こんにちは!フランスに1年、ケベック州に4年在住していたのぶよ(@nobuyo5696)です。
微妙な人気を誇るケベックのフランス語を紹介するこのコーナー。
前回は、「フランス語では英語由来の言葉が使われるのに、ケベックではフランス語で表される単語」を紹介しました。
今回のテーマは、ケベックのフランス語のみで使われる動詞。
フランス人が聞いても「?」と首をかしげるようなこれらの表現。
あなたはいくつ知っていますか?
ケベックのフランス語独特の動詞1:tanner
毎日のルーティーンに疲れ切ったとき。
わがままばかりの恋人に嫌気がさしたとき。
長く凍てつく冬に心がくじけたとき。
言ってみましょう。“Chuis tanné(e)!”と。
tannerは、「疲れさせる」「飽き飽きさせる」といった意味の動詞で、主に形容詞として用いられます。
Chuis (=Je suis) tanné(e)は、「あーもうやだ」とか「うんざり」と言った感じのニュアンス。
être tanné de~で、「~にうんざり」といった熟語としても使えます。
こんな感じで使います
“Chuis tanné des gens qui sont paniqués à cause du coronavirus!”
「コロナでパニックになっている奴らにはもううんざり!」
※chuis=je suis
ケベックのフランス語独特の動詞2:barrer
Barrerは、「鍵を閉める」や「ブロックする」の意味を持つ動詞。
「ある場所がバー(遮断機)で仕切られていて入れない」というイメージです。
フランスのフランス語ではfermer à clefやbloquerにあたります。
モントリオール在住者なら一度は見たことがある”Rue barrée”という標識。
一年中終わりなき工事をしているモントリオールでは、通行禁止の通りが至る所で見られ、在住者には悩みの種となります。
こんな感じで使います
On est tellement tannés des rues barrées à Montréal!
「モントリオールの通行止めにはうんざり!」
ケベックのフランス語独特の動詞3:chialer
フランスでは「泣く(=pleurer)」という意味のchialerは、ケベックでは「文句を言う」「キィキィ言う」などの意味を持つ動詞。
フランスのrâler(文句をブツブツ言う)と同じ意味です。
“Les français chialent tout le temps!”と言ったら、フランス人が泣き虫なのではなく、「文句ばっかり言ってる」の意味になります。(ケベックではかなりよく聞くフレーズの一つ)
動詞chialerから派生したchialeux(-se)という形容詞もあり、こちらは「文句たらたらの」といった感じ。
こんな感じで使います
Tu parles toujours de ça? Aye, t’es bin chialeux!
「まだその話してんの?ああ、本当に文句ばっかり!」
※bin=bien/bon
ケベックのフランス語独特の動詞4:brailler
フランスでは「叫ぶ(=crier)」といった意味のbraillerですが、ケベックでは「泣く」という意味。
pleurerが「シクシク泣く」といったニュアンスなのに対して、braillerは「声を上げて泣く、嗚咽する」といった意味があります。
こんな感じで使います
Arrête de brailler, ça change rien!
「泣くのやめろよ!何にも変わらないでしょ!」
ケベックのフランス語独特の動詞5:niaiser
niaiserは、ケベック独特の表現でフランスのフランス語には訳しにくいものです。
「からかう」「意地悪をする」などの意味があり、どちらかと言うとネガティブなニュアンスがあります。
形容詞のniaiseux(-se)、名詞のniaiserieなどの派生形などもあり、「うざい(こと)」という意味で用いられることも。
言い方によって、「冗談」くらいの軽いニュアンスのことも、「まじ、うっざ」というシリアスなニュアンスのこともあるので、なかなか使いづらい表現ではあります。
こんな感じで使います
・Tu me niaises-tu?
「馬鹿にしてんの?」
・Arrête de niaiser!
「冗談よせよ」
ケベックのフランス語独特の動詞6:sacrer
キリスト教のles sacres(祈りの言葉)を語源とする動詞sacrerですが、神聖さとは全く関係ない意味を持ちます。
ケベックでsacrerとは、「汚い言葉を使って罵る」と言う意味。
英語のFワードにあたります。
そもそも、ケベックの汚い言葉の多くは、もともとは教会に関連する単語ばかり。
・Tabarnack
・Câlisse
・Osti
など、もともとは教会で使われる「盃」や「聖杯」などを指す言葉が転じて、汚い罵り言葉へと変化したのです。
なので、sacrerの意味も「神聖なことをする→(教会に関連した)汚い言葉で罵る」となったのでしょう。(英語の”swear”と同じ変化です)
ちなみに、ケベックの汚い言葉は、フランスのそれ(putainなど)よりも何十倍も強い意味があるので、使わないに越したことはありません。
こんな感じで使います
C’est pas beau de sacrer comme ça, tu vas être mal vu!
「そうやって汚い言葉を使うのは良くないよ、印象悪くなるから!」
※beau=bon/bien
ケベックのフランス語独特の動詞7:maganer
こちらもケベック独特のmagasiner(買い物する)という動詞にスペルが似ているmaganerという動詞は、主に形容詞(être magané)や再帰動詞(se maganer)として用いられます。
「ダメにする」「消耗させる」(=abîmer/endommager)といった意味で、物に使えるのはもちろん、人に対しても使われます。
こんな感じで使います
Chuis magané…
「もうヘトヘト…」
ケベックのフランス語独特の動詞8:capoter
「車のボンネット)」や「コンドーム」の意味を持つune capoteという名詞から派生した動詞capoterは、かなりの頻度で使われますが、別に性的な言葉ではありません(笑)
「狭いところに自分が閉じ込められている」というイメージから「パニックにさせる」「頭がおかしくなるほど怒らせる」「ブロックする」というネガティブな意味の動詞です。
しかしながら、文脈によっては良い意味に転じることもあるのがややこしいところ。
形容詞化したêtre capotéという形で良く使われ、日本語でいうと「(パニックになるほど)ヤバい!」といったところ。
良い意味にも悪い意味にもなる点も同じです。
こんな感じで使います
・On va devoir changer notre plan de voyage à cause du coronavirus! Osti que ça me capote!
「コロナのせいで旅行のプラン変えないといけないなんて!あーまじでむかつく!」
・Hier j’ai croisé Céline Dion avec son chien!! J’étais tellement capoté là!
「昨日犬連れたセリーヌ・ディオンがいてさ!まじヤバかった!」
ケベックのフランス語独特の動詞10:jaser
ケベックで毎日使われるjaserは、「おしゃべりする」という意味の動詞。
フランスのフランス語だとbavarderにあたります。
元々は鳥がさえずることを指した動詞が転じたもので、twitterの「つぶやき」に似たような意味の転換が見られます。
(英語”tweet”の元々の意味は「鳥のさえずり」)
フランスでは「悪口を言う」「噂する」という意味があるjaserですが、ケベックでは純粋にお喋りすることのみを表します。
なので、”On a jasé de toé”は別に悪口を言っていたわけではありません(笑)
こんな感じで使います
On a jasé toute la nuit hier.
「昨日は一晩中ずっと話してた」
ケベックのフランス語独特の動詞11:poigner
「手首」を意味するpoignetから派生したpoigner(poiner)の基本の意味は、フランス語のprendre(取る)と同じ。
そこから派生して色々な表現に使われますが、全て「(手を使って)つかみ取る」というイメージが原型となっています。
こんな感じで使います
・L’as-tu poigné?
「わかった?」
(意味を)捉える→わかる
・J’ai pogné un virus.
「病気になった」
(ウイルスを)つかむ→病気になる
・Chuis poigné là! J’sais pas c’qui se passe.
「どうしよう!何が起こってるのかわかんない」
(何かに)つかまれる→ブロックされる→動けない→どうしよう
ケベックのフランス語独特の動詞12:gosser
フランスではun gosseは「男の子」のことですが、ケベックではune gosseは「男性の玉」を表します。
(なので常に複数形 des gossesを用いる)
フランス人マダムが”J’ai deux gosses”「男の子が二人いるのよ」と言うと、ケベコワにとっては「私、玉二つあるのよ」となります(笑)
そこから派生した動詞gosserは、もちろん悪い意味。
「イライラさせる」「むかつかせる」というニュアンスで、フランスの”casser les couilles”とほぼ同じ意味です。(couilles=フランスでは「男性の玉」)
こんな感じで使います
Pour de vrai, ça me gosse qu’a danse avec son chum de gars!
「ぶっちゃけ、彼女が男友達と踊ってんのまじ腹立つ!」
※pour de vrai=honnêtement
※A=elle
※son chum de gars=son copain
ケベックのフランス語独特の動詞13:frencher
最後の動詞が、英語の”french”(フランス人)に-erを付けて動詞化したfrencher。
直訳すると「フランス人をする」となるのですが、一体どういう意味でしょうか。
正解は、「ディープキスをする」。
フランス人=ディープキスというイメージなのかはわかりませんが、とにかくそうゆうことのようです(笑)
仏語のen(アン)と英語のch(チ)が混じって、「フランチェ」と発音されます。
ちなみに「チュッ」とするキスは”donner un bec”。
becは鳥のくちばしのことなので、イメージするとちょっと可愛らしい表現です。
こんな感じで使います
Y’a pas arrêté de me frencher, ce maudit français!
「あのフランス人、ずーっとキスし続けてきたのよ!」
※Y=il(彼)
※maudit français=直訳は「呪われたフランス人」という意味。ケベック在住のフランス人に対する蔑称としても愛称としても用いられる。
おわりに
というわけで、ケベックでしか使われない(もしくはフランスとは全く意味が異なっている)動詞を紹介してきました。
ニュアンスなどは完全に個人的に訳したものなので、もっと良い訳がある場合などはぜひ教えてください。
動詞だけでこんなにも違うものがあるのに、名詞編はいったいどうなってしまうのでしょうか(笑)
次回に乞うご期待!
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