こんにちは!アルメニアに5ヶ月滞在した、世界半周中ののぶよ(@nobuyo5696)です。
(世界半周についてはこちらの記事へどうぞ。)
アルメニア北部のロリ地方にあるデベド渓谷の見どころを余すところなく紹介している当ブログですが、今回紹介するのはアクティブ派の人には絶対に訪れてほしいスポット。
「山羊の谷」と呼ばれる断崖絶壁の谷間を歩く絶景トレッキングコースです。
山羊の谷トレッキングコースは、デベド渓谷を形成する崖に沿って歩くもの。
最初から最後までずーーーっと絶景続きであるのはもちろん、コース上には中世に建てられた修道院がいくつか点在しており、どこも時が止まったようなたたずまいです ▼
ダイナミックな山々の風景に、異世界感あふれる修道院…
アルメニアという国の魅力を一度に満喫できる、超おすすめのトレッキングコースです。
実際に山羊の谷トレッキングコースに挑戦しましたが、「こんなに素晴らしい場所はもっと多くの人に知られて評価されるべき!」と歩き続けた4時間ずっと感じっぱなし
見るものすべてが本当に素晴らしく、延々と続くラピュタさながらの風景(映画見たことないからイメージだけど)…全身でデベド渓谷の魅力を感じることができました。
今回の記事では、日本人はおろか世界的にもほとんど知られていない山羊の谷トレッキングコースの情報をすシェアするもの。
コース上には二大ハイライトとなるコバイル修道院とホロマイリ修道院(下院)もあり、その歴史や建築についても解説しています。
運が良ければ、トレッキングコースの名前にもなっているほどの名物である野生の山羊の群れに出会えるかもしれません!(のぶよはこういうのに関してものすごく強運なので、出会えました!)
山羊の谷トレッキングコースの基本情報・アドバイス
デベド渓谷中部エリアの見どころの位置関係
今回の記事で紹介しているのは、デベド渓谷の断崖絶壁の下側を通る山羊の谷トレッキングコースです。
こちらは正式なトレッキングコースで、車両の通行はいっさい不可能。
自分の足で歩いた人だけが見られる絶景というわけです。
デベド渓谷の断崖絶壁の上部を通る聖なる谷徒歩ルートと組み合わせて歩くことも不可能ではありません。
しかし、地図で見ると目と鼻の先にあるように見える二本のトレイルの間には高さ数百メートルの断崖絶壁があり、ロッククライミングでもしないかぎり途中でコースを変更するのは無理。
アユゲハット村付近で唯一の連絡道が二本のトレイルを結んでいるものの、ここを経由してしまうと上院と下院に分かれているホロマイリ修道院のどちらか一つしか見学できなくなってしまいます。
というわけでのぶよ的には、聖なる谷の徒歩ルートと山羊の谷トレッキングはそれぞれ別の日に歩くのがおすすめ。(というか、体力的&時間的に両方を一日で制覇するのは無理)
トレッキングの所要時間・難易度
山羊の谷トレッキングは距離8.0kmのコースで、歩く時間だけなら3時間半~4時間ほどみておけばOKです。
ここに各見どころの観光時間を足すと、
というわけで、合計で5時間半~6時間ほどあればOK。
往復のマルシュルートカのスケジュール的にも、これでピッタリだと思います。
本記事の方向で山羊の谷トレッキングコースを歩く場合の高低差は、▲1024m / ▼743mと結構なもの。
とはいえコース全体は比較的ゆるやかで、急坂を上り下りする場面は多くありません。
岩場を登るポイント等もないのでスニーカーでも余裕で歩けてしまうレベルです(が、トレッキングシューズがあるに越したことはない)。
トレッキングの方向
山羊の谷トレッキングコースは、どちらの方向で歩いてもOKです。
本記事ではコバイル→ホロマイリ→オズンの順に南から北へと歩いていますが、この方向だと上りが多め。
逆方向(オズン→ホロマイリ→コバイル)で歩く方が下り坂メインとなるので、体力的には楽かもしれません。
しかしながら北→南(本記事と逆方向)に歩く場合の最大のネックは、ゴール地点となるコバイルの集落からの公共交通手段が、午後はいっさい存在しない点。
・ヒッチハイクでアラヴェルディに戻る
・コバイルの集落近くのトゥマニャン(Tumanyan)に宿泊する→翌朝のトゥマニャン発マルシュルートカでアラヴェルディに戻る
のいずれかとなってしまい、トレッキングで疲れた後にはややハードルが高いかも。
本記事の順番(南→北)に歩けば、ゴール地点のオズン村からアラヴェルディに戻るマルシュルートカ路線があるので、トレッキング後に路頭に迷うことはなし。確実性を求めるならこちらがおすすめです!
注意点・アドバイス
山羊の谷トレッキングは誰でも簡単に歩けてしまう初心者~中級者レベルのコース。
トレッキングシューズ等の装備があればベストですが、なくても何とかなります。
途中にレストランなどの飲食店や商店はゼロ。飲料水や軽食などは必ず持参しましょう。
(水に関しては、コース上にいくつか湧き水があります)
ゴール地点のオズン村はけっこうひらけており、商店や食堂、ゲストハウスも数軒あります。
オズン村を拠点にこのエリアをまわるのも一つの手かもしれません。
アルメニアのトレッキングに必須の地図アプリ
今回紹介しているコースだけでなく、アルメニア全土のハイキングコースを徹底的にカバーしている“Hike Armenia”というアプリ(無料)は、アルメニアでハイキングをする人にはもはや必需品。
デザインも秀逸ながら、実用性も抜群なのが素晴らしいところです。
・リアルタイムでハイキングルート(&現在位置)が見られる
・高低差や所要時間など詳細な情報を掲載
・オフラインでも位置情報を取得可能(事前のダウンロードが必要)
・すでに歩いた人からのコメントを参考にできる
アルメニアでハイキングをするなら、ぜひともダウンロードしてフル活用しましょう!
山羊の谷ハイキングマップ
黄色:バス停
緑線:徒歩ルート
コバイル修道院 ハイライト!
デベド渓谷を一望する崖の中腹にへばりつくように建つコバイル修道院(Kobayr Monastery / Քոբայրի վանք)は、山羊の谷トレッキングコースでいきなりのハイライトとなる場所。【マップ 青①】
デベド渓谷のみならずアルメニア全土を見ても、コバイル修道院の唯一無二の歴史と存在感はずば抜けたものです。
というのも、中世のジョージアとアルメニアそれぞれの建築様式が完璧に調和したものであるため ▼
ここデベド渓谷があるロリ地方一帯を支配したタシル=ジョラゲット王国のキューリキッド朝(中世アルメニア王国の分家)によって12世紀後半に建設されたのが、コバイル修道院のはじまり。
当初の建物は、伝統的なアルメニア教会の様式に忠実に造られたもの。
各地から修道僧が集い、中世アルメニアの文化の中心地として栄えていました。
その後、ロリ地方はイスラム系王朝であるセルジューク朝の支配下におかれ、コバイル修道院も大きな被害を受けて荒廃してしまいます。
13世紀に中世グルジア王国(現在のジョージア)からやってきたザカリアン一族がセルジューク朝を撃退し、ロリ地方に再びキリスト教圏としての文化が花開きます。
セルジューク朝支配時代に荒れ果てたコバイル修道院は、ザカリアン一族によってリノベーションされることに。
内壁のフレスコ画や外壁の十字架などが付け足され、ジョージア正教の教会建築を色濃く反映したものとなりました。
ひとことで「キリスト教国」と言っても、アルメニアとジョージアでは宗派が異なるため、宗教建築にも大きな違いが見られるもの。
その点、ここコバイル修道院は二つの国の異なるキリスト教が見事に融合した傑作と言えるでしょう。
①メイン教会跡
コバイル修道院で最初の建造物であるメイン教会は、中世アルメニアの教会建築の様式に忠実な建造物だったそう。
この場所がタシル=ジョラゲット王国のキューリキッド朝(=中世アルメニア王国の分家)の支配下にあった1171年に完成したもので、アルメニア人お得意の石を削った装飾の数々は圧巻です。
現在のメイン教会部分は、天井部分や壁が崩れ落ちたまま放置された状態。
地面にはかつての柱や屋根がゴロゴロと転がっており、この場所の異世界のような光景を演出しているようにも思えます。
この場所で注目したいのが、壁に刻まれた古ジョージア文字 ▼
これは「アソムタヴルリ」(Asomtavruli / ასომთავრული)と呼ばれる古いジョージア文字で、5世紀から11世紀にかけてお隣のジョージアで盛んに使用されていたもの。
中世グルジア王国からザカリアン一族がコバイル修道院にやってきたのは13世紀のことですが、その当時も宗教的な場面ではまだ使用されていたよう。
13世紀に②聖母教会が建設された際に刻まれたものなのでしょう。
メインの教会から門をくぐった先にあるのが、コバイル修道院内で最も見ごたえがある聖母教会です。
②聖母教会
コバイル修道院の敷地内で中心的な役割を担っていた場所が、聖母教会。
もともと隣に建っていた①メインの教会に隣接する形で、 1230年~1240年の間にザカリアン一族によって建てられたものです。
教会内部は半壊した状態。屋根は抜け落ち、南側の壁も崩落してしまっています ▼
教会の正面には弧を描くような壁に囲まれた祭壇があり、白を基調としたフレスコ画がびっしり。
このフレスコ画こそが、コバイル修道院がアルメニア全土で有名である最大の理由。保存状態はかなり良好です。
建物自体が崩落の危険があるということで、現在では補強用のオレンジの柱で祭壇部分が見えにくくなっているのが残念。
人間が造ったものが時の流れとともに壊れゆくのは仕方がないことですが、どうにかしてこの素晴らしいフレスコ画を後世に残してほしいものです…
教会内部のフレスコ画には、聖書に出てくるシーン等が描かれていますが、最も印象的なのは中央に描かれたイエス・キリストの姿 ▼
700年以上もずっと、人里離れたこの場所にたたずむコバイル修道院。
静謐さだけが支配する空間には、聖地らしいピンと張りつめた空気が漂っていました。
③洞窟
②聖母教会の南側の崖には「聖なる水」と呼ばれる湧き水が崖を流れ落ちる場所があり、洞窟のようになっています。
この洞窟、実はかつての修道僧たちが生活した場所だったそう。
こんな断崖絶壁の場所で祈りを捧げながらの生活…想像するだけでもその苦労のすさまじさが伝わってきます。
コバイル修道院の名前の由来は”kob”(=古いジョージア語で「洞窟」)と”ayr”(アルメニア語で「洞窟」)を組み合わせたものだそうですが、おそらくこの洞窟を指したもの。
二つの言語を組み合わせて名付けているあたりも、コバイル修道院に見られるジョージアとアルメニアの調和に一役かっているのかもしれませんね。
④チャペル
②聖母教会の東側。細い通路を挟んで建つチャペルも見逃せません。
1250年代に増設された石造りのチャペルで、その外壁に刻まれた文字はコバイル修道院の歴史を象徴するもの ▼
古ジョージア文字とアルメニア文字の二つが混在した状態で刻まれているのです。
アルメニアで色々な修道院を訪れましたが、一つの建物に二種類の文字が刻まれているものは初めて見たかもしれません。
真っ暗なチャペルの内部の奥にはテラスのような絶景ポイントがあり、デベド渓谷全体を一望することができます ▼
▲ テラスの地面には墓石が一つ埋め込まれており、古ジョージア文字が刻まれています。
これは、ザカリアン一族のシャンシェ・ザカリアン(Shanshe Zakarian)という人物のお墓。
シャンシェ・ザカリアンは、ロリ地方からセルジューク朝を撃退したイヴァネ・ザカリアン(Ivane Zakarian)の息子にあたる人物です。
⑤鐘楼
コバイル修道院といえば②聖母教会のフレスコ画が有名ですが、もう一つのハイライトが1279年に完成した鐘楼。
二層構造になっており、一階部分はザカリアン一族の霊廟として代々使用されていたそうです。
鐘楼の建設を命じたのは、④チャペルのテラス部分の墓石に眠るシャンシェ・ザカリアン。
その後、度重なる地震で半壊するたびに修復されて現在に至ります。
鐘楼の二階部分へのアクセスも可能で、デベド渓谷のパノラマが広がります ▼
何世紀にもわたってこの場所からデベド渓谷を見守ってきた鐘楼。
朝の光に包まれた山々の風景は、とても神々しいものでした。
⑥食堂跡
⑤鐘楼のすぐ隣に建つのが、かつての修道僧たちの食堂。
こちらも屋根部分はほぼ崩れ落ちてしまっていますが、四方の壁はちゃんと残っています。
食堂のすぐ裏手は崖になっており、崩落防止のためのクレーンがかろうじて支えているような状態。
近い将来、落石等が起こって見られなくなってしまうかもしれません…
コバイル修道院~ホロマイリ修道院間の見どころ
いきなりの観光ハイライト・コバイル修道院に感動した後は、いよいよトレッキングも本番!
(ここまで書いている自分でも、トレッキングの記事であることを忘れそうでした)
次のハイライトとなるホロマイリ修道院(下院)までは、4.6km/2時間15分ほどの道のり。
コース全体でも最難関ポイントとなる上り坂区間もあるので、心して歩いていきましょう。(とはいえ、そんな大した上りではないけど)
途中にはいくつか立ち寄っておきたいスポットがあるので、そちらもあわせて紹介していきます!
水場
コバイル修道院を出発してからすぐの場所には、水場があります。【マップ 青②】
かつてはコバイル修道院の一部だった建造物だと思いますが、現在では半壊したまま放置されています。
かなり立派な建造物の一角には、湧き水が引かれている部分が ▼
こちらはコバイル修道院敷地内の洞窟付近に湧く「聖なる水」を引いたものだそうで、なんとなくご利益がありそう。
水分補給も兼ねて休憩していくのも良いでしょう。
水場の建物をくぐりぬけた先しばらくは、流れ出た水が作り出す小川に沿って歩いていくコース ▼
いちおうマーキングはしっかりとされているのですが、木々が生い茂っていてやや見えにくい箇所も。
とはいえ、基本的に一本道なので迷うことはないでしょう。
小川に沿って歩く区間が終わると、一気に視界が開けます ▼
ここから次のポイントである祠までは、こんな感じの見通しの良い道がずっと続く区間。
すぐ左手にはずらりと崖がそびえ立ち、「デベド渓谷を歩いている…!」という感覚が湧いてくるはずです。
▲水場を出発してから30分ほどで、一基の黒いハチュカル(石の十字架)がぽつりとたたずむポイントに到着。ここまで来たら、次の見どころである祠は目と鼻の先です!
祠
コバイル修道院を出発してからおよそ40分ほどで、断崖絶壁にたたずむ祠に到着です。【マップ 青③】
正式名称や歴史などはいっさい不明ですが、教会の周りには夥しい数のハチュカル(石の十字架) や墓石があり、墓地として利用されていたのかもしれません。
祠付近からは、デベド渓谷の山々の絶景を一望できます ▼
祠と絶景を堪能したら、山羊の谷トレッキングコースで一番の上り坂となる区間のはじまり。
道はいくつか分岐していて少々わかりにくいですが、マーキングや標識はちゃんとあるので安心です ▼
祠を出発してひたすら登ること1km/30分ほど。道がようやく平坦になる場所が、次の絶景ポイントです。
デベド渓谷絶景ポイント
延々と続いた上り坂の先にあるのが、デベド渓谷絶景ポイント【マップ 青④】
かなり上まで登ったこともあり、渓谷の風景を一望することができます。
絶景ポイント付近には、山羊の谷トレッキングコースに沿った崖の上にある聖なる谷徒歩ルート上のアユゲハット村(Aygehat / Այգեհատ)に合流できる唯一の連絡道があります。
崖の上にアクセスしたい場合は、ここが最後の分岐点となるので覚えておきましょう。
(当記事の「山羊の谷トレッキングコース」では崖の上には行かず、崖の下側のコースを通ってホロマイリ修道院の下院へと向かいます)
聖なる谷徒歩ルートへの唯一の連絡道
絶景ポイント付近には崖のさらに上へと続く道が分岐しており、ここを進むと崖上に敷かれた聖なる谷徒歩ルートに合流することが可能です。
二つのトレイルを組み合わせて歩く場合は、ここが唯一行き来可能な道。
ここ以外では完全なる断崖絶壁のため、コース変更は不可能です。
絶景ポイントを堪能したら、ひたすら北方向へと続く道を歩いて行きましょう。
先ほどまでの上り坂が嘘のようにアップダウンはほとんどなく、歩きやすい道が続きます。
左側に高い崖、右側にデベド渓谷の絶景を眺めながら歩くこと1時間少々で、次のポイントであるホロマイリ修道院(下院)が目に入ってきます ▼
ホロマイリ修道院(下院)の手前の上り坂は少々足場が悪いと感じたので、注意して歩きましょう。
ホロマイリ修道院(下院) ハイライト!
山羊の谷トレイルのもう一つのハイライトとなるのが、ホロマイリ修道院(Horomayri Monastery / Հոռոմայր)。【マップ 青⑤】
崖の上の上院と崖下の下院の二つの部分に分かれており、お互いに行き来は不可能という不思議な造りの修道院です。
山羊の谷トレッキングコースで訪問可能なのは、崖下に位置する下院のみ。
ここから上院へ行くことはできず、崖上の聖なる谷徒歩ルートを歩いてのアクセスとなります。
①鐘楼
ホロマイリ修道院(下院)のシンボルである鐘楼は、1290年に完成したもの。
700年前のものだとは思えないほどに、当時の姿のままでデベド渓谷を見下ろしています。
鐘楼内部への入口は北側の一か所のみ。
入口の周りに施された装飾はどれも素晴らしい保存状態です。
鐘楼内部はかなり狭く、壁一面に目込まれたハチュカル(石の十字架)が圧巻。
屋根を支えるアーチ部分も700年前からそのままの状態です ▼
鐘楼の二階部分には登ることも可能で(足場が悪いので気をつけて!)、デベド渓谷のパノラマが広がります。
②教会跡
①鐘楼のすぐ北に残る建造物は、かつての教会。
屋根はすべて抜け落ちて壁だけがかろうじて残っている状態ですが、それがかえって絵になる風景を演出しています。
デベド渓谷の深い谷間とゴツゴツした山々を望む廃教会のコントラストには、きっと息を呑むはず。
教会内部の敷地はそれほど大きくありませんが、もはや崖と同化したような不思議な造りとなっています ▼
今にも崩れ落ちてきそうな崖と人工物が織りなす不思議な光景。
人の姿はいっさいなく、神秘的で厳かな雰囲気が漂っています。
フレスコ画などはいっさい見られないものの、壁の一部には十字架やアルメニア文字が刻まれた部分も。
おそらく700年前のオリジナルだと思います。
現在でもわざわざ急坂を登ってこの場所に巡礼しに来る人は少なからずいるよう。
祭壇のような円形の窪みには、比較的新しいロウソクの跡がいくつも残っていました。
③洞窟群
かつてこの場所が祈りの場として機能していた700年前。
修道僧たちの生活スペースとして掘られた洞窟の跡が、ホロマイリ修道院の敷地内には無数に残されています。
洞窟のすぐ前は、目が眩むような断崖絶壁。
こんな場所で日々の生活を送っていたなんて…にわかには信じられないほどのロケーションに驚きます。
修道僧たちの姿がなくなって数百年は経つのでしょうが、聖地らしく凛とした雰囲気に満ち溢れたホロマイリ修道院の下院。
徒歩でしかアクセスできないこともあってか訪れる人は多くないですが、苦労してたどり着く価値が大いにあり。神秘的な光景の数々に大満足でした。
ホロマイリ修道院(下院)~オズン間トレッキングコース
ホロマイリ修道院(下院)の見学を終えたら、ゴール地点となるオズン村に向かって北に真っすぐ歩いて行きましょう。
ホロマイリ修道院(下院)~オズン村間は、3km/1時間15分の道のり。
大部分は平坦な道ですが、オズン村手前で階段をガッツリ登ることになります。
滝
ホロマイリ修道院の下院を出発しておよそ10分ほど。断崖絶壁から流れ落ちる滝に到着します。【マップ 青⑥】
滝自体はそれほど見ごたえがあるものではないのですが、このあたりで山羊の谷トレイルの真のハイライトかもしれない野生の山羊たちに遭遇しました ▼
この山羊たちは、デベド渓谷の急斜面が続く地形を好んで生息しているそう。
野生なのであまり近づくことはできませんが、向こうもこんなところで人間に会うことが珍しいのか、草を食べるのも忘れて凝視されました(笑)
儀式の洞窟
滝の近くで山羊たちとしばしの睨み合いを経て、ふたたび真っすぐに20分ほど歩いたところにあったのが、崖に人の手が加えられた洞窟のような場所。【マップ 青⑦】
一見すると何の変哲もない岩場と洞窟ですが、その周りには無数の羊の骨が散らばっていました ▼
これはおそらく「マタグ(matagh / մատաղ)」と呼ばれるアルメニアで古くから伝わる風習の跡。
神への感謝を示したりや許しを乞う目的で、雄鶏か羊を教会の前で屠殺するもので、宗教的な意味合いがとても強い儀式のようなものです。
・肉は日没前に食べきる
・BBQなど肉に火を当てて調理しない(基本は煮込まれる)
・肉を隣近所の七組の家族と共同で食べる
都市部ではもうほとんど見られない風習だそうですが、ここロリ地方ではいまだに根強く残っているようです。 (以前聖なる谷の徒歩ルートを歩いたときも目撃した)
これだけ大量の羊の骨があるということは、それだけ多くの人がマタグの儀式を行ったということ。
どうしてあえてこの洞窟の前で?と不思議に思いますが、この洞窟がある崖の上にはオズンの村があり、村人たちの間で何かしらの信仰の対象となっている場所なのかもしれません。
絶景の階段
骨だらけの洞窟からさらに北に歩くこと5分ほどの場所で、ゴール地点のオズン村に至る上り坂が始まります。【マップ 青⑧】
この区間は階段のようになっており、明らかに人の手が加わったもの。
先述の洞窟へ儀式に向かう際に通るために整備されたのでしょうか…
階段をある程度上ったポイントからは、デベド渓谷のパノラマが望めます。
まるで天国に続いているようなつづら折りのクネクネ階段と山々の絶景…山羊の谷トレッキングコースで最後にして極上の風景です!
ツァフケヴァンク
階段を登りきった先で待ち受けているのが、黄色と黒の石造りが印象的なツァフケヴァンク(Tsakhkevank)という教会。【マップ 青⑨】
教会の建物自体は半壊したまま放置されていますが、内部に入ることも可能です。
ツァフケヴァンクが建つのは、オズンの村はずれの断崖絶壁ギリギリの場所。
今にも崩れ落ちそうな崖の上からは、数軒の民家が目に入ります ▼
ツァフケヴァンクからゴール地点のオズン村中心部のバス停までは、もう目と鼻の先!
時間に余裕があるなら、村のシンボルであるオズン教会を見学していく(所要時間45分)のも良いでしょう。
山羊の谷へのアクセス情報
今回紹介している各スポットへのアクセス拠点となるのが、アラヴェルディ(Alaverdi)の町。
アラヴェルディはデベド渓谷北部エリアの中心的な町で、ほとんどの場合はここを拠点に郊外の見どころへ足をのばすことになるはずです。
山羊の谷トレッキングコースのスタート地点トゥマニャン/ゴール地点オズンへは、車両でのアクセスが可能ですが、そこから先は自分の足で歩くしかアクセス方法はありません。
アラヴェルディ~トゥマニャン / アラヴェルディ~オズン間のアクセス方法は、以下の2通り。
予算・プランに合ったものを選びましょう!
①タクシー
アラヴェルディの中心街には、暇そうに客待ちしているタクシーがとにかくいっぱい。
何も言わずとも向こうから声をかけてくるので、料金交渉して利用するのもアリです。
・アラヴェルディ~トゥマニャン間:3000AMD(=¥714)~4000AMD(=¥962)
・アラヴェルディ~オズン間:1500AMD(=¥357) ~2000AMD(=¥481)
トレッキングのゴールとなるオズンの中心街には客待ちのタクシーはレア&Yandex等配車アプリは範囲外で使用不可なのがネック。
そこら辺の商店の人にタクシーを呼んでもらうか、オズン→アラヴェルディのマルシュルートカを利用するのが良いでしょう。
②マルシュルートカ
アラヴェルディを拠点にして、マルシュルートカでトレッキングのスタート/ゴール地点まで移動することも可能です。
本記事の通りに南→北の方向で歩くなら、往復の交通は以下の通りになります。
・往路:アラヴェルディ→トゥマニャン間のマルシュルートカ
・復路:オズン~アラヴェルディ間のマルシュルートカ
アラヴェルディ~トゥマニャンのマルシュルートカ
アラヴェルディ~トゥマニャンを直接結ぶマルシュルートカはいちおう存在するものの、1日1便/夕方にアラヴェルディ発というスケジュールのため、旅行者の利用には向きません。
トゥマニャンが位置するのは、アラヴェルディ~ヴァナゾル間を結ぶ幹線道路のちょうど中間地点なので、ヴァナゾル行きやエレバン行きのマルシュルートカを途中下車することとなるでしょう。
まずは、アラヴェルディのバスステーション(らしきもの)でヴァナゾル(Vanadzor / Վանաձոր)行きかエレバン(Yerevan / Երևան)行きのマルシュルートカを探します。
ヴァナゾル/エレバン方面のいずれのマルシュルートカも、午前中の出発がほとんどである点にご注意を。
(まあ、今回のトレッキングコースを歩くつもりなら自動的に朝早く行動開始することになるので大丈夫でしょうが)
運転手に「コバイル修道院に行きたい!」と言っておけば、トゥマニャン村の1kmほど手前にあるコバイル修道院へのトレッキングコース入口で降ろしてくれるはず ▼
トレッキングコースの入口~コバイル修道院までは420mほどと目と鼻の先。
しかし高低差が80m以上あるのでかなりガッツリ登ることとなり、20分ほどかかることを計算しておきましょう。
集落内の石段は獣道となり、急坂を登ること20分ほどでコバイル修道院に到着します。
アラヴェルディ~オズンのマルシュルートカ
今回のハイキングのゴール地点となるオズン村~アラヴェルディ間には直行マルシュルートカ路線があるので便利。
注意したいのは、アラヴェルディ→オズンへと移動する場合(=今回と逆方向に歩く場合)。
オズン行きのマルシュルートカはアラヴェルディのバスステーション(らしきもの)からの発着ではないのです。
オズン行きのマルシュルートカは、アラヴェルディ中心街東端の鉄道駅前を出発し、バスステーション(らしきもの)内には停車することなく幹線道路を西へと向かうルートをとります。
バスステーション(らしきもの)の敷地内でいくら待っていてもオズン行きのバスはやって来ないので、道路を渡った向かいの車線にあるアラヴェルディ市内路線バスのバス停で待ちましょう ▼
アラヴェルディを出発したマルシュルートカは、切り立った崖を登ってオズン村中心部にあるバス停に到着し、ここでアラヴェルディ方面へと折り返します ▼
バス停にはなんと英語表記のある時刻表が貼ってあるのですが、これがフェイクの極みなので要注意 ▼
アラヴェルディ~オズン間は利用客がとにかく少ないようで、減便に次ぐ減便の結果、2021年11月現在は1日3往復(土日は1日2往復)のみの運行となっているので要注意。
曜日にかかわらず、オズン→アラヴェルディの最終便は15:30と早めなので、乗り遅れないようにしっかりとプランニングしておきましょう。
【アラヴェルディの宿をさがす!】
おわりに
断崖絶壁の渓谷美も、この地域の複雑な歴史も、異世界に迷い込んでしまったかのような風景も…
魅力たっぷりのデベド渓谷・山羊の谷トレッキングを紹介しました。
日本人旅行者は概して、トレッキングの類に消極的な人が多い気がしますが、言わせてください。
本当に、自分の足で歩いてみるべきです!
難易度もそれほど高くないコースですし、苦労して歩いた以上の感動が待ち受けていることを保証します!
デベド渓谷エリアには、まだまだ知られざる見どころがたくさん。
他のスポットに関しても記事を書いているので、ぜひ参考にしてください!
コメント
トゥマニャンに滞在して山羊の谷→聖なる谷を1日で歩きました。トゥマニャンに泊まると行き帰りの交通手段を考えずに済むのでおすすめです。ただしトゥマニャンにはカフェが1軒ある以外飲食店は無いようなのでキッチン付か食事付きの宿が必須です。Tumanyan Bathhouse Hostel ドミトリー 3000ドラム に泊まリました。キッチンは機材は古いけど揃っています。部屋もきれいでベッドの寝心地もよく子ねずみが出没する以外はおすすめできる宿です。多少の食材は村の広場近くの商店で揃いますが、他で買って持ってきたほうがいいと思います。
トレイルについて、聖なる谷を後にしたのは時間や体力次第でアルドヴィをカットすることもできるからです。実際には聖なる谷の方を各区間ヒッチしたためアルドヴィにも行けました。最後に連絡路を通って山羊の谷に戻りトゥマニャンへ帰りました。連絡路は下り10分歩きやすいですが山羊の谷のような白赤白のサインはありません。ここから登る場合はこちらの写真だけが頼りになります。