもちろん、町の周辺にも見どころが多く点在しているのもジェルムックが根強い人気を持つ理由。
長期でのんびりと滞在しながらのんびりと見どころを周っていくスローペースな旅に、これ以上なく向いている町です。

また、ジェルムック観光はとにかく温泉!温泉!温泉!といった感じで、温泉大好き民族・日本人はきっと満足できるはず。
野趣あふれる天然温泉から、アルメニアでは珍しい熱々の絶景露天風呂、飲用の温泉がこんこんと湧く美しい建物に、療養用に開発されたサナトリウムでの温泉体験、さらには温泉水を用いた各種トリートメントまで…
「温泉」を五感で感じること、これこそがジェルムック観光最大のポイントとなります。
というわけで今回の記事は、アルメニアの温泉地・ジェルムック観光に必要な情報をまとめたもの。
見どころの詳細はもちろん、個人でのアクセスや観光時のアドバイスなど、実際に訪れたからこそ分かる情報たっぷりとなっています。
ジェルムックは有名な温泉保養地ということもあり、なんとなく「お高級で気取った雰囲気の観光客だらけのリゾート」といったイメージを持つもの。
実際、観光局はそういった方針でこの町をPRしようとしています。
しかし実際はむしろ逆で、「洗練されてはいるものの、レトロでピュアなアルメニア地方部らしさが感じられる温泉地」といった雰囲気。
町の雰囲気も、昔ながらの宿の感じも、どことなく日本の「昭和の温泉街」に似ているような気がします。
一度足を踏み入れたら絶対に長居したくなる…そんな不思議な魅力を放つアルメニアの奥座敷へ、いざ!
ジェルムック観光マップ
黄色:バスステーション代わりの広場
緑線:高山ハイキングコース
ジェルムック観光でしたい10のこと

ジェルムックの見どころは、主に中心街に集まっています。
地図を見るだけでは分からないのですが、ジェルムックの町はものすごい地形にひらけているのが特徴的。
温泉ホテルが点在する中心部のすぐ南は、大地を割くような深い渓谷となっており、見どころの多くはこの渓谷地帯に点在しているのです。

中心部~渓谷地帯のアクセスは徒歩のみとなり、高低差がものすごいため、正直行ったり来たりするのはかなり大変。
うまく一筆書きのように周るプランニングがおすすめです!
①ジェルムックの滝に感動する

ジェルムックのシンボルであり、最も人気が高い見どころがジェルムックの滝(Jermuk Waterfall/Ջերմուկի ջրվեժ)。【マップ 青①】
落差70mを誇るアルメニアで二番目に大きな滝で、存在感のある大岩の横をすり抜けるように優雅に流れ落ちる姿がとても絵になります。


ジェルムックの滝には「人魚の髪」という別名があることも有名。
海のない内陸国アルメニアで人魚というのも不思議な気がしますが、ここにはある伝説が関係しています。
むかしむかし、ジェルムックには滝は流れておらず、ただ深い渓谷が広がっているだけでした。
渓谷を望む岩山の上には貴族が築いた城が建っており、貴族とその娘が住んでいました。
娘はとにかく絶世の美貌の持ち主で、噂を聞いた身分の高い男たちが他地域からわざわざやって来ては、彼女との結婚を望んで城が立つ崖の下に日々集まっていたほど。しかし、当の娘は地元の羊飼いの男性に恋焦がれていたのです。
娘は毎晩、城内の自室から崖の下にロープを垂らし、ひそかに羊飼いの男を招き入れていました。
しかしある日のこと、とうとう娘の行動は父親である貴族にばれてしまいます。父親はロープを取り上げ、「もしお前がまたあの羊飼いに会ったなら、お前は人魚となり二度と水の中から出られないようになる」という呪いを自身の娘にかけます。
その夜。父親の呪いなど気にすることもなく、娘は取り上げられたロープの代わりに三つ編みにした自分の髪を垂らし、羊飼いの男を呼び寄せようとします。すると、彼女の姿はたちまち人魚になってしまい、垂らした髪はほどけて無数の水の流れを描く滝になりました。
こうして出来上がったジェルムックの滝は、いつしか地元の人たちに「人魚の髪」と呼ばれるようになったのでした。
めでたしめでたし(めでたいか?)

ジェルムックの滝の人魚伝説はあくまでも伝説ではありますが、女性の長い髪の毛を思わせる美しく神秘的な水の流れは、たしかに「人魚の髪」という表現がぴったり。
1月や2月の厳冬期には滝全体が完全に凍り付くそうで、冬場ならではの美しい風景が見られます(のぶよは絶対に冬にジェルムックなど行きたくないけど)。
②ジェルムック渓谷を散策する

ジェルムックの滝を流れ落ちた水が流れ込むのは、アルパ川が形成するジェルムック渓谷。【マップ 青②】
両側を高さ100mはある断崖絶壁に挟まれたダイナミックな景観が見られ、美しい渓流沿いに遊歩道が敷かれています。
この渓谷の北側の崖の上がジェルムックの町の中心となっており、渓谷の底の部分から眺めると「すごいところに町を作ったな…」と感心するはずです。


渓谷沿いはただ遊歩道をぶらぶらと散策するだけでもリフレッシュできますが、ジェルムックの滝以外にも見どころがいくつか点在しています。
代表的なのが、滝から200mほど東にある「幸運のアーチ」と呼ばれるスポット。▼

幸運のアーチは、ジェルムック渓谷の北側の断崖絶壁の下部が風化して自然と穴が空いたもの。
穴をくぐって、さらに奥の峡谷へと遊歩道が続いています。▼


自然の造形美がとにかく素晴らしい幸運のアーチ。
名前の由来は謎ですが、まあ「くぐると幸運が訪れる」的な言い伝えとかではないでしょうか(適当だけどたぶんそうだと思う)。

渓谷沿いはジェルムックの美しい自然の宝庫。
遥か上方には、ジェルムック中心街と郊外を結ぶ唯一のアーチ式の橋が架かっており、こちらもなかなかの迫力です。
ジェルムック渓谷の最も西側には、ジェルムック中心街~渓谷の最短ルートとなる階段があります。
この階段がとにかく急で長く、上るのにはかなり体力を使うので注意。▼


眺めこそ素晴らしいのですが、なんとも心もとないたたずまいの階段は足を一歩踏み外せば奈落の底行き。
何度も書きますが、この階段を上るのは本当に恐怖&しんどい(死ぬかと思った)ので、ぜひ別ルートからの渓谷へのアクセスをおすすめします。
③水のギャラリーで源泉に触れる

ジェルムックの滝と並ぶ観光ハイライトとされるのが、中心部の北側にある水のギャラリー(Gallery of Water)。【マップ 青③】
まるで宮殿を思わせる美しい造りの建造物の中で、温度が異なるジェルムックの温泉水が24時間湧き出している場所です。


水のギャラリーが完成したのは1956年のこと。
アルメニアが誇る詩人であるアレクサンドル・トゥマニャンの息子であるゲヴォルグ・トゥマニャンによって建造されました。
水のギャラリーは、アーチ式の柱が並ぶ優雅で洗練された造りが最大の特徴。
上品な温泉保養地としての気品や格を感じさせる雰囲気は、ぜひ実際に足を運んで感じてほしいものです。

水のギャラリーには美しいデザインが施された石の壺が6基並べられており、それぞれの壺に30℃~53℃の異なる温度の源泉が引かれています。
また、異なるのは温度だけでなく、ミネラル成分の構成も異なるのだそう。
ソディウムが多い源泉やカルシウムが多い源泉など、どれも一つとして同じ泉質ではないのだそうです。
好みの温度&泉質のお湯で手や顔を洗ったり、ペットボトル等に入れて持ち帰ったりするのがジェルムック定番のアクティビティー。
飲用も可能ですが、ジェルムックの温泉水はとにかくミネラル成分が濃いため、用法用量には注意が必要です。

地元では、水のギャラリーで湧き出すお湯はとにかく万病に効くと信じられており、みんなありがたそうにペットボトルに組んではごくごくと飲んでいる光景が見られます。
ジェルムックに長期滞在している人たちは、まず朝一番にこの水のギャラリーまで散歩し、たっぷりと一日分の温泉を汲んでいくことを日課としているのだそうです。
④優雅な雰囲気の町を散策

ジェルムックの中心街の北側、ホテルやサナトリウムが点在するエリアの目の前に広がるのが、中央公園。【マップ 青④】
長期滞在保養客向けに整備された緑いっぱいの公園で、二つの人工湖を中心に遊歩道が連なっており、散策がとても気持ち良いです。


人工湖はジェルムックに滞在する人々に人気の憩いの場として機能しており、子供が喜びそうなスワンボートやBBQ施設なども。
夏場はお土産屋やちょっとした屋台なども出て、暗くなるまで人々で賑わいます。


実はここジェルムックは「アルメニアのスイス」として観光PRがされている町。
ジェルムックの標高(2100m)は本家スイスの山岳リゾート(せいぜい標高1500mほど)など比較にならないほど高いですが、森と湖の美しい風景と優雅な造りの建物のコントラストは、目を細めてみればスイスっぽいような、そうでもないような…
まあのぶよ個人的にはスイスはあまり刺さらなかった(全体的に人の感じに難アリだった)ので、余裕でジェルムックの方が良いと思います。物価もスイスの10分の1以下ですしね…
⑤絶景温泉で極上の癒しを体験する

ホテルやサナトリウムがあるエリアから渓谷の真上に架かる橋を越えて、渓谷方面へと下っていく道路の途中には、New Geyserと呼ばれるスポットがあります。【マップ 青⑤】
近年オープンしたてのこの施設は、なんと渓谷を一望する抜群の立地でジェルムックの温泉を存分に堪能できる極上スポットなのです。


New Geyserのお湯は、ジェルムックの滝近くで湧く源泉を引いているそうで、中心部の温泉ホテル群とは別の源泉なのだそう。
泉質やミネラルのバランスも他の温泉とは異なるそうで、優しい湯ざわりであるため、最大1時間ほどと比較的長時間の入浴も可能です(※一般的なジェルムックの温泉は成分がとにかく強いので、最大で10分~15分の入浴が奨励されている)。
また、ジェルムックの温泉はどこも37℃~39℃ほどと、日本人的には微妙にぬるく感じるもの。
しかし、New Geyserのお湯は41℃~42℃と超適温で、これ以上ないほどの極楽気分を味わうことができるのです。

青緑色のミステリアスな湯を讃える浴槽からは、ジェルムックが誇る渓谷美を一望。
無料で提供される山のハーブティーを片手に、心も体もデトックスできます。
ジェルムックの中で、というかアルメニア全体を見ても、ここ以上に熱々で「これぞ温泉!」といった感じが味わえるのは、このNew Geyserかハンカヴァン温泉のお湯くらい。
料金はやや高めではありますが、温泉好きなら絶対に見逃せません!
⑥高山ハイキングを楽しむ

ジェルムック中心部の見どころを周り終えたら、少し近郊へと足をのばしてみましょう。
「あまりがっつりハイキングは…」という人でも、ジェルムック中心部から南西へとのびる舗装道路を800mほど上った先にある絶景ポイントまでは行ってみるのがおすすめです。【マップ 青⑥】
時間と体力に余裕がある人は、絶景ポイントから森の奥でこんこんと湧くジェルムック・ゲイシール方面へと高山ハイキングを楽しむことも可能。
季節と天候に恵まれれば、ジェルムックが誇る大自然の美しさを全身で感じることができます。

ジェルムック中心街~絶景ポイント~ジェルムック・ゲイシールまでは、片道5km/1時間半ほどの道のり。
ほぼ平坦か緩やかな坂道のみのコースですが、一部足場が悪かったり、靴を脱いで渓流を渡る場面も数回あるため、万人向きではない点に注意しましょう(特に子供や脚力に自信のない人は危険なので絶対にだめ)。

ジェルムック・ゲイシールまで行かないとしても、絶景ポイントから少し野原を歩くだけでも、緑の草原に高山植物がぶわあっと咲き誇る光景が見られます。
花の時期を狙うなら、5月~6月が最もおすすめです!
⑦アルメニアで一番の秘湯に入る

ジェルムック中心部から見て南西一帯には深い森が広がり、その最奥部では「ジェルムック・ゲイシール」と呼ばれる野趣満点の秘湯がこんこんと湧いています。【マップ 青⑦】
「ゲイシール」とは「間欠泉」のこと。
その名の通り、この場所には元々天然の温泉が噴き出しており、その温泉が渓流へと流れ出す際にミネラル成分が凝固して出来上がったのが、この天然の露天風呂です。
ハート型をした黄色の浴槽の中には現在でも間欠泉がごぼごぼと噴出しており、10分に1回ほど高さ数十cmほどに噴き上がります。


ジェルムック・ゲイシールのお湯はかなりぬるめで、おそらく30℃代前半といったところ。
真夏であれば最高に気持ち良いでしょうが、5月半ばだと結構な肌寒さでした。
お湯は香りも味わいもかなり強いミネラル感で、やはりこのお湯も成分が濃いよう。
地元の人によると「最大で15分まで!それ以上は肌に良くない」とのことでしたが、実際に入浴して10分ほどで肌に微妙なぴりぴり感が感じられたので、あながち言い過ぎでもないのかもしれません。
温度はややぬるめではあるものの、森の奥で渓流の音と鳥の鳴き声だけに囲まれながらどっぷりと浸かる野趣満点の露天風呂は、やはり最高の体験。
自然の恵みを全身で感じたい人にはおすすめです。

ジェルムックに来たならぜひゲイシールまで行ってほしいのですが、正直アクセスはかなり難あり。
のぶよは高原ハイキングも兼ねて徒歩でアクセスしましたが、距離や高低差では大したものではないにもかかわらず、上の写真のようなガチの川越えを4回ほどしなければならないため、経験のない人は危険です。
また、ゲイシールまで1kmほどの区間は野生の熊が生息しているとされ、遭遇すると命に関わる点も理解しておきましょう。(のぶよは浜崎あゆみを金切り声で熱唱しながら歩くことで生還)
徒歩以外でのアクセスの場合は、ジェルムック・ゲイシールへの道は想像を絶するほどの悪路(というかほぼ獣道)なので、一般車でのアクセスは絶対に不可能。
ジェルムック中心部の広場【マップ 黄色】にはゲイシール行きの4WDミニツアーが多く待機しているので、こちらを利用することになります(値段は尋ねてないけど、たぶんかなり高いと思う)。
⑧ケチュト湖の自然風景に癒される

ジェルムック渓谷を流れるアルパ川が町の4kmほど南で注ぎ込むのが、人工の湖であるケチュト湖(Kechut Reservoir/Կեչուտի ջրամբար)。【マップ 青⑧】
まるで緑のベルベットの絨毯のように滑らかな山々に囲まれた、神秘的な湖水を讃える湖は、四季折々の花々に彩られて美しい風景を見せてくれます。


ケチュト湖はどの角度から眺めても美しいのですが、かなり面積が大きい&途中に橋がないため、歩いて一周するのはかなり難しいのがネック。
最も簡単なのは、高原ハイキングと組み合わせて湖の北西岸を訪れるプランです。
⑨聖地の洞窟で祈る

ケチュト湖の西岸に敷かれた舗装道路をジェルムック方面に1kmほど行った場所にあるのが、馬乗りの洞窟と呼ばれるスポット。【マップ 青⑨】
地元では「奇跡が起こる洞窟」とされ、現在でもお祈りに訪れる人の姿が見られます。

洞窟があるのは、一見すると高さ数十メートルの岩山にしか見えないような場所。
岩山には竪穴が3つ空いており、最も深い穴は奥に7mほど続いています。
「馬乗りの洞窟」という一風変わった名前の由来は、かつてこの地を訪れた馬に乗った男性に関する逸話から。
むかしむかし、ある男性が真夜中に馬に乗り、崖の上を通過していました。
しかし真っ暗闇の中で男性はバランスを崩し、運の悪いことに馬とともに崖下に転落してしまいます。男性は深い傷を負ってしまい動ける状態ではなかったため、たまたま落下した地点に口を開けていた洞窟内に避難しました。しかし、このまま崖下に負傷した状態でいると、そのうち熊の餌食となってしまいます。
そこで男性は神に祈りを捧げることに。すると、男性の傷はたちまち癒え、馬は男性をのせて高い崖を駆け上り、崖の上へと戻ることができました。
めでたしめでたし(これは人魚と違って本当にめでたし)
そんなわけで、馬乗りの洞窟の周囲の岩盤には現在でも、奇跡を受けて崖を駆け上った際の馬の蹄の跡が残っているのだとか。
(のぶよも探してみたけど、全部ごつごつした岩でどれがどれだか…)


伝説の真偽は置いておくとして、馬乗りの洞窟は「奇跡が起こる」として多くの人の信仰を集める場所。
3つある洞窟の内部には宗教画や溶けた蝋燭の跡が多く見られ、果てしない聖地感に心が研ぎ澄まされます。

▲3つの洞窟のうち中央のものからは、岩の隙間から染み出た湧き水が溜まっている箇所が。
この湧き水は「万病に効く」とされ、多くの人が汲んで持ち帰るのだそうです(もはやジェルムックには万病に効く系の水や温泉しかないような気もするけど…)。
⑩ソ連サナトリウムに宿泊する

さてさて。観光的な目線でのジェルムックの魅力をあれこれ解説してきましたが、正直これまでの9つは前座。
のぶよ的に、ジェルムックという町をわざわざ訪れるべき最大の理由が、ソ連時代に建設されたサナトリウムに宿泊することです。
サナトリウムとは、長期で自然療養をする人のための滞在施設のこと。
ジェルムックには温泉が湧いていることもあり、温泉の効能を利用しながら体調不良や疾病の改善を目的とした人々がやって来ては長期で滞在する…という、日本の「湯治」に似た文化が古くから根づいています。
ジェルムックにはソ連時代から続くサナトリウムがいくつか営業していますが、のぶよが宿泊したのはArarat Health Spa。【マップ 青⑩】
ジェルムック最安値の価格帯ながらも、1泊3食付き+温泉トリートメント付きという破格の条件です。


サナトリウムでの宿泊は、とにかくソ連時代にタイムスリップしたかのような独特のもの。
設備や内装はかなり年季が入っていますし、サナトリウムのシステム自体にも、長期で宿泊している客たちの雰囲気にも、良い意味でそこはかとないソ連感がぷんぷん香ります。
もはや一般の旅行者がこれほどまでに「ソ連式」のサナトリウム体験ができる場所も、他にあまりないもの。
アルメニア独自の体験としてとても良い思い出になるので、ぜひとも宿泊を!

サナトリウム宿泊は初心者にはややシステムが複雑&ロシア語かアルメニア語必須というわけで、何も知らないで訪れると困ってしまうかもしれません。
実際に宿泊してみてのレポートやシステムのあれこれについては別記事で解説しているので、そちらもぜひチェックを!▼
ジェルムックへのアクセス・行き方
アルメニア屈指の有名観光地であるジェルムックですが、ここはアルメニア南部。
交通網はとにかく未発達で、他都市からのアクセスはとても不便です。
エレバンやイェゲグナゾールからは直行のマルシュルートカが走っていますが、便数が限られている&スケジュール的にかなり不便なのがネック。
時間を節約するなら、タクシーでサクッと移動してしまうのもアリかもしれません。
①タクシー
ジェルムックへの最もシンプルなアクセス手段が、タクシーを利用すること。
地理的に他都市から離れた場所に位置しているため、タクシー料金の相場はやや高めとなります。
・エレバン~ジェルムック:20000AMD(=¥8000)/3時間
・イェゲグナゾール~ジェルムック:7000AMD(=¥2800)/1時間
・ヴァイク~ジェルムック:4000AMD(=¥1600)/40分
・シシアン~ジェルムック:10000AMD(=¥4000)/1時間半
・ゴリス~ジェルムック:12000AMD(=¥6000)/2時間
ジェルムックの中心部には客待ちのタクシーが常に待機しているので、往復でチャーターする必要はありません。
②マルシュルートカ/シェアタクシー

ジェルムックにはマルシュルートカ(乗り合いミニバス)も走っているため、個人でアクセスすることも一応は可能。
エレバン便とイェゲグナゾール便、ヴァイク便の3路線がありますが、いずれも旅行者にとってはとても不便なスケジュールです。
アルメニア南部地域~ジェルムック間の移動はハード
ゴリスやシシアンなど、アルメニア最南部であるシュニク地方の都市~ジェルムック間の移動はとにかく不便。
直行のマルシュルートカはいっさい存在せず、タクシー以外にはヒッチハイクするくらいしか方法がありません。
どうしてもシュニク地方→ジェルムックへマルシュルートカで移動したい場合は、一度イェゲグナゾール(もしくはヴァイク)まで行き、そこからジェルムック行きのマルシュに乗る必要があります。
エレバン~ジェルムック間のマルシュルートカ/シェアタクシー

エレバン~ジェルムック間の公共交通は1日1往復のマルシュルートカが走るのみ。
スケジュールはエレバン発14:00/ジェルムック発7:45と固定されており、平日・土日にかかわらず毎日運行しています。
ジェルムック側の発着ポイントは、中心部の広場。【マップ 黄色】
エレバン側の発着ポイントは、中心街西側のキリキア・バスステーションです。▼
エレバン~ジェルムック間には、マルシュルートカとは別に、個人のドライバーが運行するシェアタクシーも1日2本走っています。
こちらは平日と土曜日のみの運行で、日曜は運休となる点に注意。
個人での運行ながらも、スケジュールは以下の通り決まっています。
・エレバン発→8:30/15:00
・ジェルムック発→11:00/14:00
このシェアタクシーは前日までの予約が必須で、自身で運転手に直接連絡するか、ジェルムックの宿泊先の人に予約してもらう必要がある点がネック。
また、ジェルムック→エレバン方面の移動であれば宿泊先までシェアタクシーが来てくれますが、エレバン→ジェルムック方面の移動の場合は自身で出発ポイントまで行かなければなりません。
エレバン側の出発ポイントは運転手によって異なる場所を指定してくるので、エレバン→ジェルムック方面のシェアタクシー移動に関しては、正直旅行者にはハードルが高いです。
イェゲグナゾール~ジェルムック間のマルシュルートカ

ヴァヨツ・ゾール地方の中心的な町であるイェゲグナゾールからは、ジェルムックまで直行のマルシュルートカが平日のみ1日1本走っています。
イェゲグナゾール14:00発/ジェルムック8:00発(※土日祝運休)という、旅行者的には不便なスケジュールで、イェゲグナゾール発着でのジェルムック日帰り往復は不可能。
とはいえ、ジェルムックは日帰りで訪れても何の意味もないので、このスケジュールで逆に良いのかもしれません。
イェゲグナゾール側の発着ポイントは中心街のバスステーション。▼
ジェルムック側の発着ポイントはジェルムック中心街の広場です。【マップ 黄色】
ヴァイク~ジェルムック間のマルシュルートカ

イェゲグナゾールの10kmほど東に位置するヴァイク(Vayk)は、ジェルムック方面への道と南部シュニク地方への道が分岐する交通の要所。
ヴァイク~ジェルムック間には平日のみ1日1本の直行マルシュが走っています。
ヴァイク側の発着ポイントは中心部のメインストリート東端から。▼
ジェルムック側の発着ポイントはジェルムック中心街の広場です。【マップ 黄色】
ヴァイク~アルメニア他都市間には、ジェルムック発着に比べてマルシュルートカ便が豊富なのがポイント。
エレバン行きやイェゲグナゾール行きのマルシュが比較的頻繁に走っているため、ジェルムック→ヴァイク→アルメニア他都市と経由しつつ移動するのもアリです。
ジェルムック観光時のアドバイス・注意点

ジェルムックは、アクセスこそ不便ではあるものの、現地の滞在インフラはかなり整っている町。
山奥に位置してはいるものの、旅行者も多く訪れるためか設備面は結構充実しており、それほど特別な準備は必要ないと思います。
ジェルムック観光のプランニングで最も大切なのが、訪問する時期と日程。
ここを誤ると、不完全燃焼な訪問となってしまうかもしれません。
ジェルムック観光におすすめの時期

ジェルムック観光におすすめの時期は、ずばり6月~8月の夏場。
標高2000m以上の高地に位置しているため、アルメニアの他地域が灼熱となる真夏であってもかなり涼しい日々が続き、快適に滞在できるためです。
秋の紅葉目的なら9月の後半がベスト。
10月はすでに冬の始まりといった風情なので、紅葉にはやや遅いかもしれません。
「夏場でも暑くない」というジェルムックの気候は、裏を返せば「年間を通して寒い」ということでもあります。
冬場は最高気温マイナス10℃以下なんて日が普通なので、まず観光には向きません。
実際、ジェルムックの春の訪れは遅く、冬の到来はかなり早め。
のぶよが滞在した5月半ばは最高気温11℃ほどとかなり寒く、ようやく冬が終わり緑が色づきはじめた…といった感じでした。
ジェルムック観光は安全?
地図を見ると、ジェルムックは隣国アゼルバイジャンとの国境からほど近い場所に位置しているのがわかります。
実際、数年前にアルメニアとアゼルバイジャンの間で勃発したナゴルノ=カラバフ紛争の際は、ジェルムック近郊の山にアゼルバイジャン側からの越境攻撃がされたというショッキングなニュースもありました。
しかしながら、2025年現在の情勢は落ち着いており、ジェルムックには問題なく滞在することが可能です。
とはいえ、「国境に近い=常にリスクはある」という点だけは頭の片隅に入れておくべき。
ジェルムックに至る道は一本しかないため、万が一この道がブロックされると完全なる陸の孤島となってしまいます。
ジェルムック観光に必要な日数

ジェルムック観光を考えている人に声を大にして主張したいのが、日帰りでは何の意味もないという点。
もちろん、日帰りで中心部の見どころをさっと周って別の町へ…というプランも物理的には可能ですが、「温泉保養地」であるジェルムックならではの魅力を全く味わうことができないと思います(草津温泉や銀山温泉に1~2時間立ち寄って写真を撮ってすぐに次の場所へ…としたところで何の意味もないのと同じこと)。
ジェルムックを観光するなら、最低でも1泊2日の日程は必須。
1日目で中心部の見どころは見られますし、夜は宿泊先での食事や温泉トリートメントを満喫。2日目にやや離れた見どころを周る…といったプランがベストです。
ジェルムックに宿泊する場合の曜日
温泉保養地であるジェルムックならではの注意点が、訪問する曜日。
ジェルムックのサナトリウムや温泉ホテルでは、温泉の効能を活かしたトリートメントが受けられるのですが、多くの施設では日曜日はトリートメントが完全休業となるのです。
つまり、土曜日から日曜日にかけての宿泊や、日曜日から月曜日にかけての宿泊だと、せっかくのトリートメントを受けられない可能性が高いということ。
ジェルムックならではの体験を逃さないためにも、宿泊する曜日はしっかりとプランニングしましょう。
ジェルムックへのアクセス・行き方
ジェルムック観光の持ち物
ジェルムックには大型スーパーは一つも存在せず、小規模な個人商店のみ営業しています。
基本的なものは揃いますし、特に不便も感じませんが、大都市に比べると品揃えには限りがあるもの。
特別に必要なものがあるなら、大きな町から持参するのがおすすめです。
飲食店に関しては中心街にいくつか点在していますが、多くは夏場(5月末~9月)のみの営業。
年間を通してやっている店もあるにはあるものの、オフシーズンだと食事に困る場面も少なからずあるかもしれません。
ジェルムックのサナトリウムや温泉ホテルでは、食事付プランを提供している施設も多数あるので、食事は宿で摂るのが最も安心&楽かもしれません。
おわりに
アルメニアが誇る温泉保養地・ジェルムックの魅力をがっつりと解説しました。
訪問前は「かなり有名な町だし、ものすごく観光地化されているんだろう…」なんて思っていたのですが、実際に訪れてみるとそのイメージは180°変化することに。
美しい山の自然に囲まれた小さな町は、観光客向けに開かれてはいるもののギラギラした感じではなく、素朴でピュアな魅力が強く感じられたためです。
ジェルムックならではの空気感や、保養地としての歴史が生み出した癒し感は、最低でも1泊はしないと感じられないもの。
見どころを順番に周るというスタイルではなく、のんびり滞在することをメインに見どころにも足をのばすというスタイルで楽しむのがおすすめです!
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