こんにちは!元ポルトガル在住ののぶよ(@nobuyo5696)です。
ポルトガル南東部に位置するアレンテージョ地方のなかでも、最も東。
スペインとの国境までたった15kmほどの丘の上に位置するエルヴァス(Elvas)は、町全体が城壁に囲まれた要塞のような町です。
中世から国境警備の重大な役割を担ってきた町は、「国境防衛都市エルヴァスとその要塞群」として、ユネスコの世界遺産にも登録されています。
広大な大地を見渡す城塞や、町の周辺に点在する要塞の数々など、この地域の防衛拠点としての重要性を感じさせるスポットがたくさん。
地理的にスペインに近いこともあり、どことなくスペイン風の町並みも特徴的です。
その地理的な重要性から、幾度となく隣国・スペインとの領土争いの舞台となったエルヴァス。
何回もの戦争の経験を活かし、何人たりとも陥落させることができない「鉄壁の要塞都市」としての地位を確立し、19世紀にはあのナポレオン軍を撃退したことでも知られています。
今回の記事では、歴史を感じながらのんびりと観光を楽しみたい、国境の町エルヴァスの魅力を解説していきます。
エルヴァスの観光スポット
ノッサ・セニョーラ・ダ・アスンサオン教会
エルヴァスのシンボルとして多くの人の注目を集めるのが、ノッサ・セニョーラ・ダ・アスンサオン教会(Igreja de Nossa Senhora da Assunção)。
町の中心となるレプーブリカ広場に建つ堂々とした教会は、1517年建造のものです。
マヌエル様式で建設されたものの、その後幾度となく改装されたため、現在では当初の建築様式はほとんど見られません。
名実ともにエルヴァスの中心的な存在で、独特の外観が観光客に人気のスポットとなっています。
レプーブリカ広場
エルヴァスの中心的な広場が、レプーブリカ広場(Praça da República)。
広場の地面には、ポルトガルらしい石が敷き詰められたモザイク装飾が見られます。
一般的に、ポルトガルの広場の地面のモザイク装飾は、白と黒の二色であることがほとんど。
一方のレプーブリカ広場では、黄色の石を使って装飾されている点が特徴的です。
エルヴァスを散策していると、多くの建物が白壁を基調に黄色をポイントカラーとして装飾されていることに気が付くはず。
黄色や青を使っての建物の装飾はポルトガルの地方部で多く見られますが、ここまで黄色で統一されているのは珍しいと思います。
レプーブリカ広場には、オープンテラスのカフェが数軒あり、観光客も地元の人も集まる場所と言った雰囲気。
平日の昼間にも関わらず、多くの人が広場に集まってお喋りしている光景は、やっぱりポルトガルならではのものです。
レプーブリカ広場周辺の町並み
レプーブリカ広場周辺は、エルヴァスで一番のショッピングエリア。
スペインから物価の安いポルトガルへと国境を越えてやってきた観光客向けに、洋服や日用品などを売るお店が軒を連ねていて、多くの人で賑わっています。
散策していて聞こえてくるのは、大半がスペイン語。
スペイン国境からたったの15kmしか離れておらず、国境も自由に移動できるため、毎日多くのスペイン人がやってくるのです。
エルヴァスではプラムが名産で、プラムを使ったワインやスイーツがお土産として売られているのをよく見かけます。
これは、エルヴァスの要塞都市としての歴史を反映した食文化の一つ。
この地域で多く収穫されるプラムは、糖蜜漬けなどで日持ちさせることができ、栄養分も豊富なため、万が一敵に町が包囲された際にも生き延びることができるように、保存食として利用されてきたのです。
黄色で装飾された町並みや、四角形の建物が並ぶ風景も、どことなくスペインを思い出させるもの。
昔はポルトガルとスペインの領土争いの最前線となっていたエルヴァスですが、現在ではそんなことを感じさせる空気すらなく、平和で開放的な雰囲気が町中に漂っています。
サンタ・クララのアーチ
レプーブリカ広場からエルヴァス城方面へと進んでいくと、サンタ・クララのアーチ(Arco de Santa Clara)に到着します。
エルヴァスの周辺がイスラム教徒であるムーア人の支配下にあった時代(12世紀以前)の城壁の一部を改装したもので、城壁と建築物が一体化したような不思議な造りをしています。
アーチの前に立つ一本の柱は、ペロウリーニョ(Pelourinho)と呼ばれるもの。
中世のポルトガルで多く立てられたもので、町によって異なるデザインが特徴です。
ペロウリーニョは、犯罪者などを括り付けて、町のさらし者にする目的で立てられたもの。
柱の上部には犯罪者の手首を縄でくくるための金具が設置されています。
エルヴァス城
エルヴァスの北端に位置するエルヴァス城(Castelo de Elvas)は、8世紀~12世紀半ばにかけてこの地を支配したイスラム教徒のムーア人により建設されたもの。
レコンキスタ運動により、1166年にエルヴァスがポルトガル王国領となった後は、歴代の王により増改築が進められました。
その後、スペインとポルトガルの間で、幾度となく領土争いの舞台となったエルヴァス。
1640年に起こったポルトガル革命によって生じた、スペインとの間の戦争(ポルトガル王政復古戦争)においては、エルヴァス城が戦いの最前線として利用されます。
二度にわたってスペイン領となった歴史を持つエルヴァスの町をずっと防衛し続けたエルヴァス城。
城壁からは、そんな歴史を感じさせないほどに平和な雰囲気の町を見渡すことができます。
エルヴァス城周辺の町並み
どことなくスペインの雰囲気が強かったレプーブリカ広場周辺に比べると、エルヴァス城付近の町並みは、典型的なポルトガルの地方部のもの。
四角くて高いスペイン風の建物は息をひそめ、二階建ての民家が連なる雰囲気は安定のポルトガル感です。
色褪せた扉や、壁のペンキ、アズレージョ装飾なども見られ、町の長い歴史を感じることができるでしょう。
アモレイラの水道橋
丘の上にあるエルヴァスの中心街から坂を下っていくと、アモレイラの水道橋(Aqueduto da Amoreira)が堂々と建っています。
こちらも世界遺産に登録されている建築物の一つで、1620年に完成したもの。
高さ31m、全長8.5kmに及ぶ巨大な水道橋は、なんと今でも現役。
現在でもエルヴァスの中心街に水を運んでいる存在と言うのが驚きです。
アモレイラ水道橋がこんなに巨大な理由は、要塞都市というエルヴァスの町ならではのもの。
例え敵に町が包囲されても、市民の生命線となる水が絶たれることのないよう、高い場所で水を運搬するための水道橋が建設されたと言われています。
水道橋の下は幹線道路となっており、過去と現代が交じり合うような風景は、なんだか不思議な気分にさせられるもの。
中心街から少々距離はありますが、足をのばす価値はあります。
グラーサ要塞
エルヴァスの町の北側の丘にあるグラーサ要塞(Forte de Nossa Senhora da Graça)は、上から見ると星形になっている、独特な造りの超強固な要塞。
当時ヨーロッパで流行していた星形要塞が完璧な状態で残る場所で、世界遺産の一部に指定されています。
グラーサ要塞が建設されたのは、エルヴァスの町の歴史からするとだいぶ最近の1792年のこと。
それ以前の17世紀には、スペインによる二度の侵攻・占領を経験したエルヴァス。
18世紀に入ると、ポルトガルの国境防衛を担う要塞都市として、敵の侵略を防ぐことに特化した町づくりが進められます。
もともとムーア人が築いた城壁に囲まれている町ではあったものの、どうしても死角ができてしまうことがエルヴァスの防衛拠点としての課題でした。
当時の国王・ジョセフ1世は、エルヴァスの町の防衛を完璧なものとするために、町を囲むように点在する周辺の丘の上に大小さまざまな要塞を築くことを命じました。
エルヴァスの町からだけではなく、その周辺の丘からも監視することで、敵が攻め込む隙を限りなくゼロに近づけたのです。
グラーサ要塞がある丘からは、1kmほど離れた丘の上にあるエルヴァスの町が一望でき、「鉄壁の要塞都市」と呼ばれる理由がわかります。
町全体が城壁に囲まれ、小高い丘の上にあるため見晴らしは抜群。
町の周辺の丘には、グラーサ要塞をはじめ大小さまざまな要塞郡が点在しており、敵が攻め込む隙すらありません。
こうした鉄壁の町づくりが功を奏し、19世紀初頭のナポレオン軍による二度の侵攻においては、周辺の町がほぼ全て陥落してしまった中で、要塞都市・エルヴァスだけは独立を守り抜くことができたのです。
エルヴァスのまわり方
エルヴァス観光マップ
青:見どころ
エルヴァス観光のポイント(所要時間・市内交通・宿泊)
エルヴァス観光に必要な時間は、
丘の上の中心街だけ:半日
中心街+周辺の観光スポット(要塞群、アモレイラの水道橋など):丸1日
は見ておきましょう。
エルヴァスは市内交通がほとんど発展しておらず、丘の上の中心街から離れた要塞群へのアクセスは、徒歩(30分~40分)かタクシーのみとなります。
アレンテージョ地方の中心都市であるエヴォラからの日帰りでも楽しめますが、周辺の町や村を合わせて観光する場合や、スペイン方面へ抜ける場合は、エルヴァスに宿泊するのもおすすめ。
スペインからの日帰り観光客が多く見られる昼間とは打って変わり、夕方以降のエルヴァスは静かな地方都市の雰囲気そのものです。
ポルトガル他都市~エルヴァスのアクセス
アレンテージョ地方の中心都市として発展しているエヴォラは、首都のリスボンからのアクセスが最も便利です。
リスボン~エルヴァスのアクセス
リスボン~エルヴァス間の移動は、Rede expressos社の長距離バスの利用が便利。
鉄道は本数が少ない上に、エルヴァスの鉄道駅は中心街から離れた場所にあって不便。
わざわざ鉄道を利用する意味はありません。
リスボンでの発着地はセットゥ・リオシュ(Sete Rios)バスターミナル。
リスボン市内中心部から地下鉄でアクセス可能です。
エルヴァス~バダホス(スペイン)間のバス
エルヴァスから国境を越えて、スペイン側のバダホス(Badajos)の町にアクセスすることも可能です。
Rodalentejo社が1日2往復
Grupo Ruiz社が1日5~6往復
のバスを運行しています。
バダホスではスペイン国内各都市への長距離バスが発着しているので、このルートでスペイン&ポルトガルを周遊する人は必ず経由する町となります。
エルヴァス~アレンテージョ地方の他の町のアクセス
エルヴァスはアレンテージョ地方でもっとも東に位置しているため、周辺地域観光の拠点としてはいまひとつな町。
エルヴァス観光は単体で考えて、エヴォラやエシュトレモシュを拠点に周遊する方が便利です。
公共交通手段はあまり発展していないアレンテージョ地方では、レンタカーを借りるのが一番手っ取り早い手段。
バス等で各町を周遊する場合は、本数が少ないため、1日に数か所観光してまわるのはかなり難しいと考えておきましょう。
アレンテージョ地方の各町とを結ぶバスを運行しているのはRodalentejo社。
ほとんどのバスは地元の学生向けに運行されているものなので、旅行者的には少々不便なスケジュールのものが多いですが、不可能なこともありません。
ポルトガルの国内長距離バス路線を一括運行しているRede Expressos社も、本数は多くないものの各町を結ぶ路線を運行しています。
エヴォラ
アレンテージョ地方の中心都市であり、世界遺産の博物館都市としての顔も持つエヴォラ(Évora)は、この地域の観光&滞在の拠点となる町。
エヴォラからは
Rede expressos社:1日4本
Rodalentejo社:1日2~3本(平日のみ)
のバスが出ています。
エシュトレモシュ
エルヴァスの西に位置するエシュトレモシュ(Estremoz)は、丘の上に佇む白い町並みが魅力的。
アレンテージョ地方北部の交通のハブとして各方面にバスが出ているので、こちらを拠点に周遊するのもおすすめです。
エシュトレモシュ~エルヴァス間は
Rede expressos社:1日5本
Rodalentejo社:1日2~3本(平日のみ)
のバスが走っています。
ポルタレグレ
「ポルトガルの秘境」、サン・マメーデ山脈自然公園(Parque Natural da Serra de São Mamede)観光の拠点となるポルタレグレ(Portalegre)は、アレンテージョ地方の北東に位置する町。
天空の白い村・マルヴァン(Marvão)や、絶景の城塞があるカステロ・ヴィドゥ(Castelo Vide)など、穴場の観光スポットが点在する国立公園で、ぜひ足をのばしたい場所です。
エルヴァス~ポルタレグレ間は、
Rodalentejo社の8061番のバスが1日2本走っています。
交通の便が良くないエヴォラと周辺の地域を効率良くまわるなら、リスボン発着の日帰り現地ツアーがおすすめ。
エヴォラ市内観光はもちろん、近郊の神秘的なストーンサークルや「白い村」アライオロシュに立ち寄るものも多く、アレンテージョ地方名産のワインテイスティングが含まれているものまで選択肢は豊富です。
おわりに
町の規模は大きくないものの、スペインとポルトガルの間で揺れ動いた独特な歴史を持つエルヴァス。
実際に足を運んでみると、とにかく防衛を最重要に掲げて建設された「完璧な要塞都市」の姿に驚くはずです。
かつては戦いの最前線だった場所ですが、現在ではそんなことを感じさせないような、のんびりとしたポルトガル地方部の典型的な雰囲気が感じられるのも大きな魅力。
歴史に興味がある人はもちろん、スペインとポルトガルが混ざった独特な雰囲気を感じたい人にもおすすめの穴場の町です。
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