こんにちは!元ポルトガル在住ののぶよ(@nobuyo5696)です。
ポルトガル中部に位置するトマール(Tomar)は、ナバン川を中心に広がる水と緑あふれる小さな町。
大航海時代の幕開けを担ったエンリケ航海王子が町の治水工事を命じたことでも知られている町です。
そんなトマールに訪れる旅行者の一番の目的は、世界遺産に指定されているトマールのキリスト教修道院でしょう。
もはや修道院というよりも要塞と呼べるような外観を持つ巨大な建造物で、鉄壁の要塞のような印象を受けます。
それもそのはず。
この修道院は中世初期の12世紀に城塞として建設されたものが、大航海時代終盤の16世紀にかけての400年の間、歴代のポルトガル王によって増改築が繰り返されて現在の姿になっているのです。
かつてのポルトガルの富をふんだんにつぎ込んだ豪華な装飾も見どころの一つ。
400年の間に徐々に移り変わったポルトガルの建築スタイルを視覚的に学ぶこともできるのです。
今回の記事では、トマールのキリスト教修道院&トマールの町中の見どころを紹介します。
他都市からのアクセスや、上手なまわり方も解説しているので、参考にしてください!
圧巻の世界遺産!トマールの中世キリスト教修道院の見どころ
トマールのキリスト教修道院の内部は、建設された時代ごとに大きく三つの部分に分けることができます。
12世紀、テンプル騎士団による建設:円堂(ロマネスク様式)
15世紀前半、エンリケ航海王子による増築:墓の回廊など(ゴシック様式)
15世紀後半~16世紀、マヌエル1世、ジョアン3世による増築:ジョアン3世の回廊、サンタ・バルバラの回廊、内部の装飾など(マヌエル様式・ルネサンス様式)
修道院の敷地内それぞれの部分で異なった建築様式が見られ、中世ポルトガルの建築史の見本のような素晴らしい建造物です。
ポルトガル広しと言えども、ここまでバラエティーに富んだ建築様式が混在している修道院は珍しく、一度の訪問で、数百年に渡るポルトガル栄光の時代のハイライトを感じることができます。
トマール城塞
トマールのキリスト教修道院の始まりは、1160年にテンプル騎士団によってこの場所に建設されたトマール城塞に遡ります。
丘の上に築かれた屈強な城壁と城塞は、当時ポルトガルの大部分を支配していたイスラム勢力のムーア人に対する防衛拠点として築かれたもの。
その後、城塞の敷地内には修道院の建物が建設されます。
トマールの修道院の建物がポルトガル他地域のものと大きく異なるのは、聖地エルサレムを奪還したテンプル騎士団が、現地の寺院にインスピレーションを受けたからだと言われています。
テンプル騎士団とは?
1099年、当時はイスラム勢力であるセルジューク朝に支配されていたキリスト教の聖地であるエルサレムを奪還するため、第一回十字軍が派兵されて見事成功・聖地奪還を果たします。
その後、聖地エルサレムの支配を守り続けるために結成された騎士修道会がテンプル騎士団。
当時のポルトガルでは、それまでムーア人などのイスラム勢力の支配下にあった国土の大部分を、キリスト教勢力が南へと追いやっていったレコンキスタ運動の真っ最中。
キリスト教の騎士修道会であったテンプル騎士団の一派は、ムーア人に対する防衛の最前線としてトマール修道院を建設し、後にイスラム勢力を一掃することに成功します。
修道院部分
圧巻の修道院部分は、円柱のような独特な形をしていることが一番の特徴。
後述しますが、この円形のホール内にあるのが修道院内で最も古い円堂です。
それ以外の部分は、後の時代の国王によって増築された部分。
中に一歩足を踏み入れると、現代と遮断されたような中世そのままの建物の姿に驚くでしょう。
トマールの修道院は、トマールの町の始まりの地と言える場所。
当時住民のほとんどは修道院の敷地内で生活していたと言われています。
美しいアズレージョが残る修道院の宿舎部分。
各部屋はかなり小さく、質素な生活が送られていたことが想像できます。
ポルトガルを代表するタイル芸術であるアズレージョは青のイメージが強いですが、実は青色で装飾されるようになったのは17世紀以降のこと。
それ以前は青一色ではなく、黄色や赤なども差し色として用いられるのが普通でした。
長い歴史を持つ修道院内の装飾には、このような古いアズレージョを見ることもできます。
墓の回廊
大航海時代を始めたエンリケ航海王子が増築した部分が、墓の回廊と呼ばれる小さな中庭を取り囲む場所。
キリスト教騎士団の団長を務めたエンリケ航海王子は、騎士団の本拠地であったトマールの町の整備に尽力し、町の中心的存在であった修道院も重視していました。
墓の回廊は、ゴシック様式の二本セットの柱が印象的な優雅な雰囲気。
壁のアズレージョは、後の16世紀に装飾されたもので、当初は修道院らしい質素な造りだったとされています。
キリスト騎士団とは?
1312年にテンプル騎士団の活動が禁止された後、ポルトガルで独自に結成された騎士修道会がキリスト騎士団。
ポルトガルでのイスラム教徒追放のためのレコンキスタ成功を導いた存在です。
エンリケ航海王子が騎士団団長を務めた時代にポルトガルではレコンキスタを完了し、大航海時代への幕が開けることとなります。
サンタ・バルバラの回廊
大航海時代後期にあたる16世紀、マヌエル1世により建設されたのがサンタ・バルバラの回廊。
二層構造の回廊の二階部分は屋外にあり、テラスのようになっています。
サンタ・バルバラの回廊からは、円柱型の円堂と、直方体の聖堂部分を一望することができます。
一目見ただけで、二つの建物の建築様式が全く異なっていることが一目瞭然。
聖堂部分は典型的なマヌエル様式で、大航海時代の富をつぎ込んだ精密で豪華な装飾が特徴的です。
トマールのキリスト教修道院で最も有名なのが、マヌエル様式の窓。
聖堂正面の下部に設置された窓は、大航海時代を象徴するような船のマストやロープがモチーフになっており、海洋大国として世界を制したポルトガルらしいデザインとなっています。
ジョアン3世の回廊
マヌエル1世の後に王位に就いたジョアン3世が建設を命じたのが、1591年に完成したジョアン3世の回廊。
先ほどのマヌエル様式の豪華な装飾が施されたサンタ・バルバラの回廊と比べると、かなり質素に感じられます。
こちらは、当時ヨーロッパで流行していたルネッサンス様式の影響を受けたもの。
左右対称や建築物全体の調和が重視されています。
奥に見えるマヌエル様式の聖堂と見比べると、その差は歴然。
たった数十年でここまで建築様式が変化したという点にも注目です。
円堂
トマールのキリスト教修道院内で最大の見どころが、テンプル騎士団により12世紀に建造された最古の建物である円堂。
外から見るとかなり無骨な印象を受けますが、一歩中に入るとそのギャップに驚かされるでしょう。
温かなフレスコ画で360°彩られた十六角形の空間の中央には、巨大な八角柱が設置されています。
中世初期のロマネスク様式で建設された八角柱。
その天蓋アーチにロマネスク様式らしい独特な装飾スタイルを見ることができます。
八角柱を取り囲むように設置された通路にも鮮やかな装飾がされていますが、こちらは後のマヌエル1世時代に施されたゴシック様式のもの。
ただ立って一面の装飾を眺めているだけでも、まるで異世界に来てしまったかのような感覚を覚えることでしょう。
当時のポルトガルがどれだけ裕福な国であったのか、深く感じることができます。
(現在では目も当てられない状態ですが。笑)
エンリケ航海王子ゆかりのトマールの町並み散策もお忘れなく!
トマール最大の見どころであるキリスト教修道院を存分に観光したなら、丘を下ってトマールの中心街を散策してみましょう。
トマールを拠点としてレコンキスタ運動に奔走したエンリケ航海王子によって整備されたナバン川の美しい流れと大小の運河に囲まれた町は、小さいながらもポルトガル地方部らしい素朴な雰囲気につつまれています。
エンリケ航海王子が治水整備したナバン川沿いの風景を散策
トマール市民の憩いの場となっているナバン河畔は、水辺らしい開放的な雰囲気に包まれた場所。
川の対岸からは、トマールの中心街と丘の上に建つ修道院を一望することができます。
川を利用した運輸能力に秀でていたことから、トマールはポルトガル内で最も早く工業化が進んだ町の一つでもあります。
現在ではその勢いも衰えましたが、かつての工場や倉庫などがリノベーションされており、美術館やコミュニティーセンターとして利用されています。
古いのに新しい風が感じられる不思議な空気感。
エンリケ航海王子が設計したトマールの町で暮らす人々は、今日もナバン川の流れとともにのんびりとしたリズムで生活しています。
エンリケ航海王子が設計したトマール中心街を散策
ナバン川の治水工事とともに、トマール中心街の設計にも携わったエンリケ航海王子。
修道院のおひざ元に開けた整然とした町並みは、現在でも開発当時のままに残された歴史あるもので、王子のセンスが感じられます。
中心街には大小さまざまな教会や広場が点在しており、直線で見通しが良い路地が多いというポルトガルでは珍しい町並みのスタイルが特徴的。
広場には、地元の人向けの小さな食堂や商店が軒を連ね、多くの人で賑わっていました。
ナバン川と修道院の丘の間にある南北に細長い中心街の路地は、縦か横のどちらかでいずれも直線ばかり。
ポルトガルでは斜面に町が広がっていることも多いため(そして計画性がないため)、路地がごちゃごちゃに入り組んでいることも多いのですが、トマールの中心街はとにかく計画的に整備された印象を受けます。
さすがは大航海時代の幕開けを担ったエンリケ航海王子。
すごいセンスを持った人だったのかもしれませんね。
リスボンから日帰りもOK!トマールのまわり方
トマールのまわり方&観光マップ
かなりこぢんまりとしたトマールの町。
観光手段は徒歩が基本です。
互いに隣接している鉄道駅とバスターミナルは、トマール中心街南側200mとすぐそばに位置しています。
中心街から丘の上の修道院までは、ゆるやかな坂道を600mほどの距離。
徒歩10~15分ほどでアクセス可能です。
青:見どころ
トマール修道院観光は共通チケットがお得!
トマールのキリスト教修道院以外にも、
バターリャ中世修道院
アルコバサ修道院
の二つの修道院が、「中世キリスト教建造物群」として世界遺産に指定されており、エリア内に点在しています。
これら三つの修道院をまわるなら、全てに入場可能な共通入場チケット購入がおすすめ。
購入から7日間有効で、料金は€15(=¥1784)です。
インフォメーション
トマールのキリスト教修道院
入場料:€6(=¥713)
営業時間:夏期 9:00~19:00/冬季 9:00~18:00
リスボンから日帰りor宿泊?トマールと近郊のまわり方
トマールの中世修道院の観光自体は2時間~3時間ほど見ておけば十分。
川を中心とした美しい町並みを散策しても、合計で半日もあれば一通り観光することができます。
リスボンとの間には頻繁に鉄道が走っているので十分に日帰り可能ですが、この地域には他にも世界遺産の修道院や中世の村などの見どころが点在しているのがポイント。
トマールを起点(終点)にして、ファティマ→バターリャ→アルコバサ→ナザレ→オビドスと数日かけて周遊することも可能です。
トマールを含めて周辺を周遊するなら、レイリア宿泊が便利!
トマールを含めた周辺エリアを宿泊しながら観光する場合の宿泊地として便利な位置にあるのが、レイリア(Leiria)という町。
地理的にこのエリアの真ん中に位置しているため、各町へのバス路線などもある程度充実しているのはもちろんのこと。
城塞のふもとに広がる町並み自体も美しく、町並み観光を楽しむこともできるためです。
バターリャ修道院・ファティマ・トマールなどの観光拠点となるのが、レイリアの町。
丘の上の城塞のふもとに広がる可愛らしい町並みと、若いエネルギー溢れる雰囲気も魅力的で、ローカルレストランが点在しています。
節約派には嬉しいホステルがあるのもポイントです。
トマールだけ別プランで訪れるのがおすすめ
このエリアの他の町とは異なり、トマールはリスボン~ポルト間を結ぶ鉄道路線の沿線にある町。
他の町がレイリアを中心都市とした東西方向に交通網が整備されているのに対し、トマールの交通網はあくまでもリスボン(もしくはコインブラ)から延びる南北方向のもの。
つまり、同じ地方にありながら、トマールだけ生活圏が異なるというわけです。
なので、トマール~レイリアなど東西方向の交通はかなり不便。
のぶよ的には、トマール以外の町をリスボンからの周遊で観光し、トマールにはリスボン~ポルト(コインブラ)間の移動途中に立ち寄るというプランが最もスムーズだと思います。
トマールへの行き方&近郊の見どころへのアクセス
リスボン~トマールのアクセス
トマールは、ポルトガルを南北に結ぶポルトガル鉄道の主要路線沿いにあるため、鉄道の利用が便利な町。
リスボンのサンタ・アポローニア駅(Santa Apolónia)から、かなりの頻度で列車が出ています。
サンタ・アポローニア駅はリスボン地下鉄青線と直結しているため、市内他エリアからのアクセスも便利です。
バスを利用したい場合は、セットゥ・リオシュバスターミナル(Sete Rios)からRede Expressos社のバスが運行していますが、本数はやや少なめなのでご注意を。
ポルトガル北部・中部(ポルト/コインブラ)~トマールのアクセス
ポルトガル北部のポルトや中部のコインブラ~トマール間は、本数が多い鉄道利用が便利。
バスを利用したい場合はRede Expressos社が直行バスを運行してはいるものの、1日1本~2本と便数は少なめなのでご注意を。
トマールとセットでまわりたい!周辺の観光スポット
トマールは、たくさんの観光スポットが点在しているこのエリアの東端に位置しており、周辺の町へのアクセスはやや不便。
多くの人がリスボンやコインブラから鉄道を利用してやってくるため、エリア内を東西に結ぶ交通機関があまり発展していないのが一番の理由です。
トマール、バターリャ、アルコバサの世界遺産の三大修道院を個人で日帰りで訪れることは不可能。
必ずどこかの町に宿泊しないといけません。
トマールとセットで日帰りで訪れられる唯一の町がファティマですが、この区間もバスの本数が少なく、旅行者的には不便なのが現状です。
ファティマ
「奇跡が起こった場所」として知られる聖地ファティマ(Fátima)は、トマールとセットで訪れることができる町。
アクセスはバスのみとなり、
Rodotejo社:1日2~3本のバス
Rede Expressos社:1日1本のバス
が走っています。
個人ではまわりにくいポルトガル中部地域。点在する世界遺産の修道院や「谷間の真珠」オビドス、大西洋岸の白い町ナザレなどを日帰りでまわりたいなら、リスボン発着の現地ツアーが最も便利な方法です。
・人気の都市を1日で!オビドス、ナザレ、世界遺産バターリャ、聖地ファティマ1日観光ツアー<昼食付/日本語ガイド/リスボン発>by[みゅう]
おわりに
とにかく多くの人に訪れてほしいトマールの町。
世界遺産の修道院は鳥肌ものですし、清流のせせらぎを中心とした美しい町並みも見逃せません。
観光地化されてはいないので、ポルトガルの地方都市らしい素朴な雰囲気が至る所で感じられるのもポイント。
リスボン~ポルト間の移動途中に立ち寄っての観光も可能なので、ぜひプランに入れてみてはいかがでしょうか。
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