こんにちは!ポルトガルのポルトガル語学習中ののぶよです。
ポルトガル語の学習を始めようとする人が最初に直面する問題に「どこのポルトガル語を学習するか」というものがあります。
ポルトガル語は世界中で2億5000万人の話者数を誇る、世界で7番目に話者数の多い言語。
その人口の80%にあたる2億人はブラジル人。
ポルトガル人の人口は、4%にあたる1000万人ほどしかありません。
つまり、話者数で考えると、ポルトガル本国のポルトガル語よりブラジルのポルトガル語の方がかなりメジャーなわけです。
ここで一つ疑問が生まれます。
「ポルトガル語のポルトガル語とブラジルのポルトガル語はそんなに違うの?」
結論から言います。
かなり異なります。
ポルトガル語を知らない人が聞くと、もはや別の言語のように聞こえることでしょう。
今回の記事では、そんなポルトガルとブラジルのポルトガル語の大きな違いを、発音・文法・語彙の三つの面から紹介していきます。
ポルトガルとブラジルのポルトガル語の違い1:発音編
まず大きく異なるのは発音です。
ブラジルのポルトガル語が口を大きく開けて話されるのに対して、ポルトガルのポルトガル語は口をあまり開けずに話されます。
ポルトガルのポルトガル語を初めて聞く人は、「なんだかボソボソ話してる」とか「ロシア語に似ている」という感想を持つそう。
最大の違いは母音!
ブラジルのポルトガル語の母音は比較的シンプルで、“a, e, i, o, u”の基本母音5つのみ。
ポルトガルでの母音はこの基本母音に加えて、狭母音や曖昧母音といった口をあまり開けずに発音される母音があり、それらは基本母音と明確に区別されます。
ポルトガルのポルトガル語でややこしいのが、単語の中の母音の位置によって母音の発音が変わるという点でしょう。
ポルトガルとブラジルで異なる発音の母音の例
“Ponto” (ポイント)という単語は、ブラジルでは書かれたとおりに「ポント」と発音されますが、ポルトガルでは語末のoは狭母音となるので「ポントゥ」という発音になります。
“tarde” (午後) という単語は、ブラジルでは語末のeは”i”の発音になるので「タルヂ」、ポルトガルでは中舌母音(曖昧母音)になるので「タルドゥ」という発音になります。
難しく聞こえるかもしれませんが、実際に耳が慣れてくると、少し会話しただけでポルトガル人かブラジル人かわかるようになりますよ。
“s”の発音
ブラジルのポルトガル語では、sは文字通り「ス」、「ズ」と発音されます。
ポルトガルでは、語末のsは基本的に「シュ」の発音になり、他の場所に置かれたsは「ス」「ズ」の発音になります。
これがポルトガルのポルトガル語がロシア語のように聞こえる理由なのではないかとのぶよは思います。
ロシア語もこの「シュ」の音がよく聞こえますから。
“i”を入れたがるブラジルのポルトガル語
ブラジルのポルトガル語の発音の特徴として、語末の”s”の前に書かれていない”i”の発音がしばしば現れることが挙げられるでしょう。
例
“mas” (しかし)
ポルトガル:「マシュ(ジュ)」
ブラジル:「マイス」
“arroz” (ご飯)
ポルトガル:「アホーシュ」
ブラジル:「アホイス」
ポルトガルとブラジルのポルトガル語の違い2:文法編
ポルトガルのポルトガル語とブラジルのポルトガル語では、文法が多少異なります。
どちらの文法に則って話してもお互いに通じ合えますが、少し知っておくとおもしろいですよ。
tuの活用
ラテン語由来のポルトガル語では、フランス語やスペイン語と同様に、主語人称代名詞によって動詞を活用させます。
“eu (私)” “você (あなた)” “vocês (あなたたち)”の活用はポルトガル・ブラジルで全く同じですが、その他の主語の時は事情が異なります。
ブラジルでは、相手のことを主語に置くときは、相手との関係性にかかわらず “você (あなた)”が使われます。
ポルトガルでは、”você (あなた)”は改まった表現。友達同士では “tu”が使われます。
もちろん主語によって動詞の活用も変わってくるので、ポルトガルのポルトガル語を学習するなら活用形を一つ多く覚えなければなりません。
(例)「どこへ行っていましたか。」
ポルトガル:Onde você foi? (丁寧) / Onde tu foste?(カジュアル)
ブラジル:Onde você foi? (丁寧/カジュアル)
「私たち」を表す”A gente” vs “Nós”
引き続き主語人称代名詞のお話です。
ブラジルでは、「私たち」という時には、“A gente (ア ジェンチ)”を使います。
もともとは「人々」を表すこの単語が転じて、「私と一緒にいる人々の総称」を指すようになりました。
動詞の活用は、3人称単数形 (você, ele, ela)と同じなので、活用がかなり楽なのがポイント。
一方のポルトガルでは、”A gente” は使われず、“Nós (私たち)”が使われます。
動詞の活用も異なるため、ブラジルのポルトガル語もう一つ多くの活用形を覚える必要があります。
(例)「私たちはリスボンへ行きました」
ポルトガル:Nós fomos a Lisboa.
ブラジル:A gente foi a Lisboa. (vocêの活用と同じ)
代名詞の場所と縮約形
ブラジルのポルトガル語では、代名詞(私に、私を、彼に…)は常に動詞の前に置かれます。
慣れてしまえばかなり楽なルール。
ポルトガルでは、代名詞は基本的に動詞の後にハイフン(-)をつけて置かれます。
(例)「あなたは私に本を買ってくれた」
ポルトガル:Tu compraste-me um livro.
ブラジル:Você me comprou um livro.
ポルトガルでは否定文・疑問文・従属節(queの後)などでは、代名詞を前置するのです。
ブラジルのポルトガル語ではどんなことがあろうと代名詞は動詞の前。
語順を変える必要はありません。
(例)「あなたは私に本を買ってくれなかった」(否定文)
ポルトガル:Tu não me compraste livro.
ブラジル:Você não me comprou livro.
しかし話はここで終わりません。
ポルトガルのポルトガル語には代名詞の縮約形というものがあります。
上の例文の”um livro (本)”を代名詞化して縮約することができるんです。
英語で言うと、”You gave me a book”→”You gave it to me”と代名詞”it”を使うことにあたります。
(例)「あなたは私に本を買ってくれた」
Tu compraste-me um livro.→Tu compraste-mo.
:「私に」を表すme + 「その本(男性名詞)」を表すlo = me lo → “mo”
この代名詞は名詞の性、単数複数によって変化するのでかなりややこしいです。
一方のブラジルのポルトガル語ではこの縮約形はほとんど使われません。
Vocêの三人称単数代名詞としての使用
ブラジル人はとにかくvocêが大好き。
「あなたに」「あなたを」「あなたのために」など、相手に関して話す全てにおいてvocêで済ませます。
ポルトガルではこれらの代名詞はいちいち形が変わるのでかなり複雑。
下の表を見てください。
ポルトガル | ブラジル | |
あなたを | o(相手が男性)/a(相手が女性) | você |
あなたに | lhe(男女共通) | você |
あなたのために | para si | para você |
あなたと | consigo | com você |
あなたなしで | sem si | sem você |
皆さん、大丈夫ですか~?ついて来られてますか~?(笑)
ブラジルはとにかくvocêか前置詞+vocêでOKですが、ポルトガルでは前置詞の種類、直接目的語、間接目的語などによって細かく使い分けられます。
このすでに複雑なルールの上に、代名詞の縮合形まで組み合わせるんだから、ポルトガル人は只者ではありません。
(例)「私はあなたに(数冊の)本を買ってあげた」
ポルトガル:Eu comprei-lhe livros →Eu comprei-lhos.
ブラジル:Eu comprei livros para você.
「あなたに」を表すlhe + 「それらの本(男性名詞)」を表すlos = lhe los → “lhos”
ポルトガルとブラジルのポルトガル語の違い3:語彙編
ここまで発音面、文法面におけるポルトガルとブラジルのポルトガル語の違いを見てきました。
ここからは、例を挙げればきりがない単語や表現など語彙面での違いを見ていきましょう。
ポルトガル | ブラジル | |
朝食 | Pequeno almoço | café de manhã |
電車 | comboio | trem |
バス | autocarro | ônibus |
タクシーに乗る | apanhar um táxi | pegar um táxi |
テレビを見る | ver a televisão | assistir à televisão |
すごい! | fixe | legal |
男/女の人 | senhor/senhora | moço/moça |
セーター | camisola | suéter |
運転する | conduzir | dirigir |
これらはただの一例にすぎません。
語彙面ではポルトガルとブラジルの間でかなり開きがあり、ポルトガル学習者にとっては悩みの種になります。
ポルトガル人とブラジル人、お互いに通じ合える?
ここまで発音・文法・語彙に開きがあると、「ポルトガル人とブラジル人のポルトガル語での会話は成り立つのか」という疑問を持ちます。
どんなに違いが大きいとしても、そこは一応同じ言語。
もちろん通じ合えます。しかし、100%ではありません。
ブラジルのテレビ番組などがよく放映されていて、かなり多くのブラジル人が人口を抱えるポルトガルの人々はブラジルのポルトガル語をほぼ100%理解できます。
何より、ブラジルのポルトガル語はポルトガルのポルトガル語をシンプルにしたバージョン。
より複雑なルールや発音を持つポルトガル人にとっては朝飯前といったところです。
反対に、ブラジルでは、ポルトガルのテレビ番組を見ている人はまずいません。
発音・文法などにおいてポルトガルのポルトガル語はブラジルのものよりもかなり複雑なので、耳が慣れていないと同じ言語でもなかなか理解に苦しむそうです。
のぶよのブラジル人の友人は「時々街の人が何を言ってるのかわからない時がある」と言っていました。
結局ポルトガルとブラジル、どちらのポルトガル語を学ぶべき?
さて、ポルトガルのポルトガル語とブラジルのポルトガル語、どちらを学ぶべきかという疑問に関して。
好みでいいんじゃないでしょうか(笑)
実用的かつメジャーなのは圧倒的にブラジルのポルトガル語です。
文法も簡単ですし、2憶人の話者数がいることは大きな利点。
また、ブラジルのポルトガル語は日本語で書かれた参考書やリスニング教材も豊富で、学習を始めやすいです。
ポルトガルのポルトガル語は、実用面においてはブラジルに敵いません。
日本語で書かれた教材は限られており、文法もやや難しいので、ゼロから始めるのは少しハードルが高いと言えます。
しかし、ポルトガルのポルトガル語の美しく柔らかい響きは、ブラジルポルトガル語の開放的で情熱的なアクセントとは別の魅力があるのも事実。
のぶよ個人的には、ポルトガルのポルトガル語から入った方が、ブラジルのポルトガル語も自然と聞き取れるようになるのでおすすめです。
ブラジルのポルトガル語から学び始めても、ポルトガルのポルトガル語は自然に理解できるようにならないと思います。
それだけ発音が異なって複雑だということです。
というわけで、ポルトガルとブラジルのポルトガル語の違いを解説してきました。
「どうしてもポルトガルのポルトガル語を勉強したい!」というのぶよのような物好きな人のお役にたちますように!
コメント
こんにちは。
通りすがりのものです。
以前ブラジルに住んでいたことがあります。勉強になりました。助かります。ただ一つだけ。
ブラジルポルトガル語でarrozはアロイスではなくて、アホイスが正しい発音ですよ。
『rr』のようにrが二つ続くとハ行の発音になると思いますよ。
こんにちは、コメントありがとうございます。
本当ですね!今記事を再確認して訂正させていただきました。
ご指摘ありがとうございます。